ビタミンA効果|視覚・免疫・皮膚粘膜への作用

ビタミンAは視覚機能や免疫力を維持し、皮膚や粘膜の健康を保つ脂溶性ビタミンです。医療従事者として知っておくべきビタミンAの生理作用から、欠乏症や過剰症、臨床応用まで総合的に解説します。この栄養素の働きを理解することで、患者への適切な栄養指導が可能になりますが、あなたはビタミンAの作用機序を正確に説明できますか?

ビタミンAの効果

ビタミンAの主要な効果
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視覚機能の維持

ロドプシン合成に不可欠で暗順応を支える

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免疫機能の強化

T細胞分化やIgA産生を促進し感染防御力を高める

皮膚・粘膜の健康維持

上皮細胞の分化を促進しバリア機能を保つ

ビタミンAの視覚機能への効果とロドプシン合成

 

ビタミンAは視覚の維持に欠かせない栄養素であり、特に暗所での視覚を担う杆体細胞の機能に重要な役割を果たします。網膜の杆体細胞に存在するロドプシンという視覚色素は、ビタミンAの代謝産物であるレチナールを構成成分としており、光を受けると分解されて視神経に信号を送ります。このロドプシンが再合成されることで暗順応が可能となり、薄暗い環境でも視力を維持できるのです。
参考)夜盲症とビタミンは、どんな関係がありますか? |夜盲症

ビタミンAが不足するとロドプシンの合成が阻害され、暗い場所で視力が低下する夜盲症(とり目)を引き起こします。夜盲症はビタミンA欠乏症の初期症状として最もよく観察される症状であり、発展途上国では栄養不良による失明の一般的な原因となっています。さらに症状が進行すると眼球乾燥症が現れ、角膜が軟化して失明に至ることもあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6464706/

網膜における光刺激反応のメカニズムとして、11-シスレチナールが光によってオールトランス型に異性化することでロドプシンが活性化され、視覚情報伝達のシグナルカスケードが開始されます。このプロセスでオールトランスレチナールはタンパク質から遊離し、最終的にビタミンA(レチノール)に還元されて再利用されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3601037/

ビタミンAの免疫機能への効果とレチノイン酸の作用

ビタミンAは「抗感染性ビタミン」として知られ、免疫系の正常な機能に不可欠な栄養素です。ビタミンAの活性代謝産物であるレチノイン酸は、細胞性免疫と液性免疫の両方において調節的役割を果たしています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6162863/

レチノイン酸は腸管関連リンパ組織において特に重要な機能を持ち、パイエル板や腸間膜リンパ節の樹状細胞がレチナールデヒドロゲナーゼ(RALDH)酵素を発現してレチノイン酸を合成します。この樹状細胞由来のレチノイン酸はT細胞やB細胞に小腸ホーミング特異性をインプリントし、リンパ球を適切に腸管組織へ配備する機能を持ちます。ビタミンA欠乏状態ではこのホーミング機構が機能せず、腸感染症のリスクが著しく上昇します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9738822/

レチノイン酸はTGF-β(形質転換増殖因子β)とともに制御性T細胞への分化を誘導し、過剰な免疫反応を抑制する働きも持っています。興味深いことに、この制御性T細胞誘導にはレチノイン酸受容体(RARα)の転写因子としての働きは不要であり、細胞質における新たな作用機序の存在が示唆されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3471201/

さらにレチノイン酸はB細胞の成熟を促進し、T細胞非依存性IgA抗体産生を増強することで粘膜免疫を強化します。ビタミンA欠乏マウスの腸間膜リンパ節樹状細胞は、IL-13やTNF-αを高産生する炎症性T細胞を誘導することが報告されており、ビタミンA欠乏が免疫バランスの破綻を引き起こすことが実験的に確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3789244/

ビタミンAの免疫調節機能に関する詳細な研究レビュー(英文)

ビタミンAの皮膚・粘膜への効果と上皮組織の維持

ビタミンAは全身の皮膚、角膜、口腔、気管支、肺、胃腸、膀胱、子宮などの上皮組織に作用し、粘膜を健康に保つ効果があります。上皮細胞の分化と増殖を促進することで、外界からの病原体の侵入を防ぐバリア機能を維持しています。
参考)ビタミンAとは?抗酸化作用が期待される、目や皮膚・粘膜のビタ…

皮膚や粘膜の正常な機能にはネバネバした粘液の分泌が重要ですが、ビタミンAが不足すると粘液が十分に作られず、粘膜が角質化して乾燥してしまいます。粘膜が乾燥するとチリやホコリ、細菌から体を守るバリア機能が低下し、異物が侵入しやすくなります。その結果、皮膚や粘膜にさまざまな症状が起き、アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患につながる可能性があります。
参考)ビタミンAの働きと1日の摂取量

線毛からはIgA抗体という粘液状の物質が分泌され、体内に侵入してきた異物を包み込み、線毛運動によって体外に押し出します。このIgA抗体の材料となるのがグルタミンとビタミンAであり、線毛運動が正常に行われるためにもビタミンAが必要です。
参考)ビタミンAのおもな特徴とアレルギー疾患を改善するはたらき

レチノイン酸とレチナールは皮膚において主要な活性代謝産物として働き、毛包幹細胞を用量依存的に調節し、毛周期、創傷治癒、メラノサイト幹細胞の機能に影響を与えます。レチノイン酸はメラノサイトの分化と増殖も用量依存的かつ時間依存的に制御しており、皮膚の色素調節にも関与しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9324272/

ビタミンA欠乏症では皮膚の乾燥とうろこ状の変化が現れ、汗腺や脂腺の機能低下によって皮脂膜が減少し、角化が不完全になって角質の保湿能力が低下します。
参考)ビタミンA欠乏症 - 11. 栄養障害 - MSDマニュアル…

健康長寿ネットによるビタミンAの働きと摂取量の解説

ビタミンAの摂取源と推奨量の臨床的指針

ビタミンAの食事からの供給源は大きく2つに分類されます。動物性食品に含まれる既成ビタミンA(レチノール、レチニルエステル)と、植物性食品に含まれるプロビタミンA(β-カロテンなどのカロテノイド)です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8157347/

既成ビタミンA含有量が最も多い食品はレバー、うなぎ、魚、卵、乳製品であり、特に牛レバーは100gあたり6,582μg RAEと極めて高い含有量を示します。プロビタミンAは葉物野菜、オレンジや黄色の野菜(サツマイモ、ニンジン、カボチャ)、トマト製品、果物、一部の植物油から摂取されます。β-カロテンのビタミンAへの変換効率を考慮すると、β-カロテンはレチノールの6分の1の効力に相当します。
参考)厚生労働省eJIM

日本における1日の摂取推奨量は成人男性700~750μg RAE、成人女性600μg RAEであり、耐容上限量は男女ともに3,000μg RAEとされています。レチノールの吸収率は最大75~100%と高く、食品中のβ-カロテンは10~30%程度が体内に吸収されます。調理や加熱処理により、食品中のβ-カロテンの生物学的利用能が増加することが報告されています。
参考)ビタミンA過剰 - 11. 栄養障害 - MSDマニュアル家…

臨床的に重要な点として、妊娠初期(妊娠3か月頃まで)にビタミンAを過剰摂取すると胎児の先天奇形リスクが上昇することが知られています。ビタミンAは細胞分化に関わる栄養素であり、胎児に過剰供給されると目や耳(顔周り)の形成不全が起こる可能性があります。妊娠を計画している段階からビタミンAの摂取量には注意が必要であり、特にレバーやビタミンAサプリメントの過剰摂取は避けるべきです。
参考)https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheet-vitamin-a.pdf

ビタミンA欠乏症の症状と臨床的影響

ビタミンA欠乏症(VAD)は低・中所得国における主要な公衆衛生問題であり、5歳未満の小児1億9,000万人に影響を与え、死亡を含む多くの健康被害をもたらしています。世界保健機関(WHO)は以前からのエビデンスに基づき、6~59か月の小児に対するビタミンA補給を推奨し続けています。​
ビタミンA欠乏症の初期症状として最もよく観察されるのが夜盲症であり、網膜の障害により暗い場所で周りが見えにくくなります。その後、眼球乾燥症という白眼(結膜)と角膜が乾燥して厚くなる病態が現れ、特にビタミンA摂取不足の小児や重度のカロリー・タンパク質不足の小児によくみられます。ビトー斑と呼ばれる泡状の沈着物が白眼に現れることもあり、乾いた角膜は軟化して劣化し、失明に至ることもあります。ビタミンA欠乏症は食料不安の蔓延率が高い国で失明の一般的な原因となっています。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3A%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E7%97%87

視覚以外の症状として、皮膚が乾いてうろこ状になり、肺、腸、尿路の内壁が肥厚して硬くなります。免疫システムが正常に機能しなくなり、感染症にかかりやすくなることが特に乳児と小児で問題となります。小児では成長と発達の遅れがみられ、重症のビタミンA欠乏症の場合、小児の半数以上が死亡する可能性があります。​
メタアナリシスによれば、ビタミンA補給により全死因死亡率が12~24%減少することが報告されており(リスク比0.88、95%信頼区間0.83~0.93)、これは高品質のエビデンスとして評価されています。下痢による死亡率の減少も9つの試験で報告されており、ビタミンA補給の臨床的意義は極めて大きいといえます。​
メディカルノートによるビタミンA欠乏症の詳細な症状解説

ビタミンA過剰症のリスクと医療的注意点

ビタミンAは脂溶性ビタミンであるため体内に蓄積しやすく、過剰摂取により様々な健康被害が生じます。ビタミンA中毒のほとんどの患者には頭痛と発疹がみられます。​
長期間にわたってビタミンAの過剰摂取を続けると、毛髪が硬くなり部分的な脱毛(まゆを含む)が生じ、唇がひび割れ、皮膚が乾燥して荒れることがあります。大量のビタミンAを長期的に摂取すると肝傷害が生じ、胎児の先天異常の原因となることもあります。後から現れる症状には重度の頭痛、全身の筋力低下があり、骨や関節の痛みがよくみられます(特に小児)。容易に骨折が起こることがあり(特に高齢者)、小児では食欲が減退し正常な成長と発達がみられないことがあります。​
一度に極めて多量のビタミンAを摂取すると、数時間以内に眠気、易怒性、頭痛、吐き気、嘔吐が生じ、その後ときに皮膚がむけてきます。頭蓋内圧が上昇し(特に小児)、嘔吐が起こります。ビタミンAの摂取を中止しないと昏睡や死に至ることもあります。​
妊娠中にイソトレチノイン(重度のにきびの治療に用いられるビタミンA誘導体)を摂取すると、先天異常の原因となります。妊娠しているかその可能性がある女性は、胎児に先天異常が生じるリスクがあるため、安全な上限(3,000μg RAE)を超える量のビタミンAを摂取するべきではありません。​
英国食品基準庁は以下の推奨を行っています:①レバーまたはレバー製品を週1回以上食べている人は、これ以上摂取量を増やさず、ビタミンAのサプリメントを摂らないこと、②閉経後の女性は骨粗鬆症リスクがあるためビタミンAサプリメントの摂取を避けること。​
MSDマニュアル家庭版によるビタミンA過剰症の詳細情報

 

 


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