クッシング症候群は、コルチゾールの過剰分泌により引き起こされる疾患の総称です 。この症候群は発症メカニズムによって「ACTH依存性」と「ACTH非依存性」の2つに大きく分類されます 。
参考)クッシング症候群とクッシング病の違いはなんですか? 
ACTH依存性クッシング症候群には、下垂体からのACTH過剰分泌が原因となるクッシング病と、下垂体以外の腫瘍からACTHが分泌される異所性ACTH症候群が含まれます 。一方、ACTH非依存性クッシング症候群は、副腎自体の異常によってコルチゾールが過剰産生される病型で、副腎腺腫や副腎癌、原発性副腎皮質過形成などが原因となります 。
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コルチゾール過剰の原因として、薬剤性(ステロイド薬の長期使用)や遺伝子変異も関与することが知られており、病因の多様性がクッシング症候群の特徴といえます 。
参考)クッシング症候群 
クッシング病は、下垂体前葉の腫瘍(主に腺腫)がACTHを過剰に分泌することで発症する疾患です 。クッシング症候群全体の約70%を占める最も一般的な病型で、指定難病75番に認定されています 。
参考)クッシング病とクッシング症候群
下垂体腫瘍からのACTH過剰分泌により副腎皮質が持続的に刺激され、結果としてコルチゾールの過剰産生が引き起こされます 。この病態では血中ACTH値が著明に上昇し、コルチゾールの日内変動が消失することが特徴的な検査所見として現れます 。
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クッシング病の診断には、DDAVP負荷試験などの特殊検査が用いられ、異所性ACTH産生腫瘍との鑑別が重要になります 。治療は下垂体腫瘍の摘出手術が第一選択となり、完全摘出により根治が期待できます 。
参考)クッシング症候群
クッシング症候群の診断は、特徴的な臨床症状と生化学検査の組み合わせで行われます 。主要な症状として、満月様顔貌、中心性肥満、野牛肩、皮膚の菲薄化、紫色皮膚線条、近位筋萎縮などが挙げられます 。
参考)クッシング症候群 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - M…
診断確定のためのスクリーニング検査として、24時間尿中遊離コルチゾール測定、低用量デキサメタゾン抑制試験、午前0時の血清または唾液コルチゾール測定が標準的に実施されます 。尿中遊離コルチゾール値が120μg/24時間を上回る場合、クッシング症候群が強く疑われます 。
血漿ACTH値の測定により、ACTH依存性かACTH非依存性かを判別し、さらに画像検査(CT、MRI)により原因となる腫瘍の局在診断を行います 。これらの検査結果を総合的に評価して、最終的な診断と治療方針が決定されます。
参考)クッシング症候群(CS. Cushing’s syndrom…
クッシング症候群の治療は原因によって大きく異なり、外科的切除が可能な腫瘍性病変では手術が第一選択となります 。副腎腺腫や下垂体腺腫による良性病変では、完全摘出により根治が期待できるため、早期の手術介入が推奨されます 。
参考)クッシング症候群とは?症状などについて解説
手術適応がない場合や術後の補助療法として、メチラポンやオシロドロスタットなどのコルチゾール合成阻害薬が使用されます 。また、クッシング病では下垂体特異的治療薬としてパジレオチド(シグニフォーLAR)の注射療法も選択肢となります 。
予後は原因と治療開始時期により大きく左右され、早期発見・早期治療により良好な転帰が期待できます 。しかし、長期間放置された場合は糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、心血管疾患などの重篤な合併症を併発し、生命予後に影響を与える可能性があります 。
参考)クッシング症候群
高齢者におけるクッシング症候群の診断では、典型的な身体徴候が不明瞭になることが多く、診断の遅れが問題となります 。65歳以上の高齢者では、満月様顔貌や中心性肥満などの特徴的な外見変化が加齢性変化と区別しにくいため、注意深い観察が必要です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/59/2/59_59.158/_pdf
高齢者では併存疾患として糖尿病や高血圧を既に有していることが多く、これらがクッシング症候群による症状と重複するため、鑑別診断が困難になります 。また、認知機能低下やうつ症状が前面に出ることがあり、精神神経科で治療を受けているケースもあります 。
参考)https://kannoukasuitai.jp/archive/file/20190127_1.pdf
早期発見のためには、多尿・夜間尿、説明のつかない体重減少、皮膚の脆弱性、易感染性などの症状に注目し、積極的なホルモン検査を実施することが重要です 。高齢者では薬物代謝の変化や腎機能低下を考慮した慎重な治療選択が求められ、定期的なフォローアップによる合併症管理が予後改善の鍵となります。