SpO2が正常でもCO2蓄積で意識を失うことがあります。
呼吸性アシドーシスは、肺胞換気量の低下によってCO2が体内に蓄積し、血液のpHが7.35を下回った状態です。臨床で問題になるのは、症状が「呼吸器症状だけ」と思われがちな点にあります。
実際には、CO2は脂溶性であるため血液脳関門を容易に通過します。その結果、中枢神経系への影響が酸素不足より先に現れることが多いです。つまり、呼吸困難の訴えよりも意識変容が先行するケースが珍しくありません。
代表的な症状を重症度の順に挙げると次のとおりです。
振戦(flapping tremor / asterixis)はCO2蓄積に特異的なサインです。これは肝性脳症でも見られますが、呼吸性アシドーシスの現場では見落とされやすいです。
また、CO2の血管拡張作用により、顔面紅潮・発汗・脈圧増大といった循環器症状も伴います。これは診察室レベルでも気づけるサインです。SpO2が正常範囲に保たれていても、これらの症状があればCO2蓄積を疑う習慣が重要です。
臨床では「なんとなくぼんやりしている」患者のアセスメントでABGを測定し、PaCO2 72mmHgを確認したケースが報告されています。SpO2は98%でした。これは使えそうです。
日本呼吸器学会:NPPV(非侵襲的陽圧換気)ガイドライン(CO2ナルコーシスの管理指針を含む)
原因の分類は「急性」と「慢性」に大別されます。急性か慢性かで代償の程度が異なり、治療方針も変わります。これが基本です。
急性呼吸性アシドーシスの主な原因は換気を突然に障害するものです。
慢性呼吸性アシドーシスの主な原因は長期的な換気障害です。
急性では腎臓の代償が間に合っていないため、HCO3-はほとんど上昇しません。PaCO2が10mmHg上昇してもHCO3-の増加は約1mEq/Lにとどまります。一方、慢性では腎代償が完成しており、同じ10mmHg上昇でHCO3-は3〜3.5mEq/L上昇します。
この数値の差を読むだけで「急性か慢性か」が判断できます。覚えておくべき数字はこの2つだけです。臨床で即使えます。
注意すべきは「急性増悪on慢性」のパターンです。COPDのベースがある患者がインフルエンザで急激に悪化した場合、慢性代償の上に急性変化が乗るため、ABGの解釈が複雑になります。この場合の期待HCO3-は「慢性の代償値+急性増悪分」を計算してずれを確認します。
酸塩基平衡の乱れに対し、体は必ず代償しようとします。呼吸性アシドーシスでは肺が原因なので、代償は腎臓が担います。
腎代償のしくみはシンプルです。
この腎代償には時間がかかります。急性期は数時間単位での変化が限界ですが、慢性化すると3〜5日で最大代償に到達します。代償が完成すると、pHはほぼ正常域に近づきます。
代償が「完全」でも、根本的な問題(換気不全)は解決していません。これは重要な点です。pHが7.35以上に保たれているからといって安心してはいけません。PaCO2 60mmHgでもHCO3-が32mEq/Lあれば代償が完成しているように見えますが、換気能力は依然として低下しています。
期待代償の計算式を確認しておきましょう。
実測HCO3-が計算値より高ければ代謝性アルカローシスの合併、低ければ代謝性アシドーシスの合併を疑います。混合性酸塩基障害の見抜きに直結するため、この計算は現場で必須です。
動脈血液ガス(ABG)を系統的に読むことで、呼吸性アシドーシスの診断と重症度評価が確実になります。
ABGの読み方:5ステップ
診断基準の数値をまとめると次のとおりです。
| 項目 | 正常値 | 呼吸性アシドーシス |
|---|---|---|
| pH | 7.35〜7.45 | 7.35未満 |
| PaCO2 | 35〜45 mmHg | 45 mmHg超 |
| HCO3- | 22〜26 mEq/L | 代償で上昇 |
A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)の計算も有用です。正常値は年齢×0.3(mmHg)を目安にします。A-aDO2が開大していれば換気障害より拡散障害・V/Q不均等を示唆します。肺炎や肺塞栓との鑑別に役立ちます。
呼吸性アシドーシスの重症度はpHで評価するのが原則です。PaCO2の高さだけで判断しない習慣をつけましょう。慢性COPDでPaCO2 60mmHgでもpH 7.38であれば緊急性は異なります。pHが主役ということですね。
日本集中治療医学会:人工呼吸管理ガイドライン(ABG評価と換気管理の指針)
治療の大原則は「原因の除去と換気の改善」です。ただし、現場では「何を先にやるか」の優先順位が曖昧になりがちです。
緊急度に応じた対応フロー
呼吸性アシドーシスにNaHCO3(重炭酸ナトリウム)を投与してはいけません。これは代謝性アシドーシスへの対応であり、呼吸性アシドーシスに投与するとCO2がさらに産生されてPaCO2が上昇します。実際に誤って投与されたケースが国内でも報告されています。アルカリ補正は治療にならないということです。
COPDのCO2ナルコーシスへの酸素投与は「高流量酸素を控える」点も重要です。COPD患者は低酸素血症を換気ドライブとして使っている場合があり、SpO2を88〜92%程度に維持することが推奨されています(高くしすぎると換気が落ちてPaCO2がさらに上昇するリスク)。SpO2 100%を目指さないことが原則です。
人工呼吸管理下では、急激にCO2を下げることも危険です。慢性高炭酸ガス血症患者では、PaCO2を急速に正常化すると代謝性アルカローシスに転じます。1時間あたり5〜10mmHg以内の低下を目安にゆっくり是正するのが安全とされています。
これらの対応を「pH・PaCO2・原因」の3軸で判断する習慣をつけることが、呼吸性アシドーシスの管理精度を上げる最短経路です。現場では迷わず動けることが最重要です。
Mindsガイドラインライブラリ:COPD診療ガイドライン(急性増悪時の換気管理・CO2管理を含む)