ナファゾリン硝酸塩は、血管平滑筋のα-アドレナリン受容体に直接作用して血管を収縮させる交感神経作動薬です。この薬剤は、アドレナリンよりも強い末梢血管収縮作用を有し、作用持続時間も長いという特徴があります。
点鼻薬として使用した場合、鼻粘膜の血管収縮により鼻閉塞の改善効果を発揮します。アレルギー性鼻炎患者に0.1%ナファゾリン硝酸塩を投与した臨床試験では、投与直後から15分以内に作用が発現し、3~4時間持続することが確認されています。
点眼薬として使用する場合は、結膜血管の収縮により充血を改善します。ヒト正常結膜血管に対する血管収縮作用は点眼後直ちに発現し、2~5分で高度の血管収縮作用が起こり、最大効果持続時間は40~49分、その後効果は2~3時間持続します。
この薬剤の血管収縮作用は、局所的な充血やうっ血の改善に有効である一方、全身への影響も考慮する必要があります。特に過量投与時には血圧上昇と二次作用として臓器虚血がみられることが報告されています。
ナファゾリン硝酸塩は、点鼻薬と点眼薬の2つの剤形で使用されており、それぞれ異なる適応症があります。
点鼻薬(プリビナ液0.05%)の適応症:
点眼薬(プリビナ点眼液0.5mg/mL)の適応症:
効果的な使用のためには、適切な用法・用量の遵守が重要です。点鼻薬の場合、過度の使用はリバウンド現象を引き起こし、かえって鼻粘膜の二次充血や腫脹を招く可能性があります。このため、患者には使用回数や使用期間について十分な指導が必要です。
市販のOTC点鼻薬にもナファゾリンが含まれている製品があるため、患者の自己判断による長期使用や過量使用のリスクについても注意喚起が必要です。
医療従事者は、患者の症状の程度と持続期間を評価し、必要最小限の使用にとどめるよう指導することが重要です。また、他の治療法との併用や代替療法についても検討し、総合的な治療戦略を立てることが求められます。
ナファゾリン硝酸塩の副作用は、局所的なものから全身的なものまで多岐にわたります。医療従事者は、これらの副作用を十分に理解し、患者の状態を注意深く観察する必要があります。
主な副作用(頻度不明):
過敏症関連:
精神神経系:
循環器系:
呼吸器系:
消化器系:
局所症状(点鼻薬):
眼科関連(点眼薬):
長期使用による副作用:
特に注意が必要なのは、小児における副作用です。小児はナファゾリンに対する感受性が強く、過量投与により発汗、徐脈、昏睡等の全身症状が現れやすいため、使用しないことが望ましいとされています。
ナファゾリン硝酸塩の使用にあたっては、特定の患者群において禁忌または慎重投与が必要です。医療従事者は、患者の既往歴や併用薬を十分に確認する必要があります。
併用禁忌:
MAO阻害剤との併用は禁忌です。具体的には以下の薬剤が該当します。
これらの薬剤との併用により、急激な血圧上昇が起こる恐れがあります。ナファゾリンはアドレナリン作動薬であり、MAO阻害剤投与患者ではノルアドレナリンの蓄積が増大しているため、併用時に危険な血圧上昇を引き起こす可能性があります。
慎重投与が必要な患者:
高血圧症患者:
動物実験において血圧上昇作用が認められており、ヒトでの臨床試験でも0.5%塩酸ナファゾリン液を点鼻した35例中13例に収縮期血圧の上昇が認められています。
甲状腺機能亢進症患者:
甲状腺ホルモンはアドレナリンのレセプター部位における反応の感受性を高めるため、αアドレナリン作動薬であるナファゾリンに対しても感受性が高まる恐れがあります。
糖尿病患者:
ナファゾリンはアドレナリン様作用として血糖上昇作用(グリコーゲン分解促進および末梢組織でのグルコース取り込み減少)を有するため、慎重な投与が必要です。
冠動脈疾患患者:
心臓刺激作用を有する一方、大量投与では心臓抑制作用も認められるため、冠動脈疾患のある患者には慎重な投与が求められます。
小児患者:
2歳未満の乳・幼児には使用禁忌とされていますが、鼻閉が強く哺乳困難な場合など、やむを得ず使用する際は使用法を正しく指導し、経過観察を十分に行うことが必要です。
ナファゾリン硝酸塩の過量投与は、特に小児において重篤な症状を引き起こす可能性があるため、医療従事者は迅速かつ適切な対応が求められます。
過量投与時の主な症状:
全身作用:
小児における特徴的症状:
小児では顕著な鎮静が現れ、迅速な処置が必要となります。具体的な症状は以下の通りです。
呼吸機能への影響:
心血管系への影響:
中枢神経系への影響:
皮膚・粘膜への影響:
医療従事者の対応:
過量投与が疑われる場合、医療従事者は以下の対応を行う必要があります。
医療従事者は、ナファゾリン硝酸塩を処方する際に、患者の年齢、体重、既往歴を十分に考慮し、適切な用量と使用期間を設定することが重要です。また、市販薬としても入手可能であることから、患者教育においてセルフメディケーションのリスクについても言及する必要があります。