デパケンR副作用で太る原因と対処法を医師が解説

デパケンRの副作用として体重増加が起きる仕組みや発現頻度、気分安定薬との比較、女性特有のリスクまで詳しく解説。体重増加への正しい対処法とは?

デパケンRの副作用で太る原因と対処法

「デパケンRで体重が増えると信じているなら、その対処法が患者の服薬中断を招いているかもしれません。」


この記事の3ポイント要約
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体重増加の副作用頻度は0.3%

デパケンRの承認時・承認後副作用調査(3,319例)では、体重増加・肥満の報告は11件(0.3%)にとどまる。抗うつ薬や抗精神病薬と比べて、太りにくい薬に分類される。

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2つのメカニズムが体重増加に関与

GABA系を介した摂食中枢への刺激と、L-カルニチン減少による脂質代謝の低下が体重増加に関係する。ただし、いずれも影響は軽微で、病状による過食・活動量低下が主因のことが多い。

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女性患者にはPCOSリスクも忘れずに

デンマークの16年間コホート研究では、バルプロ酸の高累積曝露群でPCOSリスクが最大7倍増加(HR7.08)。体重増加だけでなく、内分泌系への影響も含めた包括的なフォローアップが必要。


デパケンRで太る副作用の発現頻度と他の向精神薬との比較



デパケンR(バルプロ酸ナトリウム徐放錠)の体重増加が副作用として現れる頻度は、添付文書および承認後副作用調査では3,319例中11件、すなわち約0.3%にとどまります。これは、「デパケンを飲んだら太る」というイメージとは大きく乖離した数字です。


向精神薬の中でも、特に体重増加の副作用が多いとされるグループは明確に存在します。三環系抗うつ薬アミトリプチリンクロミプラミンなど)、NaSSA系のミルタザピン(リフレックス)、また多元受容体作用型抗精神病薬(MARTA)のオランザピンジプレキサ)やクエチアピンセロクエル)などです。これらは抗ヒスタミン作用や5-HT2C受容体遮断による食欲増進と代謝抑制が組み合わさり、顕著な体重増加を来しやすいです。


一方、デパケンRをはじめとする気分安定薬には、こうした明確な抗ヒスタミン作用や代謝抑制作用の報告はありません。気分安定薬の中で太りやすさを比較すると、リーマス(炭酸リチウム)>デパケンR>テグレトールカルバマゼピン)≧ラミクタール(ラモトリギン)という順になります。


つまり、「太りにくい薬に分類される」が基本です。


ただし、デパケンRで体重が増えたケースが臨床上まったくないわけではありません。重要なのは、「薬そのものが原因」なのか「それ以外の要因(病状、活動量低下、過食)が原因」なのかを丁寧に鑑別することです。この視点を持たないまま「デパケンRのせいで太った」と断定してしまうと、不要な服薬中断を招くリスクがあります。


デパケンは太るのか?原因と対処法【こころみ医学】 — 副作用頻度0.3%の根拠や他の向精神薬との比較表を掲載


デパケンRが太る原因①:GABA系を介した摂食中枢への作用

デパケンRの主な作用機序のひとつに、脳内のGABA(γ-アミノ酪酸)濃度を上昇させることが挙げられます。GABAはGABAトランスアミナーゼという酵素の働きを抑制することで増加し、神経の過剰興奮を抑える方向に作用します。これが抗てんかん・抗躁作用の根幹です。


ところがGABAは、視床下部の「食欲中枢」にも影響を及ぼします。具体的には、視床下部のPOMC神経(摂食を抑制する働きをもつ神経)をGABAが抑制することで、結果的に食欲が亢進する方向へ動く可能性があります。これがデパケンRによる体重増加の一因と考えられています。


ただし、GABAの関与だけで食欲が大きく変動するとは考えにくいです。GABAを抑制する薬剤である睡眠薬や抗不安薬では体重増加の副作用はほぼ報告されておらず、食欲中枢はGABA以外の複数の物質によっても複雑に制御されているためです。


注目すべき点として、デパケンRでは体重が減少する患者も存在するという事実があります。GABAが摂食を増やす方向にも抑える方向にも働く可能性があるためで、個人差が生じやすいメカニズムです。これはデパケンRが「必ず太る薬」ではないことを示す重要な根拠のひとつになります。


デパケンRが太る原因②:L-カルニチン減少と脂質代謝の低下

デパケンRは、L-カルニチンという物質を体内で減少させることが知られています。L-カルニチンは脂肪酸(長鎖脂肪酸)をミトコンドリア内に運び込み、β酸化(脂肪をエネルギーに変換するプロセス)を促進するアミノ酸類似物質です。ダイエットサプリにL-カルニチンが配合されていることが多いのは、この脂肪代謝促進作用があるからです。


L-カルニチンはメチオニンとリジンという必須アミノ酸から肝臓・腎臓で合成され、75%以上は赤身肉などの動物性食品から摂取されます。通常の食生活を送っていれば不足しにくい物質ですが、デパケンRを長期服用するとカルニチンの消費が増加し、欠乏状態に陥るケースがあります。


カルニチンが不足すると脂質が分解されにくくなり、余剰脂質が体内に蓄積しやすくなります。体重増加が起きる原因です。


さらに重要なのが、L-カルニチン欠乏は高アンモニア血症の指標になりうるという点です。デパケンRを服用中に高アンモニア血症が確認された場合、カルニチン欠乏が関与している可能性があります。このとき医薬品のエルカルチンFF(レボカルニチン)を補充することで、アンモニア値の改善と代謝改善が期待できます。エルカルチンは1日1,800mgから使用しますが、1日薬価は約1,762円と高額です。そのため、高アンモニア血症の確認など明確なカルニチン欠乏の証拠がある場合にのみ使用する薬です。


血液検査でアンモニア値を定期的にモニタリングする習慣は、体重増加の早期把握にもつながります。


バルプロ酸内服中に発症した高アンモニア血症に対してカルニチンが有効であったという症例報告(日本赤十字社リポジトリ)


デパケンRの体重増加と病状の関係:薬だけが原因ではない

臨床で見落とされがちな事実があります。デパケンRを服用中の患者が体重増加を訴える場合、その原因の多くは「薬の直接作用」よりも「病状そのものの影響」や「生活習慣の変化」にあることが多いです。


たとえば双極性障害躁状態では、暴飲暴食が症状の一部として現れることがあります。デパケンRの抗躁効果が不十分な場合、こうした症状が続き体重が増加します。うつ状態では過食傾向に加えて意欲低下・活動量減少が重なり、消費カロリーが大きく下がります。デパケンRには顕著な抗うつ効果は期待しにくいため、うつ病相が長引けばその間に体重が増加しやすいです。


一日中臥床していれば体重が増えるのは当然です。


こうした鑑別をしないまま「デパケンRのせいで太った」と思い込んでしまうと、患者は自己判断で服薬を中断するリスクがあります。実際に太ってしまったことを苦にして主治医に相談せず突然服薬をやめると、数週間後に病状が急激に悪化し、再入院や社会的機能の低下を招くケースがあります。気分安定薬は症状の再発予防に重要な役割を果たしているため、自己中断は避けるべきです。


医療従事者が患者に体重増加の不安を打ち明けられたときは、まず「本当に薬が原因か」を一緒に見極めることが必要です。体重測定の習慣化、食事・活動記録の確認、そして服薬の規則性などを多角的に確認することが、正しいアプローチになります。


女性患者に知らせるべきデパケンRの体重増加以外のリスク:PCOSと妊娠への影響

体重増加の話題でしばしば見落とされるのが、女性患者に特有のリスクです。これは体重増加以上に重大な問題になり得ます。


デンマークで実施された16年間(2008〜2023年)の全国規模コホート研究では、双極性障害またはてんかんの女性患者においてバルプロ酸への累積曝露量が最も高い群(365定義日用量超)で、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の発症リスクがハザード比7.08(95%信頼区間:3.85〜13.03)と約7倍に達することが示されました(*International Journal of Bipolar Disorders*, 2026年1月)。


PCOSが発症すると、インスリン抵抗性が高まることにより内臓脂肪型肥満が起きやすくなります。つまり「デパケンRで太る」という現象の背景に、PCOSが関与しているケースも否定できません。体重増加の原因がPCOSにあるとすれば、単純な食事・運動指導だけでは改善しにくいです。


もうひとつ見逃せないのが、妊娠への影響です。バルプロ酸の1日服用量が1,000mgを超えると、胎児の神経管閉鎖不全(脊髄髄膜瘤など)が生じる確率が高くなることが知られています。神経管は妊娠4週目に形成されるため、妊娠が判明してから対応しても手遅れになることがあります。


妊娠可能年齢の女性患者にデパケンRを処方する際は、妊娠3カ月以上前から葉酸0.4mg/日(ドラッグストアで入手可能な400μgサプリメント1錠に相当)の服用を開始する必要があります。また、デパケンRへの切り替えや1日量600mg以下への減量についても計画的に検討することが求められます。若年女性の患者には、思春期の段階からラモトリギン(ラミクタール)やレベチラセタムイーケプラ)を優先する選択肢も増えてきています。


てんかんミニ知識 第13回 バルプロ酸(デパケン):その2 — 女性患者の妊娠計画・PCOSリスク・葉酸服用の実践的な解説


デパケンRで体重が増えた患者への具体的な対処法

患者から「デパケンRを飲んでから太った」と相談されたときの対応を、臨床の流れに沿って整理します。


まず最初に行うことは、体重増加の記録を確認し原因を絞り込むことです。服薬開始前後の体重変化を数字で把握できている患者はまだ少数です。「なんとなく太った気がする」という訴えには、体重を毎日一定の条件(起床後・排尿後)で測定する習慣の獲得から始めるよう指導します。増加の勾配が急な場合、食事記録や活動量の変化も確認します。


次に、病状の安定性を確認します。躁症状・うつ症状が残存していれば、まず病状のコントロールを優先することが原則です。体重だけを切り取って薬を変更・減量することは、症状悪化のリスクを伴います。


食事・運動面での介入は、デパケンR自体に代謝抑制作用がほとんどないため、カロリーコントロールと運動習慣を組み合わせることで体重を戻しやすいです。具体的には、タンパク質の割合を増やし(熱産生効率が高い)、炭水化物を「夜の白米半分」程度に控える、週3回以上30分の有酸素運動を取り入れることが現実的です。


病状が十分安定しており、かつ他の気分安定薬で代替可能と主治医が判断した場合には、ラモトリギン(ラミクタール)やカルバマゼピン(テグレトール)への変薬を検討できます。ラモトリギンは体重増加の副作用がほとんどなく、特にうつ病相の予防に優れています。ただし変薬は症状悪化リスクを伴うため、慎重な漸増・漸減が必要です。


血液検査でアンモニア上昇が確認された場合に限り、エルカルチンFF(レボカルニチン)の補充が保険診療の適応となります。カルニチン補充で体重増加が改善する可能性がある場面です。


患者の「太ったことへの不満」を軽視せず、主治医と薬剤師が連携して原因を丁寧に紐解いていくアプローチが、服薬アドヒアランスの維持につながります。


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