流涎原因症状対策看護医療従事者

医療現場でよく見られる流涎について、その読み方から原因、症状、対処法まで詳しく解説します。看護師や医療従事者が知っておくべき流涎の基本知識と実践的な対策方法とは?

流涎の基本知識と医療現場での対応

流涎の基本知識と医療現場での対応
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流涎の正しい読み方と定義

りゅうぜん・りゅうせんと読み、唾液が口から漏れ出る状態を指す

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流涎の主な原因

嚥下障害、神経疾患、薬物の副作用など多岐にわたる

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医療現場での対策

薬物療法、リハビリテーション、看護ケアによる包括的アプローチ

流涎の正しい読み方と医学的定義

「流涎」は「りゅうぜん」または「りゅうせん」と読みます。よく「りゅうえん」と誤読されることがありますが、これは正しくありません。流涎は医学用語で、英語では「sialorrhea」と表現され、涎(よだれ)を垂れ流すことを指します。

 

📚 医学的定義

  • 唾液が口腔内に蓄積し、口から漏れ出てしまう状態
  • 単なる唾液分泌過多ではなく、口腔機能の問題も含む包括的な症状
  • 成人・高齢者だけでなく、小児にも見られる症状

流涎には広義の意味があり、口唇からの唾液の流出だけでなく、口腔後部への唾液の停留も含まれます。これは通常なら嚥下反射を誘発するはずの唾液が下咽頭に流入し、そのまま停留する状態を指します。

 

流涎の原因と病態メカニズム

流涎の原因は複雑で、主に以下の4つのカテゴリーに分類されます。
🔬 唾液分泌過多による流涎

🧠 神経系疾患による流涎

💪 口腔・咽頭機能障害による流涎

⚙️ 機械的要因による流涎

  • 不適合な義歯
  • 口腔内腫瘍による閉塞
  • 顎の骨折や関節脱臼

パーキンソン病患者では、自発的な唾液嚥下回数が正常の1.18回/分から0.8回/分に減少することが報告されており、これが流涎の主要な原因となっています。また、唾液量自体は正常または減少していることが多く、分泌量の問題ではないことが明らかになっています。

 

流涎症状の臨床的評価と診断

流涎の症状評価には、重症度と頻度の両面からアプローチする必要があります。

 

📊 重症度の評価基準

  • 軽度:口唇のみに限定される流涎
  • 中等度:顎や首周りまで及ぶ流涎
  • 重度:衣服まで濡れる流涎

頻度による分類

  • 稀:月に数回程度
  • ときどき:週に数回程度
  • しばしば:毎日数回
  • 持続的:常時流涎がある状態

医療従事者は、流涎の背景にある原疾患を特定するため、以下の点を詳細に評価する必要があります。
🩺 評価項目

  • 嚥下造影検査(VF)による嚥下機能の確認
  • 口腔咽頭通過時間の測定
  • 舌運動速度の解析
  • 薬歴の確認(特に抗精神病薬、抗パーキンソン薬)
  • 神経学的検査

パーキンソン病患者における研究では、流涎スコアと口腔咽頭通過時間の間に有意な相関関係(r=0.659)が認められており、嚥下機能の低下が流涎の主要因であることが示されています。

 

流涎に対する薬物療法と医学的治療

流涎の治療は原因に応じて選択され、薬物療法が第一選択となることが多いです。

 

💊 薬物療法の選択肢

  • 抗コリン薬:唾液分泌を抑制する基本的な治療薬
  • 山莨菪碱(サンリョウキョウアルカロイド):中国で使用される抗コリン薬
  • ボツリヌス毒素注射:局所的な唾液腺機能抑制

🏥 侵襲的治療法

  • 神経阻断術:唾液腺への神経伝達を遮断する処置
  • 超音波ガイド下微波消融:顎下腺の機能を選択的に抑制
  • 唾液腺摘出術:重篤な症例に対する最終的な治療選択

33歳男性の症例では、感冒後に流涎が出現し、従来の薬物療法や肉毒素注射、神経阻断術、心理治療が効果不十分であったため、超音波ガイド下微波消融が施行された事例が報告されています。

 

治療効果の判定には、患者の主観的症状改善と客観的な流涎量の減少を総合的に評価することが重要です。また、薬物療法では副作用(口渇、便秘、視覚障害など)の監視も必要不可欠です。

 

流涎患者への看護ケアとリハビリテーション

看護現場では、流涎患者に対する包括的なケアが求められます。

 

🩺 看護ケアの基本方針

  • 口腔ケア:口腔内を清潔に保ち、唾液の粘性改善を図る
  • 体位調整:やや前屈位にすることで唾液の漏れを軽減
  • 皮膚ケア:流涎による皮膚炎の予防と治療
  • 心理的サポート:社会的孤立を防ぐための精神的ケア

🏃‍♂️ リハビリテーション技法

  • 嚥下訓練:舌の挙上と移送能力向上のための訓練
  • ブローイング訓練:呼吸機能改善による唾液コントロール
  • 口腔機能訓練:口周りの筋力強化と協調性向上

小児の流涎に対するアプローチでは、遊びを取り入れた訓練が効果的です。吹き戻しや音のなるおもちゃを使ったブローイング、ストローでの吹き絵など、楽しみながら取り組める方法が推奨されています。

 

⚠️ 注意すべき合併症

  • 誤嚥性肺炎:口腔後部に停留した唾液による
  • 皮膚潰瘍:慢性的な唾液暴露による難治性潰瘍
  • 社会的孤立:対人関係への影響
  • 栄養障害:体液・栄養分の喪失

リハビリテーション訓練では、療法士が頻繁に流涎を拭き取る必要があり、運動療法や作業療法の進行に支障をきたす場合もあります。そのため、事前の十分な準備と環境整備が重要です。

 

介護現場では、軟膏を塗布しても唾液で流れてしまうため、綿花での清拭や痰吸引など、患者の安楽性を重視したケアが必要です。また、無意識に流涎がある場合は、背景に重篤な疾患が隠れている可能性があるため、医師への早期相談が推奨されます。

 

流涎患者のケアには、医師、看護師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士などの多職種連携が不可欠であり、患者の QOL 向上を目指した総合的なアプローチが求められています。