チオペンタール(商品名:ラボナール)は、バルビツール酸系の静脈内投与麻酔薬として、全身麻酔の導入や難治性てんかん重積状態の治療に使用されます。しかし、その強力な薬理作用により、重篤な副作用が発現する可能性があり、医療従事者には十分な知識と対応策が求められます。
参考)http://igakukotohajime.com/2020/08/09/%E3%83%81%E3%82%AA%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%AB-thiopental/
チオペンタールの最も深刻な副作用として、呼吸抑制が挙げられます。静脈内注射後、10-30秒で作用が発現し、一時的な無呼吸を生じることがあります。この呼吸抑制は、特に高齢者や他の中枢神経抑制薬との併用時に顕著となります。
参考)http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/ouu/labo-anesth.html
循環器系への影響では、末梢血管拡張による血圧低下が主要な副作用です。チオペンタールは副交感神経刺激と交感神経抑制作用を有し、静脈灌流量減少により血圧低下を引き起こします。重症例では心停止に至る場合もあり、特にショックや重症心不全患者では使用が禁忌とされています。
参考)https://medpeer.jp/drug/d2405/product/47
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の副作用症例データベースには、チオペンタール投与による心肺停止、呼吸困難、心障害の報告が複数記載されており、これらの重篤な副作用は投与直後から数時間以内に発現する傾向があります。
参考)https://www.info.pmda.go.jp/fsearchnew/fukusayouMainServlet?scrid=SCR_LISTamp;evt=SHOREIamp;type=1amp;pID=1115400+++++amp;name=%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BD%DA%A5%F3%A5%BF%A1%EF%BF%BD%EF%BF%BD%EF%BF%BDamp;fuku=amp;root=3amp;srtnendo=2amp;page_max=100amp;page_no=0
チオペンタールにはヒスタミン遊離作用があるため、アレルギー反応を引き起こす可能性があります。特に喘息の既往がある患者では、気管支攣縮やアナフィラキシーショックのリスクが高まるため使用禁忌です。
副作用症例データベースでは、アナフィラキシー反応やアナフィラキシーショックの報告が確認されています。これらの反応は投与後数分以内に発現することが多く、迅速な対応が求められます。症状としては、皮疹、蕁麻疹、血管性浮腫、気管支痙攣、血圧低下、頻脈などが現れます。
アレルギー反応の早期発見には、投与開始後の継続的な監視が不可欠です。特に初回投与時や過去にバルビツール酸系薬物への反応歴がある患者では、より注意深い観察が必要となります。
チオペンタールの投与により、特徴的な電解質異常が発現します。頭蓋内圧上昇患者を対象とした後向き研究では、89.4%の患者が投与後に低カリウム血症を発症したと報告されています。
この低カリウム血症は、投与開始から約11時間後に発現し、25時間後に最低値に達する傾向があります。一方、チオペンタールの投与中止時には、34%の患者で高カリウム血症が観察され、中止後31時間後に最低値を示します。
このような電解質変動は、心電図異常や筋力低下、不整脈のリスクを増加させるため、定期的な血液検査による監視が必要です。特に投与開始時と中止時には、血清カリウム値の頻回測定と適切な補正が求められます。
チオペンタールには免疫抑制作用があり、易感染性を増加させることが多数の研究で報告されています。頭部外傷患者を対象とした研究では、チオペンタール非投与群と比較して、低用量投与群では21.4%、高用量投与群では43.8%の肺炎合併率を示し、投与量依存的な感染リスクの増加が確認されています。
この免疫抑制機序として、チオペンタールが好中球機能を阻害し、NFκBを阻害する作用を持つことが基礎研究で明らかにされています。また、骨髄抑制による無顆粒球症の報告もあり、白血球数の減少による感染症リスクの増大が懸念されます。
長期間の投与では、日和見感染症のリスクが特に高くなるため、感染兆候の早期発見と適切な抗菌薬治療の検討が重要です。定期的な血液検査による白血球数や好中球数のモニタリングが推奨されます。
チオペンタールの安全な使用には、適切な投与経路の確保が不可欠です。本薬剤は強アルカリ性(pH=11)であるため、血管外漏出により組織壊死を引き起こす可能性があります。末梢静脈からの投与時には、確実な血管内留置を確認し、通常は中心静脈管理が推奨されます。
禁忌事項として、ショックや大出血による循環不全、重症心不全、急性間歇性ポルフィリア症、喘息の既往などが挙げられます。これらの患者では、血管運動中枢抑制により過度の血圧低下を起こすリスクが高いためです。
投与量については、てんかん重積管理や頭蓋内圧亢進コントロールの場合、ボーラス投与は3-5mg/kg、持続投与は3-5mg/kg/hrが標準的です。他の鎮静薬併用時や高齢者では減量が必要であり、個々の患者の状態に応じた慎重な用量調整が求められます。
チオペンタール投与中は、連続的な心電図監視、血圧測定、酸素飽和度監視が必須です。呼吸抑制や無呼吸が発現した場合には、直ちに人工呼吸管理を開始し、必要に応じて気管内挿管を実施します。
アナフィラキシー反応が疑われる場合は、チオペンタールの投与を直ちに中止し、エピネフリンの投与、輸液負荷、ステロイド投与などの標準的なアナフィラキシー治療を行います。血管外漏出による組織壊死が発生した場合は、患部の冷却、ステロイド局所注射、形成外科的処置が検討されます。
電解質異常に対しては、定期的な血液検査(特にカリウム値)を実施し、適切な電解質補正を行います。投与中止時には段階的な減量を行い、急激な中止による反跳性の電解質異常を予防することが重要です。
長期投与例では感染症の早期発見のため、発熱、白血球数変化、炎症反応の監視を継続し、必要に応じて培養検査や画像診断を実施します。
チオペンタールは有効な薬剤である一方、重篤な副作用のリスクを伴うため、適応を慎重に検討し、十分な監視体制下での使用が不可欠です。医療従事者は、これらの副作用に関する知識を深め、迅速かつ適切な対応ができるよう準備しておく必要があります。