ネキソブリッドは、パイナップル(Ananas comosus)の茎から抽出されたタンパク質分解酵素の混合物を有効成分とする壊死組織除去剤です 。この天然由来の酵素は、コラーゲナーゼやその他のプロテアーゼを含む複合体として機能し、壊死組織に含まれる変性タンパク質を選択的に分解します 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00070737
酵素の作用機序は極めて特異的で、正常な健康組織のコラーゲンやエラスチンには影響を与えず、熱変性により構造が変化したタンパク質のみを標的とします 。この選択性により、従来の外科的デブリードマン(機械的切除)と比較して、健常な真皮層や皮下組織を保護しながら壊死組織除去が可能となります 。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20221215001/200022000_30400AMX00447000_D100_1.pdf
国際的な臨床研究では、ネキソブリッドによる酵素的デブリードマンが、従来の標準治療と比較して早期かつ効果的な壊死組織除去を実現することが示されています 。特に手部熱傷においては、精密な組織選択性が機能保全に重要な役割を果たすことが報告されています 。
参考)https://www.mdpi.com/2075-1729/13/2/488/pdf?version=1676015164
ネキソブリッドの適応は、深達性II度又はIII度熱傷における壊死組織の除去に限定されています 。深達性II度熱傷は、真皮深層まで熱損傷が及んだ状態で、表皮および真皮の大部分で細胞死が生じているものの、毛包や汗腺などの皮膚付属器の一部が残存している状態を指します。
参考)https://www2.jpx.co.jp/disc/45210/140120230524580303.pdf
III度熱傷は、表皮・真皮の全層および皮下組織まで熱損傷が及んだ状態で、皮膚の再生能力が完全に失われています 。これらの重症度分類は、熱傷深度判定において極めて重要であり、治療方針決定の基準となります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/eaee6d79f519efc6db6675dffcf1e468dede1dfa
臨床現場での適応判断には、受傷からの時間経過も重要な要素です。ネキソブリッドは受傷後72時間以内の使用が推奨されており、早期介入により最大の治療効果が期待できます 。一方で、減張切開創や裂創等の外傷創部には塗布禁忌とされており、これらの部位は事前にワセリン軟膏等で保護する必要があります 。
参考)https://www.data-index.co.jp/medsearch/ethicaldrugs/searchresult/detail/?trk_toroku_code=2699716Q1020
適応面積についても体表面積の15%までという制限があり、広範囲熱傷への一度の使用は推奨されていません 。この制限は、全身への影響と安全性を考慮したものです。
参考)https://medical-pro.kaken.co.jp/product/nexobrid/support/usage/preparation_application.html
ネキソブリッドの塗布技術は、治療成功の鍵を握る重要なプロセスです。使用前に凍結乾燥品と混合用ゲルを均一に混合し、わずかに褐色から茶色になるまで1-2分間撹拌します 。混合後15分以内に塗布を完了する必要があり、調製は患者のベッドサイドで行います。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20221215001/200022000_30400AMX00447000_B100_1.pdf
塗布前の創部準備として、水疱の除去と生理食塩水による創面の清拭が必須です 。創部周囲の健常皮膚は、ワセリン軟膏やワセリンガーゼで保護し、薬剤の不要な接触を防ぎます。塗布厚は1.5-3mmを目安とし、舌圧子等を用いて熱傷創全体に均一に塗布します。
密閉性の確保は治療効果に直結する重要な要素です。滅菌閉塞フィルムドレッシング材で完全に覆い、気泡が残らないよう注意深く密閉します 。さらに厚手の柔らかいドレッシング材で二重に保護し、包帯で固定します。
4時間の作用時間を厳密に守り、時間経過後は生理食塩水や微温湯を用いて薬剤を完全に除去します 。除去時には、軟化した壊死組織も同時に取り除かれるため、創面の状態を詳細に観察し、必要に応じて追加の処置を検討します。
参考)https://medical-pro.kaken.co.jp/support/documents/NXG039.pdf
ネキソブリッドの副作用プロファイルには、特に注意すべき重大な副作用として適用部位出血があります 。この出血は時として出血性ショックに至る可能性があり、2024年8月の使用上の注意改訂で新たに追記された重要な安全性情報です。
一般的な副作用として、適用部位の疼痛(痛み)、そう痒症(かゆみ)、皮下血腫が1-5%未満の頻度で報告されています 。全身症状としては発熱や頻脈が観察されることがあり、これらは酵素による炎症反応や組織破壊に伴う生体反応と考えられています。
参考)https://www.qlife.jp/meds/rx50842.html
重篤な副作用として、ショックやアナフィラキシーの可能性も指摘されており、発疹、紅斑、血圧低下、頻脈などの初期症状に注意が必要です 。特にパイナップルアレルギーの既往がある患者では、使用前の詳細な問診と慎重な適応判断が求められます。
出血リスクの管理では、減張切開創や裂創等の創傷部位への直接塗布を避け、事前の創部保護が極めて重要です 。また、血液透析用内シャント部位での使用報告もありますが、血管系への影響を慎重に監視する必要があります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jburn/51/3/51_105/_article/-char/ja
ネキソブリッドを用いた熱傷治療では、看護師の専門的な知識と技術が治療成功に不可欠です。救急看護認定看護師をはじめとする専門看護師による積極的な介入が、患者の予後改善に大きく寄与することが報告されています 。
参考)https://researchmap.jp/tomofumiogoshi/published_papers?limit=100
多職種連携体制では、医師、看護師、薬剤師、臨床心理士による毎朝のカンファレンスが重要な役割を果たします 。薬剤師は調製手技の指導と副作用モニタリングを担当し、臨床心理士は熱傷患者特有の心理的ケアを提供します。
参考)https://medical-pro.kaken.co.jp/wound_burn/burn_specialist_interview/burn_specialist_interview_01.html
看護師の具体的な役割として、塗布前の創部アセスメント、適切な体位保持、密閉ドレッシング材の管理、疼痛評価と対策、4時間後の除去手技などがあります。特に疼痛管理は患者のQOL向上に直結するため、鎮痛薬の適切な使用と非薬物的疼痛緩和技術の併用が推奨されます。
創部感染予防の観点から、無菌的手技の徹底と創部観察による早期発見システムの構築が重要です 。海外臨床試験では、ネキソブリッド群で創傷感染のリスクが標準治療群より高い傾向が示されており、感染予防策の強化が必要とされています。
参考)https://medical-pro.kaken.co.jp/product/nexobrid/documents/nexobrid_tekisei_202409.pdf
処置後の創部管理では、肉芽形成の促進と上皮化の評価を継続的に行い、必要に応じて植皮術などの外科的介入のタイミングを適切に判断します 。看護記録には、創部の詳細な観察所見、患者の疼痛レベル、全身状態の変化を正確に記載し、医療チーム間での情報共有を円滑に行います。