ゴボウシ(牛蒡子)は、キク科ゴボウ(Arctium lappa L.)の成熟した果実を乾燥させた生薬です。中医学では「悪実(あくじつ)」とも呼ばれ、辛苦・寒の性味を持ち、肺・胃経に帰経します。
主要な薬理作用として以下が挙げられます。
ゴボウシの主成分は、アルクチゲニン(arctigenin)やアルクチイン(arctiin)などのリグナン類、さらにパルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸です。これらの成分が相互に作用することで、多様な薬理効果を発揮します。
ゴボウシは単独で使用されることは少なく、多くの場合、複数の生薬と組み合わせた漢方処方として使用されます。代表的な処方例には以下があります。
消風散(しょうふうさん)
湿疹、じんましん、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に使用されます。ゴボウシの清熱解毒作用が皮膚の炎症を抑制し、かゆみや発疹の改善に寄与します。
銀翹散(ぎんぎょうさん)
風邪の初期症状、特に発熱や咽頭痛に対して使用されます。ゴボウシの疏散風熱作用により、体表の邪気を発散させ、症状の改善を図ります。
柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)
慢性的な炎症や肝機能の改善に使用され、ゴボウシの解毒作用が肝臓の負担軽減に貢献します。
臨床的には、以下の症状に対して特に効果が期待されます。
近年の研究により、ゴボウシに含まれるアルクチゲニンに注目すべき抗がん作用があることが明らかになっています。国立がん研究センター東病院の研究では、アルクチゲニンが抗がん剤が効きにくい膵臓がんの増殖を抑制することがマウス実験で確認されました。
アルクチゲニンの抗がんメカニズム
アルクチゲニンは以下の複数の経路を通じて抗がん効果を発揮します。
糖質制限・ケトン食との相乗効果
最新の研究では、ゴボウシと糖質制限やケトン食療法の併用により、相乗的な抗がん効果が期待されることが報告されています。糖質制限によりインスリン分泌が低下し、がん細胞の栄養源であるグルコースを制限する一方で、アルクチゲニンががん細胞の代謝適応を阻害することで、より効果的ながん治療が可能になると考えられています。
ゴボウシは比較的安全性の高い生薬とされていますが、使用に際してはいくつかの注意点があります。
主な副作用
禁忌・慎重投与
以下の患者には使用を避けるか、慎重に投与する必要があります。
薬物相互作用
ゴボウシは以下の薬物との相互作用に注意が必要です。
医療従事者として、ゴボウシの品質を適切に評価し、患者に安全で効果的な治療を提供するためには、以下の品質管理基準を理解することが重要です。
日本薬局方の規格基準
第十八改正日本薬局方では、ゴボウシについて以下の規格が定められています。
良質なゴボウシの選択基準
成分含量の確認
品質の指標として、アルクチインの含量が重要です。日本薬局方では、アルクチインを確認試験の指標成分として規定しており、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)による定量分析が行われます。
偽品・類似品への注意
市場には以下のような偽品や類似品が流通する場合があるため、注意が必要です。
適切な品質管理により、患者の安全性と治療効果の両方を確保することができます。医療従事者は、信頼できる供給業者からの調達と、適切な保存管理を心がける必要があります。
公益社団法人東京生薬協会による牛蒡子の詳細な品質基準と成分情報
協同組合藤沢薬業協会による牛蒡子の臨床応用と効果に関する専門情報