トラゾドンの効果とメカニズム

トラゾドンの抗うつ効果と睡眠改善効果について詳しく解説します。セロトニン再取り込み阻害作用と5-HT2A受容体遮断作用による独特な薬理学的機序から、臨床での適応と副作用まで包括的に理解できるでしょうか?

トラゾドンの効果

トラゾドンの主要な治療効果
🧠
抗うつ効果

セロトニン再取り込み阻害により気分を改善し、うつ症状を軽減します

😴
睡眠改善効果

5-HT2A受容体遮断作用により深い睡眠を促進し、中途覚醒を減少させます

🛡️
抗不安効果

セロトニン系の調整により不安症状を軽減し、精神状態を安定化させます

トラゾドンの作用機序と薬理学的特徴

トラゾドンは、SARI(セロトニン受容体拮抗/再取り込み阻害剤)として分類される独特な抗うつ薬です 。その作用機序は、セロトニン(5-HT)再取り込み阻害作用とセロトニン5-HT2A受容体遮断作用という、一見相反する2つの作用の総和により発現されます 。
参考)トラゾドン

 

セロトニン再取り込み阻害作用により、シナプス間隙のセロトニン濃度が増加し、うつ病患者で低下したセロトニン神経機能を亢進させます 。一方、5-HT2A受容体遮断作用により、うつ病・うつ状態に伴う睡眠障害を改善させる効果があります 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063030.pdf

 

動物実験では、ラット脳シナプトゾームを用いた研究において、トラゾドンはノルアドレナリンよりもセロトニンに対して強い取り込み阻害作用を示すことが確認されています 。また、α1およびα2受容体とセロトニン受容体に対して親和性を示しますが、ドーパミン受容体およびムスカリン性アセチルコリン受容体に対する親和性はほとんどありません 。
参考)トラゾドン塩酸塩錠25mg「アメル」の効能・副作用

 

トラゾドンの抗うつ効果の臨床的意義

トラゾドンの抗うつ効果は、100mg以上の投与量で得られるとされています 。国内の臨床試験では、1,040例を対象とした検討において、うつ病・うつ状態に対する有効率は52%(538/1,040例)と報告されています 。
参考)睡眠薬⑥ トラゾドン(レスリン)の効果・作用・副作用

 

抗うつ効果の発現には、セロトニン5-HT2A、5-HT2C受容体阻害作用とセロトニン再取り込み阻害作用によるドパミン系の調整が関与しています 。この複雑な薬理学的機序により、従来の三環系抗うつ薬とは異なる治療スペクトラムを有しています。
しかし、100mg以上の高用量使用時には眠気が強く出現するため、現在では主に睡眠薬として使用されることが多くなっています 。このため、抗うつ薬としてよりも、うつ病に伴う睡眠障害の改善を目的として処方されるケースが増加しています。
参考)睡眠に効果がある?

 

トラゾドンの睡眠改善効果と受容体メカニズム

トラゾドンの睡眠改善効果は、セロトニン5-HT2A受容体、ヒスタミンH1受容体、ノルアドレナリンα1受容体阻害作用による複合的なメカニズムで発現されます 。特に、セロトニン5-HT2A受容体阻害作用は睡眠の質を向上させる上で重要な役割を果たしています。
具体的な睡眠への効果として、以下の3つの主要な改善効果が報告されています。

  • 入眠困難の改善:寝つきの悪さを軽減し、睡眠導入を促進します
  • 中途覚醒の減少:夜間の覚醒回数を減らし、睡眠の継続性を向上させます
  • 深睡眠の増加:徐波睡眠を増加させ、より深い睡眠を促進します

    参考)公益社団法人 福岡県薬剤師会

     

セロトニン5-HT2A受容体遮断作用は、特に中途覚醒と早朝覚醒の改善に効果的であり、この作用により睡眠を深くし、途中で目が覚めてしまう回数を減らします 。トラゾドンの睡眠効果は約8時間持続し、25mgから200mgまで幅広い用量調整が可能である点も臨床上の利点です 。
参考)睡眠薬の種類と特徴:薬理作用からみた睡眠薬 - 脳神経まちだ…

 

トラゾドンの不眠症治療における独自の位置づけ

トラゾドンは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とは異なる独特な特徴を有しています。最も重要な利点として、耐性・依存性・反跳性不眠がないことが挙げられます 。このため、「睡眠薬を使わずに不眠を改善したいときに使う依存性がないお薬」として位置づけられています 。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)に伴う不眠症に対する効果も注目されており、トラゾドンを用いた研究では、9割以上で入眠が改善し、その後も8割の患者において良好な睡眠が維持されたとする報告があります 。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者でも使用可能であり、睡眠薬の容量(150mgまで)では、セロトニントランスポーター(SERT)は飽和しないため、抗うつ作用は示さず、純粋に睡眠改善効果を得ることができます 。

トラゾドンの副作用と注意すべき有害事象

トラゾドンの一般的な副作用として、承認時までの調査では以下の症状が1%以上の頻度で報告されています。

  • めまい・立ちくらみ・ふらつき(9.52%)
  • 眠気(8.17%)
  • 口渇(6.25%)
  • 便秘(3.94%)
  • 倦怠感(1.83%)

特に注意すべき副作用として、**持続性勃起症(priapism)**があります。これは男性の6000人に1人の割合で報告される稀な副作用ですが、緊急的な医学的処置を要する重篤な状態です 。海外では19時間持続した症例も報告されており、テルブタリンの投与や陰茎海綿体内への生理食塩水とフェニレフリン溶液の注入による治療が必要となった事例もあります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3583761/

 

重大な副作用として、QT延長、心室頻拍(torsade de pointesを含む)、心室細動、心室性期外収縮も報告されており、特に過量投与時には注意が必要です 。また、悪性症候群の発現も報告されているため、無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧変動、発汗、発熱等の症状に注意する必要があります 。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12582