おたふく風邪の原因は、パラミクソウイルス科に属するムンプスウイルス(Mumps virus)です。このウイルスは一本鎖RNAウイルスで、エンベロープを持つ特徴があります。
ムンプスウイルスの感染経路は主に以下の2つです。
ムンプスウイルスの感染力は非常に強く、症状出現前から感染力を持つことが重要なポイントです。唾液中にウイルスが排出される期間は、症状出現の約1週間前から症状出現後9日間程度とされており、この期間に知らないうちに周囲への感染を拡大させてしまう可能性があります。
興味深いことに、ムンプスウイルスに感染しても約3割の患者では明確な症状が現れません。これを不顕性感染といい、症状がないにも関わらず他者への感染力は保持しているため、保育園や幼稚園などの集団感染の原因となることがあります。
おたふく風邪の初期症状は、多くの場合風邪様症状から始まります。潜伏期間は2-3週間(平均18日前後)で、その後以下のような症状が段階的に現れます。
前駆症状(発症初期)
主要症状
耳下腺の腫脹は、通常片側から始まり、1-3日後にもう片側も腫れることが多いとされています。腫脹は発症から48時間以内にピークに達し、3日目頃が最も重篤な状態となります。その後徐々に軽快し、5-7日で消失します。
診断の補助として、血液や尿中のアミラーゼ値の上昇が認められることがあります。これは耳下腺からの酵素放出によるものです。
おたふく風邪の潜伏期間は2-3週間で、この期間は個体差がありますが平均して18日前後とされています。潜伏期間の長さは、感染追跡を困難にする要因の一つです。
感染力の時期的変化について、医療従事者が特に注意すべき点は以下の通りです。
感染力が最も強い時期
感染力の減弱
この感染力の特徴により、保育園や幼稚園、学校での集団感染が起こりやすくなります。症状が出現する前から感染力を持つため、予防対策が困難な面があります。
ムンプスウイルスは日本では3-4年周期で流行する傾向があり、春から夏にかけて感染者数が増加する季節性も認められています。ただし、現在では年間を通じて散発的な感染も見られます。
年齢別の感染状況を見ると、3-6歳の小児、特に4歳以下に多く発症します。ワクチン未接種の場合、10-12歳までにほとんどの子どもが感染するとされています。
おたふく風邪の診断において、医療従事者が注意すべき鑑別疾患がいくつか存在します。特に重要なのが反復性耳下腺炎との鑑別です。
反復性耳下腺炎との鑑別ポイント
その他の鑑別疾患
診断における検査項目として、以下が有用です。
血液検査
その他の検査
診断確定のためには、臨床症状に加えて血清学的検査やウイルス学的検査が必要になる場合があります。特に軽症例や不顕性感染の診断には、抗体価の測定が重要な役割を果たします。
おたふく風邪は通常軽症で自然治癒しますが、まれに重篤な合併症を生じることがあり、医療従事者として十分な注意が必要です。
主要な合併症と発症頻度
髄膜炎
ムンプス難聴
精巣炎(成人男性)
その他の合併症
医療従事者として特に注意すべき点は、合併症の早期発見です。特にムンプス難聴は不可逆的な後遺症となるため、聴力障害の訴えがあった場合は迅速な対応が必要です。
予防の観点から、ワクチン接種の重要性を患者・家族に説明することも重要な役割です。日本では任意接種ですが、1歳以降に2回接種することで高い予防効果が期待できます。定期接種を実施している国では、おたふく風邪の発症者が99%減少したという報告もあります。
治療は対症療法が中心となり、安静、水分補給、解熱鎮痛剤の使用などが基本となります。耳下腺の腫脹に対しては冷却が有効な場合がありますが、個人差があるため注意が必要です。
日本小児科学会のワクチン情報には、おたふく風邪の予防接種に関する詳細なガイドラインが記載されています
厚生労働省の予防接種情報では、最新の接種スケジュールや副反応情報を確認できます