カルベジロールは、他のβ遮断薬と異なり、β受容体遮断作用とα1受容体遮断作用の両方を持つ独特な薬剤です。β1受容体の遮断により心臓の拍動を穏やかにし、心筋酸素消費量を減少させることで心臓を保護します。
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α1受容体遮断作用では、血管平滑筋の緊張を緩和し、総末梢血管抵抗を低下させて血液の流れを改善します。この二重の作用機序により、カルベジロールは心臓の負荷を軽減しながら血圧を効果的に低下させることができます。
参考)医療用医薬品 : カルベジロール (カルベジロール錠1.25…
作用機序の特徴として、カルベジロールは1日1回の投与で24時間安定した降圧効果と心拍数減少効果を示すことが臨床試験で確認されています。血管内皮におけるプロスタサイクリン(PGI2)の合成を促進し、血管拡張作用をもたらすと同時に血小板凝集能を抑制する効果も報告されています。
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カルベジロールは慢性心不全の治療において、他のβ遮断薬を上回る臨床効果を示すことが複数の大規模臨床試験で実証されています。心筋カルシウム過負荷に対する特殊な作用により、心筋細胞の自発的なカルシウム放出(SOICR)を抑制し、心不全の根本的な病態に働きかけます。
参考)https://www.tmd.ac.jp/mri/cph/members/PDF/nikkei_Carvedilol.pdf
慢性心不全患者に対する長期観察研究では、約94%の患者でカルベジロールの導入が可能であり、NYHA心機能分類Ⅲ-Ⅳ度の重症例においても導入不可能例は15.8%と、比較的高い忍容性が示されました。
参考)https://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jcold/pdf/475-2(H).pdf
カルベジロール投与により心機能の改善が期待され、内径短縮率(%FS)は投与前16.2%から投与後19.0%に改善することが小児心不全患者の研究で確認されています。心不全患者の5年生存率は83%と良好な長期予後を示しており、血漿BNP濃度の有意な低下も認められています。
参考)https://jspccs.jp/wp-content/uploads/j2202_123.pdf
本態性高血圧症に対するカルベジロールの有効性は、国内の二重盲検試験を含む臨床試験で70.9%の有効率(下降以上)が確認されています。軽症から中等症の高血圧患者において、カルベジロール10-20mgの1日1回投与により24時間にわたって安定した降圧効果を示します。
参考)カルベジロール錠2.5mg「DSEP」の効能・副作用
腎実質性高血圧症に対しても68.2%の有効率を示し、腎疾患に伴う高血圧の治療においても高い効果が認められています。狭心症患者では運動負荷時の心拍数増加を単回投与後24時間にわたって抑制し、発作の予防と症状の軽減を図ります。
降圧効果の特徴として、カルベジロールは血圧日内変動に影響を与えず、生理的な血圧変化を保ちながら安定した血圧管理を実現します。ラベタロールとの比較試験では、カルベジロール群で52.3%、ラベタロール群で62.5%の降圧効果を示し、同等の有効性が確認されています。
カルベジロールの最も注目すべき特徴の一つは、他のβ遮断薬にはない強力な抗酸化作用です。この抗酸化作用により、酸化ストレスによる心筋細胞の損傷を防ぎ、心筋梗塞後の壊死範囲を縮小させる効果が実験的に確認されています。
参考)カルベジロールの抗酸化作用──抗酸化作用はその臨床効果に寄与…
血管内皮保護作用において、カルベジロールは血管内皮細胞におけるエンドセリン-1(ET-1)の産生を抑制し、血管のトーヌス亢進や血管壁肥厚を間接的に抑制します。また、LDL酸化時間を著明に延長させ、動脈硬化の進行を抑制する作用も報告されています。
参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/products/files/1287/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%99%E3%82%B8%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E9%8C%A0%E3%80%8CDSEP%E3%80%8DIF%E7%AC%AC4%E7%89%88.pdf
抗酸化作用の機序として、カルベジロールはヒト白血球による反応性酸素種の産生を阻害し、in vivoにおいても確実な抗酸化効果を発揮することが示されています。血管リモデリングに対しても、実験動物において抵抗血管中膜平滑筋の肥厚を著明に抑制し、血管構造の改善に寄与しています。
参考)https://jspccs.jp/wp-content/uploads/j1806_633.pdf
カルベジロールの主要な副作用として、めまい、だるさ、頭痛、徐脈、血圧低下が報告されており、特にめまいは飲み始めや用量増加時によく見られる症状です。副作用発現率は治療対象により異なり、本態性高血圧症では8.4%、慢性心不全では44.1%と報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066160.pdf
重篤な副作用としては、心不全の悪化、失神、重度の徐脈、肝機能障害が挙げられますが、これらの発現頻度は比較的低いとされています。褐色細胞腫やパラガングリオーマ患者には単独投与により急激な血圧上昇のリスクがあるため禁忌とされています。
参考)医療用医薬品 : カルベジロール (カルベジロール錠1.25…
安全な投与のためには、必ず少量(1.25mg)から開始し、患者の状態を観察しながら徐々に増量することが重要です。カルシウム拮抗薬のベラパミルとの併用では心不全や低血圧のリスクが高まるため注意が必要です。転倒リスクを避けるため、立ち上がる際はゆっくりと動作することが推奨されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070033.pdf