バルサルタンは妊婦または妊娠している可能性のある女性に対して絶対禁忌とされています。この禁忌の背景には、胎児への重篤な影響があります。
妊娠中期から末期にかけてバルサルタンを投与された場合、以下のような深刻な胎児・新生児への影響が報告されています。
特に注目すべきは、実際の症例報告として、バルサルタン/アムロジピン配合剤を服用していた30歳代女性において、妊娠24週まで服用を継続した結果、羊水過少、早産、出生児の頭蓋冠低形成、腎尿細管障害などが発生した事例が報告されていることです。
妊娠する可能性のある女性に対しては、投与前に妊娠の可能性を確認し、胎児に与える影響について十分に説明することが重要です。また、投与中に妊娠が判明した場合は、直ちに投与を中止し、他の治療法への変更を検討する必要があります。
腎機能障害患者におけるバルサルタンの使用は、特に慎重な判断が求められます。重篤な腎機能障害(血清クレアチニン値が3.0mg/dL以上)のある患者では、投与量を減らすなど慎重に投与する必要があります。
腎機能障害患者で特に注意すべき病態。
バルサルタンは主に胆汁中に排泄されるため、腎機能障害患者でも蓄積しにくいとされていますが、腎機能の悪化により体液バランスや電解質異常が生じやすくなります。
定期的な腎機能モニタリングが必要で、血清クレアチニン値、eGFR、血清カリウム値の測定を行い、腎機能の悪化を示す検査値の変動が見られた場合は、減量や中止を検討する必要があります。
高カリウム血症の患者においては、バルサルタンの投与により高カリウム血症を増悪させるおそれがあるため、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与は避けることとされています。
バルサルタンが高カリウム血症を引き起こすメカニズム。
高カリウム血症のリスクが特に高い患者群。
高カリウム血症の症状は初期には無症状のことが多く、進行すると手足のしびれ、筋力低下、全身倦怠感、不整脈などが現れます。重症化すると致死性不整脈を引き起こす可能性があるため、定期的な血清カリウム値の監視が不可欠です。
アリスキレンを投与中の糖尿病患者に対するバルサルタンの併用は、原則として禁忌とされています。ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者は除外されています。
この禁忌の根拠となっているのは、大規模臨床試験での知見です。アリスキレンとバルサルタンの併用により、以下のリスクが増加することが報告されています。
特に、eGFRが60mL/min/1.73m²未満の腎機能障害のある患者へのアリスキレンとの併用については、治療上やむを得ないと判断される場合を除き避けることが推奨されています。
併用が必要な場合の注意点。
レニン・アンジオテンシン系の過度な抑制により、これらの副作用リスクが増大するため、併用する場合は十分な注意が必要です。
肝機能障害患者、特に胆汁性肝硬変及び胆汁うっ滞のある患者では、バルサルタンの血中濃度が上昇するおそれがあるため、投与量を減らすなど慎重に投与する必要があります。
バルサルタンの肝臓での代謝と排泄の特徴。
外国での研究データによると、軽度から中等度の肝障害患者では、バルサルタンの血漿中濃度が健康成人と比較して約2倍に上昇することが報告されています。
肝機能障害患者での処方時の独自配慮点。
特に胆汁うっ滞のある患者では、胆汁中への排泄が著しく低下するため、血中濃度の上昇がより顕著になる可能性があります。このような患者では、より慎重な用量調整と頻繁なモニタリングが必要となります。
また、肝硬変患者では門脈圧亢進症により腎血流量が低下していることが多く、バルサルタンによる腎機能への影響も同時に考慮する必要があります。肝腎症候群のリスクがある患者では、特に注意深い観察が求められます。
バルサルタンの適正使用においては、これらの禁忌疾患と慎重投与が必要な病態を正確に理解し、個々の患者の状態に応じた適切な判断を行うことが、安全で効果的な治療につながります。定期的な検査による監視と、患者への十分な説明を通じて、副作用の早期発見と適切な対応を心がけることが重要です。