造影CT1回で、患者の体内には約13.5mgのヨードが入る。それを知らずに投与判断しているとしたら、リスク評価が根本から変わるかもしれません。
添付文書に書かれている「禁忌」「原則禁忌」「慎重投与」は、それぞれ意味が異なります。この3つを混同すると、必要な検査を過剰に制限したり、逆にリスクを見落としたりする原因になります。
まず「禁忌」は、原則として投与してはならない患者を指します。ヨード造影剤の添付文書では、①ヨードまたはヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者、②重篤な甲状腺疾患のある患者、の2項目のみが「禁忌」です。つまり禁忌はたった2つが基本です。
次に「原則禁忌」は、本来禁忌に相当するが、診断・治療上どうしても必要な場合には慎重に投与できる、という位置づけです。造影剤使用によるメリットが副作用リスクを上回ると判断される場合が該当します。一般状態の極度に悪い患者、気管支喘息、重篤な心障害・肝障害・腎障害、マクログロブリン血症、多発性骨髄腫、テタニー、褐色細胞腫(疑い含む)が「原則禁忌」の代表例です。
「慎重投与」はリスクが高い患者に対して通常より注意を払って投与する区分で、アレルギー体質、薬物過敏症の既往歴、腎機能低下、糖尿病、急性膵炎などが含まれます。リスクがあっても「慎重投与」が可能ということです。
ここで重要な実務的ポイントは、「禁忌」と「原則禁忌」を同列に扱わないことです。現場では「気管支喘息=造影禁止」と認識されていることがありますが、気管支喘息は「原則禁忌」であり、コントロールされていれば実施可能な場合があります。添付文書が原則です。
| 区分 | 意味 | ヨード造影剤の主な対象 |
|---|---|---|
| 🚫 禁忌 | 原則として投与してはならない | ヨード・造影剤過敏症の既往、重篤な甲状腺疾患 |
| ⚠️ 原則禁忌 | 禁忌に準じるが、必要時は慎重に投与可 | 気管支喘息、重篤な心・肝・腎障害、褐色細胞腫、多発性骨髄腫など |
| 🔶 慎重投与 | 注意しながら投与できる | 腎機能低下、糖尿病、アレルギー体質、急性膵炎など |
参考:ヨード造影剤の禁忌・原則禁忌項目の解説(北海道労災病院 造影剤投与可否の判断基準PDF)
造影剤の投与可否の判断基準について(北海道労災病院)
「ヨード造影剤の副作用歴がある患者には、今後一切の造影検査は行えない」と考えている医療者は少なくありません。しかし、これは必ずしも正確ではありません。意外ですね。
添付文書では確かに「ヨードまたはヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」は「禁忌」と記載されています。しかし、実際には副作用の「重症度」によって対応は大きく異なります。北海道労災病院が公開している造影剤投与可否の判断基準によれば、「軽度」の副作用歴のみの場合は「禁忌」とすべきではないという見解が示されています。
重要な点は、ヨード過敏症の大半は「ヨードそのもの」ではなく、ヨードに結合している化学組成が原因であることが多いとされていることです。つまり造影剤の種類が条件です。そのため、過去に副作用を起こした造影剤と異なる造影剤を使用した場合、副作用が出なかった事例が数多く報告されています。
中等度以上の副作用歴がある場合は造影検査をなるべく回避することが原則ですが、代替検査がどうしても困難な場合は、以下の対応を行ったうえで実施することが選択肢になります。
なお、重篤なアナフィラキシーの既往がある場合は、このような代替措置でもリスクが著しく高く、原則として造影検査は行わないことが求められます。禁忌に注意すれば大丈夫です。
「甲状腺疾患があれば造影剤はすべてNG」と思い込んでいると、患者に不必要な機会損失を与える可能性があります。
添付文書の「重篤な甲状腺疾患のある患者」という禁忌は、主に「甲状腺機能がコントロールされていない甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」を指します。その理由は、ヨード造影剤1回あたり約13.5mgという大量のヨードが体内に入ることで、甲状腺ホルモン合成の自己調節メカニズムが破綻し、甲状腺クリーゼを誘発するリスクがあるためです。甲状腺クリーゼは致死率が20〜30%に達するとされる重篤な病態です。
一方、甲状腺機能がチラーヂンS(甲状腺ホルモン製剤)でコントロールされている甲状腺機能低下症患者や、治療によって甲状腺機能が正常化している患者には、大きな問題なく使用できると考えられています。これは、禁忌ではなく慎重投与に相当する区分です。
また、橋本病(慢性甲状腺炎)患者で甲状腺機能が正常範囲内にある場合も、禁忌には該当しません。注意が必要なのは造影剤使用後に甲状腺ホルモン値が変動する可能性があるため、造影検査後数か月間は甲状腺ホルモン値のフォローが推奨される点です。
さらに、ヨード造影剤を使用すると体内にヨードが大量に取り込まれた状態になります。そのため、造影剤使用後2カ月間は放射性ヨード(I-131)を使った甲状腺の検査・治療が原則として行えません。RI検査の前に造影CTが施行されると、検査の精度が著しく低下するため、手順の調整が必要です。これは見落としやすいポイントですね。
参考:甲状腺専門医によるヨード造影剤と甲状腺疾患の詳細解説
ヨード造影剤と甲状腺(長崎甲状腺クリニック大阪・日本甲状腺学会認定専門医)
メトホルミンを服用中の患者に、「念のため当日だけ休薬してもらえば大丈夫」と判断したことはありませんか。実はその判断、添付文書の指示とは異なる可能性があります。
ヨード造影剤とビグアナイド系糖尿病薬(代表薬:メトホルミン)の問題は、「乳酸アシドーシス」のリスクです。乳酸アシドーシスは、いったん発症すると致死率が約25%と報告されている重篤な副作用です。痛いですね。
そのメカニズムはシンプルです。ヨード造影剤を投与すると一過性に腎機能が低下することがあります。腎排泄型の薬であるメトホルミンは、腎機能が落ちると血中濃度が上昇します。その結果、体内で乳酸が蓄積してアシドーシスを来すリスクが高まります。
国内のビグアナイド系経口血糖降下剤の添付文書(2022年9月改訂)では、緊急検査を除き「造影剤使用前後の内服中止」が明記されています。具体的な休薬基準は以下のとおりです。
| 腎機能(eGFR) | 休薬の対応 |
|---|---|
| eGFR 60 mL/分/1.73㎡ 以上 | 造影後48時間の内服中止(造影前の休薬不要とする施設もあり) |
| eGFR 30〜60 mL/分/1.73㎡ | 検査当日から造影後2日間は内服中止 |
| eGFR 30 mL/分/1.73㎡ 未満 | 原則として造影検査を実施しない(施設によって異なる) |
なお、欧州のESURガイドライン(Version10.0、2018年改訂)では休薬基準がeGFR<30に緩和されており、日本糖尿病協会のRecommendation(2020年改訂)でも造影前の内服中止の記載が削除されていますが、国内の添付文書は依然として造影前後の中止を指示しています。施設ごとの方針と最新のガイドラインを照らし合わせながら対応することが大切です。
参考:ビグアナイド系薬とヨード造影剤の休薬に関する詳細(日本医学放射線学会)
ヨード造影剤(尿路・血管用)とビグアナイド系糖尿病薬との併用について(日本医学放射線学会)
「急性膵炎には造影CTは禁忌」という認識が今も一部の医療者の間に残っています。しかし2012年以降、この認識は添付文書上でも公式に否定されています。
もともと非イオン性ヨード造影剤の添付文書は、かつてのイオン性造影剤の基準を引き継いで作成されており、発売当初から「原則禁忌」の項目に「急性膵炎」が記載されていました。一方、急性膵炎の重症度判定や治療方針の決定に造影CTが有用であることは、「急性膵炎診療ガイドライン第3版」(2010年)で明記されていました。
そこで、国内外の添付文書・ガイドライン・文献・副作用報告などが網羅的に調査されました。調査の結果、造影CTによって急性膵炎が増悪した症例は確認されず、リスクについても一定の傾向が認められないことが確認されました。これを受け、2012年に企業の自主改訂として急性膵炎の記載が「原則禁忌」から「慎重投与」に変更されました。古い認識のままでは損です。
現在の添付文書では、急性膵炎患者への造影CT施行時は「適切な輸液(ガイドライン等に基づく十分な補液)」を行うことが「重要な基本的注意」として求められています。輸液が条件です。
この変更がすべての製品に適用されたわけではない点も、実務上注意が必要です。以下の製品には当初から「急性膵炎」の原則禁忌記載がなかったため、添付文書の変更対象外となっています。
なお、内視鏡的逆行性膵胆管撮影(ERCP)を目的とした造影については、急性膵炎の診断目的には原則として実施しないとされています。胆石性膵炎などで胆管炎の合併が疑われ、内視鏡的治療が前提となる場合に限って実施が許容されます。
参考:日本医学放射線学会による急性膵炎の原則禁忌変更の詳細通知
ヨード造影剤添付文書の「原則禁忌」であった急性膵炎の「慎重投与」への変更について(日本医学放射線学会)
「eGFRが低いから造影CTは絶対できない」と即断するのは、実は現行ガイドラインとも齟齬があります。腎機能と造影剤の関係は、閾値だけで語れるものではありません。
造影剤腎症(CIN:Contrast-Induced Nephropathy)とは、ヨード造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニン(SCr)が前値より0.5 mg/dL以上または25%以上増加した場合と定義されます。「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018」(日本腎臓学会・日本医学放射線学会・日本循環器学会 合同)によれば、経静脈的造影剤投与では、eGFR<30 mL/min/1.73㎡未満の場合に予防策を講ずることが推奨されています(推奨グレードB)。
見逃されがちなのは、「経動脈投与(心臓カテーテルなど)」と「経静脈投与(造影CT)」でリスクが異なる点です。経動脈投与ではeGFR<60を基準に予防策が推奨されますが、経静脈投与ではeGFR<30が基準となります。つまり造影CTではeGFR30以上なら対策なしで実施できるケースも多いのです。これは使えそうです。
造影剤腎症の予防としてガイドラインが推奨する唯一有効な手段は輸液です。薬剤(N-アセチルシステイン、アスコルビン酸、スタチンなど)は推奨しないとされており、予防的血液透析も推奨されません。具体的には以下の輸液プロトコルが参考にされています。
また、短期間反復検査(48時間以内の再造影)は腎機能へのダメージが重なるため推奨されていません。複数の造影検査が必要な場合は、スケジュールを十分に離すことが大切です。
一方、「片腎患者には造影剤が使えない」というのも過剰な思い込みで、片腎のみではCIN発症リスクを増加させるというエビデンスは明確ではないとされています。これも念頭に置いておくと、適切な検査機会を守ることにつながります。
参考:腎障害患者へのヨード造影剤使用の詳細ガイドライン(日本腎臓学会・日本医学放射線学会・日本循環器学会)
腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018(日本腎臓学会)