ヌクレアーゼは核酸のヌクレオチド間のホスホジエステル結合を切断する酵素であり、古くはヌクレオデポリメラーゼまたはポリヌクレオチダーゼとも呼ばれていました 。これらの酵素は、標的分子の一本鎖および二本鎖をさまざまな様式で切断し、生体内におけるDNA修復に関わる多くの側面で不可欠な機構を担っています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8C%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BC
ヌクレアーゼは活性座位によって大きく2種類に分類されます 📊 エキソヌクレアーゼは、核酸を末端から消化する酵素であり、エンドヌクレアーゼは標的分子の途中にある領域に作用します 。さらにこれらは、デオキシリボヌクレアーゼ(DNAに作用)とリボヌクレアーゼ(RNAに作用)に分類することができます 。
制限酵素は特に重要なヌクレアーゼの一種で、細菌が外来DNAを分解してファージの増殖を"制限"する防御機構に関わっています 。制限酵素は二本鎖DNAの特定の塩基配列を認識して結合し、切断する能力を持ち、切断に必要な因子や切断の仕方によってI~III型の3種類に分けられています 。I型、III型は切断部位が一定でないのに対し、II型は特定の部位を切断するため、一般に遺伝子組換え実験にはII型酵素が用いられています 。
参考)https://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/bio/restriction_enzyme.html
CRISPR-Cas9システムは、RNA誘導エンドヌクレアーゼを用いてDNAに部位特異的二本鎖切断を導入する革新的なゲノム編集技術です 。エンドヌクレアーゼCas9は、ガイドRNAによって規定される特定の部位でのDNA切断に使用でき、ゲノム分野において最も選ばれている技術となっています 。
参考)https://www.diagenode.com/jp/categories/crispr-cas9-genome-editing
ゲノム編集技術の医療応用として、まず挙げられるのは遺伝性疾患を根本的に遺伝子から治すための遺伝子治療法への応用です 。遺伝子治療は大きく2つの方法に分けられ、体外で遺伝子を書き換えた細胞を体内に戻す「ex vivo(エックスビボ)」と、体内で直接遺伝子を書き換える「in vivo(インビボ)」があります 。
参考)https://genetics.qlife.jp/interviews/dr-mashimo-20210215
ex vivo遺伝子治療では、患者の体内から病気になった細胞を取り出し、ゲノム編集を使って遺伝子を治し、正常な状態になった細胞を患者に戻すという方法でゲノム編集が応用されています 。この治療法は主に血液の病気が対象となっており、神経細胞など体の外に取り出せない細胞の病気を治療するためには、CRISPR-Cas9を体の中に入れて直接細胞まで届け、体内で遺伝子を治すin vivo遺伝子治療の開発が進んでいます 。
日本においても、オフターゲット効果の排除のみならず、アレル特異的ゲノム編集を可能とする高い特異性と高い活性を両立した新規ヌクレアーゼの探索・最適化技術プラットフォームの確立が進められています 。これにより、常染色体顕性遺伝子疾患等、これまで対象にできなかった種類の遺伝子疾患の治療を目指しています 。
参考)https://www.anges.co.jp/pdf_ir/public/100630.pdf
核酸医薬の開発において、ヌクレアーゼ耐性は治療効果に不可欠な要素となっています 。ヌクレアーゼ耐性修飾を導入することで、in vivoでの酵素分解に対するオリゴヌクレオチドの感受性を低減または排除することが可能になります 。
参考)https://blog.primetech.co.jp/ja/lgcbiosearch-blog-jp/overcoming-manufacturing-challenges-associated-with-nucleic-acid-therapeutics
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)およびshort interfering RNA(siRNA)オリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性を高める一般的な修飾には、ホスホロチオエート結合と2'-OMethyl(2'-OMe)および2'-Fluoro(2'-F)塩基が含まれています 。これらの化学修飾により、核酸医薬の治療への応用が可能になっています 。
🧬 ヌクレアーゼ抵抗性化学修飾核酸の開発研究では、核酸医薬は自然免疫系に感知されず、しかもヌクレアーゼによる分解から逃れなければ十分な効果を発揮できないことが明らかになっています 。血液中にはエキソヌクレアーゼ活性が高く、培養細胞を用いる実験においても、これらの酵素の影響を考慮する必要があります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/131/2/131_2_285/_pdf
ロックされた構造を持つLNA(Locked Nucleic Acid)ベースの治療用分子は、ヌクレアーゼ耐性、優れた標的特異性と結合、および熱安定性の向上など、治療用途に望ましい機能を提供します 。LNAベースの治療用分子は、さまざまな疾患に対する治療薬として開発が進められています 。
ヌクレアーゼフリーは、DNAやRNAを分解する酵素を排除し、正確な遺伝子検査や実験を実現するための重要な基準となっています 。DNase/RNaseどちらも付着・混入していない、ヌクレアーゼ(核酸分解酵素)が付着・混入していない状態のことを、総称してヌクレアーゼフリーと呼びます 。
参考)https://medical-use-plastic-molding.com/part_knowledge/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%8C%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%AE%E9%81%95/
ヌクレアーゼフリーは分子生物学、遺伝子工学、診断検査のための試薬、器具、溶液などが対象となり、ヌクレアーゼがDNAやRNAを分解するため、分子生物学や遺伝子工学の実験、診断検査において核酸の分解を防ぐことが重要です 。ヌクレアーゼが混入すると、実験結果や診断結果が不正確になる恐れがあるため、ヌクレアーゼフリーが求められています 。
🔬 5'ヌクレアーゼ法(TaqMan®)は、リアルタイムPCR法の一種として臨床診断で広く活用されています 。5'末端にリポーター色素、3'末端にクエンチャー色素をつけた検出対象と相補的配列をもつオリゴプローブを用い、ポリメラーゼの伸長反応における5'-3'エキソヌクレアーゼ活性により、リポーター色素が遊離して検出されます 。
参考)https://www.gandgscience.co.jp/technology/
薬剤の副作用リスクの高い遺伝子多型を解析するNUDT15キットや、感染症等の病原体遺伝子(SARS-CoV-2等)を検出する試薬の開発や受託検査が実施されており、診断技術におけるヌクレアーゼの活用が進んでいます 。濃度(コピー数)が既知のコントロール試料を同じ条件下で検出し、検量線を作成することで、目的のサンプルの濃度を正確に測定することが可能になっています 。
生物製剤の製造において、残留ヌクレアーゼの検出は重要な品質管理項目となっています 🧪 UltraNuclease(万能ヌクレアーゼ)は、非特異的エンドヌクレアーゼとも呼ばれ、複数の実験条件下でさまざまな形態のDNAおよびRNAを切断および除去する能力を持っています 。
参考)https://www.yeasenbio.com/ja/blogs/viral-vector/ultranuclease-benzonase-nuclease-the-total-solution-for-nucleic-acid-residue-removing-in-biologics
通常の精製工程では、UltraNucleaseは不純物として簡単に除去されますが、万能性UltraNucleaseの特定の残留量を検出するために、業界の標準製品として使用されることが多く、対応するELISAキットが開発されています 。これらのキットは規制要件に従って完全に検証されており、検証レポートが利用可能です 。
ELISAキットの性能パラメータとして、分析時間は3.5時間、アッセイ原理は2部位免疫酵素アッセイ、信号増幅はビオチン-ストレプトアビジン系、検出波長は450nmと630nm、感度は23.5pg/mLまで低下し、検出範囲は0.047~3ng/mLとなっています 。これらの高感度・高精度な検出システムにより、細胞・遺伝子治療および組み換えアデノ随伴ウイルスワクチンの精製プロセスにおける残留ヌクレアーゼの検出が可能になっています 。
キットのすべての原材料は独自に開発されており、品質管理が保証され、バッチ内再現性が高く、バッチ間変動性が低い特徴を持っています 。さらに、他の遺伝子組み換え細胞タンパク質との交差反応性がないという強い特異性を持っており、正確な残留量測定が可能となっています 。