ジチロシンは、分子式C18H20N2O6で表されるチロシンの二量体化合物です。正式名称はα,α'-Diamino-6,6'-dihydroxy-1,1'-biphenyl-3,3'-dipropionic acidとして知られ、英語名ではDityrosineと呼ばれています。
参考)https://www.weblio.jp/content/%E3%82%B8%E3%83%81%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%83%B3
この化合物は、タンパク質中のチロシン残基や遊離のチロシンが酸化反応を受けて形成される特徴的な構造を持ちます。ジチロシンは、生体内において酸化ストレスの指標として重要な役割を果たしており、特にタンパク質酸化損傷の新しいバイオマーカーとして医療分野で注目されています。
参考)https://www.jaica.com/products_protein_pc.html
興味深いことに、このL,L-ジチロシン(o,o'-ジチロシン)は、昆虫のクチクラレシリンを含む多くの生物材料の酸加水分解物の成分としても発見されており、生物界において広く分布していることが確認されています。
参考)https://www.glpbio.com/jp/gc36414.html
ジチロシンの形成は、チロシルラジカルを中間体とする酸化反応によって起こります。この過程では、以下のような因子が関与しています:
形成に関与する因子
チロシン残基が上記の要因により酸化されると、まずチロシルラジカルが生成されます。このラジカルは別のチロシン残基と反応し、ジチロシンを形成することがよく知られています。
参考)https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2023.950060/data/index.pdf
この反応機構は、酸化ストレスの生化学的過程を理解する上で重要です。特に、活性酸素種(ROS)による生体分子への攻撃において、タンパク質が主要な標的となることから、ジチロシンの生成は酸化的損傷の直接的な証拠となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4657513/
さらに、研究では活性ハロゲン種(HOBr)によるジブロモチロシンの形成など、類似の酸化修飾物も報告されており、これらは炎症やアレルギー反応に関連した組織障害の新しいマーカーとして期待されています。
ジチロシンの測定には、主にELISA(酵素免疫測定法)と免疫組織化学染色が用いられています。
参考)https://www.jaica.com/products_protein_dt_kit_pc.html
ELISA測定キットの特徴
このELISAキットにより、尿中のジチロシンを非侵襲的に測定することが可能となり、新しいタンパク質酸化マーカーとして期待されています。
免疫組織染色での応用
抗ジチロシンモノクローナル抗体を使用した免疫組織染色では、以下の手法が活用されています:
動脈硬化病巣において検出されるほか、コラーゲンやエラスチンといった結合組織中にも検出されており、血管系疾患の病態解明にも貢献しています。
ジチロシンの尿中検出は、リアルタイム型の酸化ストレスマーカーとして極めて有用な特性を持っています。これは、体内で生成したジチロシンが速やかに尿中に排泄されるためです。
参考)https://www.dojindo.co.jp/technical/beginner/stressmarker.pdf
臨床応用での利点
尿中ジチロシンの測定は、動脈硬化、心疾患、糖尿病、神経変性疾患などの酸化ストレスが関与する疾患の診断や経過観察において重要な指標となります。特に、これらの疾患では酸化ストレスによるタンパク質損傷が病態の進行に深く関わっているため、ジチロシンの測定値は治療効果の判定にも活用できます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8347360/
また、心理的・社会的ストレスの指標としての適用可能性も示唆されており、ストレス関連疾患の客観的評価法としても期待されています。採尿方法については、早朝第一尿の中間尿を採取し、採尿直後の検査または冷蔵保存が推奨されています。
参考)http://kansenjuku.com/wp-content/uploads/2016/02/%E5%B0%BF%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E6%8E%B2%E8%BC%89%E7%94%A8.pdf
ジチロシン測定の医療応用は、従来の酸化ストレスマーカーとは異なる独自のアプローチを可能にします。特に注目すべきは、パースルフィドによるタンパク質酸化損傷修復メカニズムとの関連性です。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K15983/
新規治療戦略への応用
最近の研究では、チロシン脱リン酸化酵素(PTP1B)がパースルフィド化を介して可逆的に修復されることが明らかになっており、ジチロシンの測定がこの修復機構の評価にも活用できる可能性があります。
さらに、食品機能評価における応用も注目されています。健康食品やサプリメントの抗酸化効果を客観的に評価する指標として、ジチロシンの変化を追跡することで、機能性食品の有効性を科学的に検証することが可能となります。
参考)https://www.toyo.ac.jp/assets/research/17001.pdf
この分野では、8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)などの他の酸化ストレスマーカーと組み合わせることで、より包括的な酸化ストレス状態の評価が実現でき、予防医学への応用も期待されています。