アルクチゲニン膵臓がんの新概念治療戦略

アルクチゲニンは膵臓がんの新しい治療概念として注目される天然物由来抗がん剤です。がん幹細胞への選択的毒性、栄養飢餓状態への効果、既存治療との併用可能性など、膵臓がん治療の新たな希望となる可能性があります。アルクチゲニンの膵臓がん治療における意義とは何でしょうか?

アルクチゲニンと膵臓がん

アルクチゲニンの膵臓がん治療における新概念
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天然物由来の選択的抗がん剤

ゴボウの種子(牛蒡子)から抽出され、がん幹細胞に対する選択的毒性を示す画期的な薬剤

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栄養飢餓環境での特異的作用

低酸素・低栄養状態のがん細胞の適応反応を阻害し、正常組織への毒性が極めて少ない

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GBS-01として臨床開発

日本発の革新的がん治療薬として第I/II相臨床試験が実施され、新たな治療選択肢を提供

アルクチゲニンの膵臓がん作用機序

アルクチゲニンの膵臓がんに対する作用は、従来の抗がん剤とは根本的に異なる革新的なメカニズムに基づいています。この化合物は、がん細胞が低酸素・低栄養状態で生存するための適応反応を選択的に阻害し、正常細胞にはほとんど影響を与えません。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2014/201411040A.pdf

 

膵臓がん細胞は、血管新生が不十分で低酸素・低栄養状態に陥りやすい特徴があります。アルクチゲニンは、このような環境下でがん細胞が生存するために活性化される代謝経路を特異的に標的とします。具体的には、がん細胞のグルコース代謝経路や脂質代謝に関わる酵素系に作用し、エネルギー産生を阻害することで選択的な細胞死を誘導します。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2011/112043/201114020A/201114020A0001.pdf

 

研究によると、アルクチゲニンは膵臓がん細胞株PANC-1細胞において、低グルコース条件下でCD24陽性・CD44陽性・ESA陽性のがん幹細胞様細胞に対して顕著な毒性を示しました。さらに、Oct3/4、Nanog、SOX2といった幹細胞性維持に重要な転写因子の発現を1-2μMの濃度でほぼ完全に抑制することが確認されています。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/143021/201411040A_upload/201411040A0004.pdf

 

アルクチゲニンのがん幹細胞選択的効果

膵臓がんの難治性の原因の一つに、がん幹細胞の存在があります。これらの細胞は化学療法や放射線療法に抵抗性を示し、再発や転移の源となることが知られています。アルクチゲニンは、このがん幹細胞に対して特異的な毒性を示すという画期的な特徴を持っています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP2014224085A/ja

 

実験研究では、アルクチゲニンががん幹細胞マーカーであるCD44+ESA+CD24+細胞の割合を大幅に減少させることが示されました。グルコース飢餓条件において、これらの細胞の割合は全分析細胞中の6.51%から、アルクチゲニン存在下では0.98%まで減少し、約85%の減少率を示しました。
ヌードマウスを用いたゼノグラフト膵臓がんモデルにおいても、アルクチゲニン投与群では腫瘍サイズが約3分の1まで縮小し、がん幹細胞様細胞の比率も有意に減少することが確認されています。この結果は、アルクチゲニンが膵臓がんの根治に向けた新しいアプローチを提供する可能性を示唆しています。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22590098/22590098seika.pdf

 

アルクチゲニン膵臓がん治療の臨床開発

アルクチゲニンの臨床応用に向けて、日本では国立がん研究センターを中心とした研究グループがGBS-01(アルクチゲニン含有牛蒡子エキス)の開発を進めました。これは、化学療法不応性膵がんに対する新しい治療選択肢として期待されています。
参考)https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2013/0325/index.html

 

GBS-01の第I/II相臨床試験では、安全性と有効性の評価が行われました。この試験では、従来の化学療法に抵抗性を示す進行膵がん患者を対象とし、アルクチゲニンの投与により腫瘍縮小効果や生存期間の延長が評価されました。特に注目すべきは、アルクチゲニン投与により腫瘍組織の血液灌流が改善され、潰瘍形成が抑制される傾向が観察されたことです。
臨床試験では、患者の検体を用いたバイオマーカー解析も実施され、治療前後でのがん幹細胞様細胞の変化や、薬物動態の個人差を検討するファーマコゲノミクス研究も並行して行われました。これらの研究は、個別化医療への応用や治療効果の予測に重要な知見を提供しています。

アルクチゲニンと既存膵臓がん治療の併用戦略

アルクチゲニンの最も興味深い特徴の一つは、既存の抗がん剤との併用により相乗効果を示す可能性があることです。特にゲムシタビンとの併用において、がん幹細胞様細胞に対してより強力な効果を示すことが実験的に確認されています。
ゼノグラフトモデルを用いた研究では、アルクチゲニン単独投与群、ゲムシタビン単独投与群、および両者併用群の比較が行われました。その結果、併用群では各単独投与群と比較して、CD24+CD44+ESA+細胞およびCD133+CD44+細胞の割合が最も顕著に減少することが示されました。
この併用効果の機序として、アルクチゲニンががん細胞の栄養飢餓適応反応を阻害することで、ゲムシタビンなどの細胞毒性薬剤に対するがん細胞の感受性が向上することが考えられています。また、アルクチゲニンが腫瘍血管の機能を改善し、薬剤デリバリーを向上させる可能性も示唆されています。

アルクチゲニンによる膵臓がん免疫微小環境の調節

近年の研究では、アルクチゲニンが膵臓がんの免疫微小環境にも影響を与える可能性が示唆されています。膵臓がんは免疫抑制性の微小環境を形成し、免疫療法に抵抗性を示すことが知られていますが、アルクチゲニンはこの状況を改善する可能性があります。

 

アルクチゲニン投与により、腫瘍組織内の血液灌流が改善され、低酸素状態が緩和されることで、免疫細胞の浸潤や機能が向上する可能性があります。また、がん幹細胞の減少により、腫瘍の免疫逃避機構が弱まり、免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法の効果が向上することも期待されます。
さらに、アルクチゲニンががん細胞のメタボライトを変化させることで、腫瘍関連マクロファージの極性化に影響を与え、M1マクロファージ(抗腫瘍性)の増加やM2マクロファージ(腫瘍促進性)の減少を誘導する可能性も考えられます。

 

このように、アルクチゲニンは単なる細胞毒性薬剤としてだけでなく、膵臓がんの免疫微小環境を改善し、免疫療法との併用による新しい治療戦略の基盤となる可能性を秘めています。今後の研究により、膵臓がん治療における革新的なアプローチとしての位置づけがより明確になることが期待されます。