単純疱疹と帯状疱疹の違い|原因・症状・治療法

単純疱疹と帯状疱疹はどちらも水疱を伴う疾患ですが、原因ウイルス、発症部位、症状の重症度、後遺症の有無など多くの点で異なります。適切な診断と早期治療のために、医療従事者として両者の違いを正確に理解できていますか?

単純疱疹と帯状疱疹の違い

単純疱疹と帯状疱疹の主な違い
🦠
原因ウイルスの違い

単純疱疹は単純ヘルペスウイルス、帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスが原因で、それぞれ異なるウイルスによって引き起こされます

📍
発症部位と症状の特徴

単純疱疹は口唇や性器など限定的な部位に発症し、帯状疱疹は体の片側に帯状の発疹が神経に沿って広がります

⚕️
治療と後遺症の違い

単純疱疹は後遺症がほとんどないのに対し、帯状疱疹は帯状疱疹後神経痛という重篤な後遺症を残す可能性があります

単純疱疹の原因ウイルスと感染経路

 

単純疱疹は単純ヘルペスウイルス(HSV)が原因で発症する感染症です。このウイルスには1型と2型があり、1型は主に口唇を中心とした顔面に、2型は性器を中心とした下半身に症状を引き起こします。感染経路は接触感染が主体で、1型では頬ずりやキスなどの直接接触、または食器やタオルなどを介した間接接触により感染します。2型は主に性行為を通じて感染し、発症している部位から他の性感染症への感染リスクも高くなります。単純ヘルペスウイルスは感染力が強く、直接的な接触の他にウイルスが付着したタオルやコップを介しても伝染する特徴があります。
参考)単純ヘルペスと帯状疱疹の違いについて

帯状疱疹の原因ウイルスと発症メカニズム

帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる疾患です。このウイルスは初感染時に「みずぼうそう」として発症し、治癒後も神経節に潜伏し続けます。加齢や疲労、ストレス、免疫抑制状態などにより免疫力が低下すると、潜伏していたウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。50歳以上で発症しやすくなり、年齢とともに重症化しやすい傾向があります。感染経路としては、帯状疱疹の水疱に直接触れることや、皮膚病変からウイルスがエアロゾル化したものを介して感染する可能性があります。水痘ワクチンを接種していない方や免疫抑制状態にある方は特に注意が必要です。
参考)ヘルペス・帯状疱疹の原因・治療|西荻窪駅前クリニック

単純疱疹と帯状疱疹の症状の違い

単純疱疹は口唇や性器の周辺など限定的な部位に発疹が生じる疾患で、左右問わず斑状に水疱が出現します。発症前にピリピリ、ムズムズといった違和感があり、その後赤く腫れ、小さな水疱が複数できます。痛みは軽度のピリピリとした感覚で、適切な治療により比較的早期に改善し、後遺症はほとんど残りません。一方、帯状疱疹は体の広い範囲に帯状に発疹が広がり、必ず体の片側(左右どちらか半分)にのみ症状が現れます。神経に沿って複数の部位で症状が現れることもあります。痛みは強いズキズキとした激しいもので、多くの患者が病院を受診せずにはいられないほどです。発疹が治まっても、20~30%の患者で帯状疱疹後神経痛という後遺症が残り、半年から数年にわたって痛みが持続する場合があります。
参考)帯状疱疹とは~帯状疱疹と単純疱疹(ヘルペス)~| 津久居皮ふ…

単純疱疹と帯状疱疹の診断と鑑別方法

単純疱疹の診断は、水疱性の発疹、赤みを帯びた腫れ、かゆみなどの臨床症状を確認することで行われます。多くの場合は視診のみで診断可能ですが、他の疾患との鑑別を目的にウイルス検査が行われることもあります。帯状疱疹の診断では、チクチクとした痛みや神経節に沿った典型的な発疹を視診で確認します。特徴的な症状として、体の左右どちらか片側に帯状の水疱が出現することが重要な鑑別ポイントとなります。非典型的な症例では、デルマクイックVZV®などの検査薬を用いて水疱内容物から抗原を検出し、確定診断を行うこともあります。両疾患とも水疱性の発疹という共通点がありますが、発疹の分布パターン(単純疱疹は限局性・斑状、帯状疱疹は片側性・帯状)と痛みの程度(単純疱疹は軽度、帯状疱疹は強度)が重要な鑑別点です。
参考)帯状疱疹とヘルペスはどう違うのか?

単純疱疹の治療法と再発抑制

単純疱疹の治療には、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬の内服が一般的です。症状に応じて外用薬も併用されます。早期に治療を開始するほど効果が高く、水ぶくれができる前の段階で治療を始めると軽症で済みます。抗ウイルス薬はバラシクロビルアシクロビル、ファムシクロビルなどがあり、ウイルスの遺伝子に作用して増殖を抑制しますが、神経節に潜伏しているウイルスを完全に排除することはできません。そのため、一度症状が治まっても再発を繰り返すことが特徴です。単純疱疹1型は年2回程度、2型では男性が年12回程度、女性で7回程度再発します。再発頻度が高い患者には、再発抑制療法として抗ウイルス薬の長期予防内服が検討されることもあります。治療期間中は、新生児、アトピー性皮膚炎患者、免疫抑制状態の方との接触を避けることが重要です。
参考)単純性疱疹

帯状疱疹の治療法と後遺症対策

帯状疱疹の治療では、発症後72時間以内に抗ウイルス薬を開始することが最も重要です。早期に治療を開始するほど痛みが軽く済み、帯状疱疹後神経痛などの後遺症も出にくくなります。抗ウイルス薬は7日間内服し、ウイルスの増殖を抑制します。治療薬の使用量は単純疱疹と比較して大量が必要です。痛みに対しては鎮痛剤を用いますが、一般的な鎮痛剤で効果が不十分な場合や睡眠に支障をきたす場合は、麻薬系の鎮痛剤を一時的に使用することもあります。発疹は7~10日で痂皮化し感染性がなくなりますが、20%以上の患者で1ヶ月後も疼痛が続き、10~15%の患者は発症後3ヶ月以上痛みが続く帯状疱疹後神経痛という状態になります。帯状疱疹後神経痛は60歳以上でハイリスクとされ、鈍く熱感のある突き刺すような痛みが続き、うつ病や不眠の原因となることもあります。後遺症を予防するためには、発症早期から抗ウイルス薬と神経ブロック注射を併用することが有効です。
参考)帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛

単純疱疹と帯状疱疹の予防戦略における違い

単純疱疹には現在、予防ワクチンが存在しません。そのため、予防の基本は感染者との接触を避けること、タオルや食器の共用を避けることです。既に感染している場合は、疲労やストレスを避け、免疫力を維持することで再発を抑制します。一方、帯状疱疹には50歳以上を対象とした予防ワクチンがあり、予防が可能です。日本では生ワクチン(1回接種、7,700円程度)と不活化ワクチン(2回接種、44,000円程度)の2種類が利用可能です。生ワクチンは安価ですが、免疫不全者や免疫抑制剤服用中の方には使用できません。不活化ワクチンは帯状疱疹の発症予防と神経痛の予防効果が非常に高く、免疫不全者でも接種可能です。帯状疱疹後神経痛の頻度は年齢とともに増加し、60歳以上はハイリスクとされるため、予防接種が重要な対策となります。医療従事者が水痘や帯状疱疹に曝露した場合、免疫の有無により対応が異なり、免疫のない医療従事者は曝露後予防として水痘ワクチン接種や就業制限が必要となります。
参考)単純ヘルペス

単純疱疹と帯状疱疹の治療上の重要なポイント

単純疱疹と帯状疱疹の治療において、共通して最も重要なのは早期治療の開始です。単純疱疹では、発疹が出現する前のピリピリとした違和感の段階で抗ウイルス薬を開始すると、症状を最小限に抑えられます。再発を繰り返す患者は、自身で再発の兆しを認識できるようになるため、早期治療が可能になります。帯状疱疹では、発症後72時間以内の抗ウイルス薬投与が後遺症予防の鍵となります。抗ウイルス薬の投与量も両疾患で大きく異なり、帯状疱疹では単純疱疹の数倍量が必要です。両疾患とも一度感染すると神経節にウイルスが潜伏し、完全な排除は不可能であるため、再発予防として免疫力の維持が重要です。帯状疱疹では、治療の遅れが頭痛、発熱、視力低下、難聴、麻痺、排尿障害などの全身的な症状や後遺症につながる可能性があります。特に高齢者や免疫抑制状態の患者では重症化リスクが高いため、積極的な早期治療と予防接種の推奨が医療従事者の重要な役割となります。
参考)帯状疱疹の後遺症|奈良、学園前かわたペインクリニック

参考リンク。
MSDマニュアル:単純ヘルペスウイルス感染症の詳細な診断と治療情報
医療従事者における水痘帯状疱疹ウイルスの曝露後対応と感染制御法

 

 


単純ヘルペス,水痘・帯状疱疹: 周辺疾患を含めて