ラニビズマブは血管内皮増殖因子-A(VEGF-A)に対するモノクローナル抗体のFab断片として設計された血管新生阻害剤です。脈絡膜新生血管の発生と成長に関わっているVEGF(血管内皮増殖因子)を阻害することにより、脈絡膜新生血管を萎縮・消失させ、その結果低下していた視力を改善させます。
この薬剤の効能・効果として承認されているのは以下の5疾患です。
新生血管の形成に関わるVEGF-Aを阻害することで、異常な新生血管を抑制し、滲出型の加齢黄斑変性や未熟児網膜症の症状を改善するといった作用機序を有しています。
ラニビズマブの副作用発現率は治験時で41.1%と報告されており、その主なものは眼痛、眼圧上昇、結膜出血、硝子体浮遊物、眼の異物感等です。治療対象眼で発現した副作用発現頻度は、ラニビズマブ投与群で33.3%(43例/129例)であり、主な副作用は結膜出血22.5%(29例/129例)、眼痛14.7%(19例/129例)及び眼刺激6.2%でした。
重大な副作用として以下が挙げられています。
5%以上に発現する副作用は、虹彩炎、硝子体炎、虹彩毛様体炎、ブドウ膜炎、前房蓄膿、前房の炎症、結膜出血、眼圧上昇、眼刺激、眼の異物感、流涙増加です。
眼以外の副作用として、頭痛、(予期)不安、悪心等が報告されており、VEGF阻害剤を硝子体内注射されている患者は理論的には動脈血栓塞栓症発症の可能性がありますが、比較臨床試験の結果では偽薬と同程度(4%未満)と低率でした。
2023年にラニビズマブのバイオシミラー(BS)である「ラニビズマブBS硝子体内注射用キット10mg/mL「センジュ」」が承認されました。薬価は74,282円/筒と、先発品のルセンティスと比較して大幅に安価になっています。
バイオシミラーの薬物動態データでは、最高血中濃度(Cmax)は本剤5.75±4.22ng/mL、ルセンティス5.14±3.32ng/mLと同等性が確認されています。また、最高矯正視力の投与開始日からの変化量についても、本剤7.4文字、対照薬8.9文字と臨床的に同等の効果が示されています。
興味深いことに、一部の症例ではラニビズマブBSから他のVEGF阻害薬(バビースモなど)へのスイッチが検討されることがあります。黄斑浮腫症例でラニビズマブBSの効果が不十分な場合、VEGFに加えてAng-2(Angiopoietin-2)という悪玉因子にも効くバビースモにスイッチすることで、視力改善は限定的でも網膜厚が減少する症例がかなりの確率で存在することが報告されています。
ラニビズマブの安全な使用のためには、適切な患者選択と投与後の管理が重要です。禁忌として、眼または眼周囲に感染あるいはその疑いのある患者、眼内に重度の炎症のある患者が挙げられています。
網膜剥離及び網膜裂孔は重要な特定されたリスクとして位置づけられています。一般的に網膜剥離、網膜裂孔の主な原因は加齢や疾患の進行によるものですが、硝子体内注射の合併症としても発現する可能性があります。網膜剥離や網膜裂孔は放置すると網膜細胞死や視力低下につながる恐れがあります。
眼圧上昇も重要なリスクの一つです。一般に眼圧が上昇すると圧迫による視神経障害が発現するおそれがあり、ラニビズマブの硝子体内注射後に硝子体内の容量が増加し、一過性の眼圧上昇が起こることがあります。第III相臨床試験では、本剤が投与された328例において、副作用として8例(2.44%)に眼圧上昇が認められました。
投与間隔については、加齢黄斑変性では1ヵ月毎に連続3ヵ月間(導入期)硝子体内投与し、その後の維持期においては症状により投与間隔を適宜調節しますが、1ヵ月以上の間隔をあけることが必要です。その他の適応症では1回あたり0.5mg(0.05mL)を硝子体内投与し、投与間隔は1ヵ月以上あけることとされています。
ラニビズマブの類薬として、アイリーア(アフリベルセプト)やベオビュ(ブロルシズマブ)、バビースモ(ファリシマブ)などがあります。これらの薬剤はそれぞれ異なる特徴を持っています。
アイリーアはVEGF-A、VEGF-B、PlGFを阻害しますが、ラニビズマブはVEGF-Aのみを阻害します。この違いにより、薬剤の効果持続期間や副作用プロファイルに差が生じる可能性があります。
2014年のコクランレビューでは、加齢黄斑変性の治療に用いた場合、ラニビズマブとベバシズマブの間で重篤な副作用の発現率や死亡率に有意差は見られませんでしたが、エビデンスは充分とは言えず、明解な結論を出すことはできないとされています。
薬価の観点から見ると、ラニビズマブBSは79,348円、バビースモは163,894円と約2倍の差があります。効果と費用対効果を考慮した薬剤選択が重要になってきます。
実臨床では、初回治療としてラニビズマブBSを使用し、効果不十分な場合に他のVEGF阻害薬への変更を検討するという治療戦略が取られることが多くなっています。特に、ラニビズマブBSからバビースモへのスイッチでは、視力改善は限定的でも網膜厚の減少が期待できる症例が一定の割合で存在することが報告されており、治療選択の重要な指標となっています。
日本眼科学会の加齢黄斑変性治療指針や関連する臨床試験データを参考に、個々の患者の病態や治療歴を考慮した適切な薬剤選択と安全性管理を行うことが、ラニビズマブ治療成功の鍵となります。
KEGG医薬品データベース - ラニビズマブBSの詳細な薬事情報
PMDA医薬品リスク管理計画書 - ラニビズマブBSの安全性情報