腎機能障害グレードと重症度分類の診断基準

腎機能障害のグレード分類は慢性腎臓病の進行度を把握し適切な治療方針を決定する重要な指標です。GFR値とアルブミン尿の組み合わせで評価されるCKDのステージについて詳しく理解できていますか。

腎機能障害グレードによる重症度分類

腎機能障害グレード分類の概要
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GFR値による6段階評価

G1(≥90)からG5(<15)まで、糸球体濾過率で腎機能を段階的に分類

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アルブミン尿による3段階評価

A1、A2、A3の分類で尿蛋白量から腎障害の程度を評価

CGA分類による総合判定

原因疾患(C)、GFR(G)、アルブミン尿(A)の組み合わせで重症度を決定

慢性腎臓病(CKD)の重症度分類は、推算糸球体濾過率(eGFR)値によるGFRステージと尿中アルブミン/クレアチニン比によるアルブミン尿ステージの組み合わせで評価されます 。この分類システムにより、腎機能の現状把握と将来のリスク予測が可能となります 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11116248/

 

日本腎臓学会のエビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018では、GFRとアルブミン尿によるCGA分類(原因疾患・GFR区分・アルブミン尿区分)が標準的な評価方法として採用されています 。
参考)https://cdn.jsn.or.jp/data/CKD2018.pdf

 

腎機能障害のeGFRによるグレード分類

eGFR(推算糸球体濾過率)は血清クレアチニン値、年齢、性別から算出される腎機能の指標で、mL/分/1.73㎡の単位で表現されます 。健康な成人では約100mL/分/1.73㎡前後の値を示しますが、加齢とともに年間約1mL/分/1.73㎡ずつ低下するのが正常な経過です 。
参考)https://j-ka.or.jp/ckd/about.php

 

GFRによる6段階の分類:

  • G1(≥90):正常または高値 - 腎機能は保たれているが他の腎障害所見がある状態
  • G2(60-89):軽度低下 - 軽い機能障害があるが日常生活に支障なし
  • G3a(45-59):軽度~中等度低下 - 心血管疾患リスクの上昇開始
  • G3b(30-44):中等度~高度低下 - 合併症出現リスクが明らかに増加
  • G4(15-29):高度低下 - 腎代替療法(透析・移植)の準備が必要
  • G5(<15):末期腎不全 - 腎代替療法の導入が必要な状態

    参考)CKD(慢性腎臓病)のステージとは?

     

腎機能障害のアルブミン尿によるグレード分類

アルブミン尿は糸球体基底膜の障害を反映する早期の腎障害マーカーで、尿中アルブミン/クレアチニン比(mg/gCr)で評価します 。アルブミン尿の程度は将来の腎機能低下速度や心血管疾患リスクと強く相関することが知られています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5486452/

 

アルブミン尿による3段階の分類:

  • A1(<30mg/gCr):正常~軽度増加 - 腎障害のSOSサインが軽微な状態
  • A2(30-299mg/gCr):中等度増加 - 微量アルブミン尿として早期腎症を示唆
  • A3(≥300mg/gCr):高度増加 - 顕性腎症として明確な腎障害が存在

    参考)診断基準について

     

このアルブミン尿分類は糖尿病性腎症の病期分類とも密接に関連しており、特にA2以上では積極的な治療介入が必要とされます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11621156/

 

腎機能障害グレードと臨床症状の対応

各GFRステージでは特徴的な臨床症状や合併症のパターンが異なるため、ステージに応じた適切な管理が重要です 。特にG3a以降では自覚症状がなくても慎重な経過観察と治療介入が必要になります。
参考)CKD保存療法(自己管理のための10ポイント)

 

主要な症状出現パターン:

  • G1-G2期:多くの場合無症状、健康診断での異常所見発見が契機
  • G3a期:軽度の疲労感、夜間頻尿などの軽微な症状が出現する場合あり
  • G3b期:高血圧、軽度貧血、骨・ミネラル代謝異常の初期変化
  • G4期:腎性貧血、高カリウム血症、骨・ミネラル代謝異常の顕在化
  • G5期:尿毒症症状(食欲不振、吐き気、全身倦怠感、呼吸困難)の出現

    参考)https://www.kyowakirin.co.jp/ckd/check/check.html

     

興味深いことに、日本人のCKD患者では欧米人と比較して心血管疾患の発症率が相対的に低い傾向が報告されており、これは遺伝的要因や食生活の違いが影響している可能性が指摘されています 。

腎機能障害グレードによる薬物療法調整

腎機能低下に伴い、腎排泄型薬剤の投与量調整が必要となります 。特にG3a以降では薬物動態が大きく変化するため、薬剤師による処方監査と医師による慎重な投与設計が重要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11970011/

 

主要な調整対象薬剤:

  • 腎排泄型薬剤:抗菌薬、抗ウイルス薬、一部の降圧薬など投与量・投与間隔の調整
  • 腎毒性薬剤:NSAIDs、造影剤、アミノグリコシド系抗菌薬など使用制限
  • 電解質に影響する薬剤:ACE阻害薬、ARB、利尿薬などの慎重投与
  • 代謝に影響する薬剤:糖尿病薬、痛風薬など病態に応じた用量調整

臨床決定支援システム(CDSS)の導入により、腎機能障害患者における薬剤関連有害事象の発生率が有意に減少することが最近の研究で示されています 。

腎機能障害グレードの予後予測における意義

CKDのステージ分類は単なる現状評価にとどまらず、将来の腎機能低下速度心血管疾患発症リスクの予測において重要な意義を持ちます 。特に日本人を対象とした大規模コホート研究であるCKD-JAC研究やJ-CKD-DBの解析結果により、日本人特有のリスク因子が明らかになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11341658/

 

日本人CKD患者における腎機能低下の独立危険因子として、高血圧・糖尿病・高尿酸血症・喫煙・高度蛋白尿が特に重要であることが判明しています 。また、eGFR slope(年間腎機能低下速度)が0.5-1.0 mL/min/1.73m²/年以上の場合、長期予後不良のサロゲートエンドポイントとして有用であることが示されています 。
多職種連携による包括的CKD管理により、腎機能低下進行の抑制効果が期待できることも大規模研究で実証されており、特にG3-G5の進行したCKD患者において有効性が高いことが報告されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10192167/