神経変性疾患のうち大脳皮質や基底核を主に侵す疾患群には、代表的なものとしてアルツハイマー病があります 。アルツハイマー病は認知機能の低下を主症状とし、記憶障害から始まることが多く、脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積することが主な原因と考えられています 。
参考)神経変性疾患 - Wikipedia
パーキンソン病も基底核系の代表的な神経変性疾患で、安静時振戦、筋固縮、無動・寡動、姿勢反射障害の4大症状を呈します 。パーキンソン病では中年期以上に多く見られ、じっとしている時の手足の震えや動きの鈍さ、歩行障害を特徴とする運動障害が中心となります 。
参考)レビー小体病、パーキンソン症候群、アルツハイマー型認知症の違…
その他の基底核系疾患として、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病などが含まれます 。これらの疾患はそれぞれ異なる病原タンパク質の蓄積により特徴的な症状を示します。
小脳や脊髄を主に侵す神経変性疾患には、脊髄小脳変性症があります 。脊髄小脳変性症は一つの病気ではなく、小脳、脳幹、脊髄などの神経組織に変性が生じ、歩行時のふらつき、手の震え、ろれつが回らないなどの運動失調症状をきたす病気の総称です 。
参考)第21回 神経変性疾患 
脊髄小脳変性症には遺伝性のものと非遺伝性のもの(多系統萎縮症)があり、主な症状は手足の動きがコントロールしにくくなることで、千鳥足のような歩行時のふらつきや手の震え、構音障害などが現れます 。非遺伝性の多系統萎縮症では、さらにパーキンソン症状や起立性低血圧、排尿困難が併発することがあります 。
参考)ギランバレー、多発性硬化症、重症筋無力症、ALS、脊髄小脳変…
**筋萎縮性側索硬化症(ALS)**は脊髄の代表的な神経変性疾患で、脳や脊髄の運動神経細胞の数が減少することにより、手足の筋力がゆっくりと弱くなる病気です 。運動をつかさどる神経が障害を受けることで運動麻痺が発生し、手足の動きだけでなく、のどや舌、呼吸に関わる筋肉も障害されるため、重症化すると致命的になります 。
参考)代表的な神経変性疾患の一覧 
近年の神経変性疾患の分類では、神経細胞内の蓄積タンパク質に焦点を当てたプロテイノパチーという概念に基づいた分類が重要視されています 。同一の病原タンパク質が共通の病態を惹起するという考え方で、タウオパチー、TDP-43プロテイノパチー、FUSプロテイノパチー、αシヌクレイノパチー、トリプレットリピート病などが知られています 。
αシヌクレイノパチーには、パーキンソン病、レビー小体型認知症、純粋自律神経不全症が含まれ、これらはいずれもα-シヌクレインの凝集体であるレビー小体が出現するため、レビー小体病(LBD)と総称されています 。レビー小体型認知症では、パーキンソン病と同じα-シヌクレインの異常な神経細胞内凝集が原因と考えられており、変動する認知機能障害、具体的な幻視、レム期睡眠行動異常などが特徴的な症状です 。
参考)レビー小体病テキスト
タウオパチーには、アルツハイマー病、進行性核上性麻痺、前頭側頭葉変性症の一部などが含まれます。進行性核上性麻痺では、異常タウ蛋白が脳内の神経細胞とグリア細胞の両方に蓄積し、神経細胞の変性・脱落が進むとされています 。
参考)進行性核上性麻痺 - 独立行政法人国立病院機構 宇多野病院
神経変性疾患の中には、比較的希少な疾患や遺伝性の疾患も存在します。球脊髄性筋萎縮症は、成人発症の男性に限定される遺伝性疾患で、アンドロゲン受容体遺伝子におけるCAGリピートの異常伸長が原因となります 。球症状、下位運動ニューロン徴候、手指振戦、四肢腱反射低下などの神経所見を示し、アンドロゲン不全症候(女性化乳房、睾丸萎縮など)を伴うのが特徴です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000060398.pdf
シャルコー・マリー・トゥース病は末梢神経系の神経変性疾患として分類され、筋ジストロフィーやミオパチーは筋肉系の神経変性疾患として位置づけられます 。これらの疾患は遺伝的要因が強く、家族歴の聴取が診断において重要な手がかりとなります。
有棘赤血球舞踏病や副腎白質ジストロフィーなども希少な神経変性疾患として知られており、これらは特殊な検査や遺伝子診断が診断に必要となることが多く、専門的な医療機関での診療が推奨されます 。
神経変性疾患の診断には、各疾患に特異的な診断基準が設定されており、臨床症状、画像検査、電気生理学的検査、場合によっては病理学的検査が組み合わせて用いられます。パーキンソン病では、MDS(Movement Disorder Society)による最新の診断基準が使用され、病歴の聞き取り、ニューロロジカル検査、MRIやCTスキャン、ドーパミン機能検査などが診断に重要です 。
参考)早く知っておきたいパーキンソン病の診断基準【最新傾向に変化あ…
レビー小体型認知症の診断基準では、変動する認知機能、繰り返し出現する具体的な幻視、REM睡眠期行動異常症、パーキンソン徴候などが中核的症状として定義されており、向精神病薬への感受性亢進や自律神経障害などが支持する症状として挙げられています 。これらの症状の組み合わせにより、probable DLBやpossible DLBの診断が行われます。
筋萎縮性側索硬化症では、脊髄前角細胞の喪失と変性による下位運動ニューロン症候の確認、血清creatine kinase値の測定、筋電図での神経原性所見の検出、運動神経伝導速度の測定などが診断基準に含まれています 。これらの検査結果を総合的に評価することで、確実な診断に至ることができます。