アセナピン オランザピン効果比較統合失調症双極性障害

アセナピンとオランザピンの効果・副作用・作用機序の違いを医学的データで詳しく解説。統合失調症や双極性障害に対する臨床試験結果から、どちらを選ぶべきか判断できる?

アセナピン オランザピン効果比較

アセナピンとオランザピンの臨床比較
💊
受容体親和性

両薬剤ともMARTAに分類され、多受容体に作用

📊
効果プロファイル

統合失調症・双極性障害への有効性を比較

⚠️
副作用パターン

体重増加・代謝異常のリスク差を解析

アセナピンの作用機序と受容体親和性

アセナピンは多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)に分類される第2世代抗精神病薬です。セロトニン5-HT2A、5-HT2C受容体、ドパミンD2受容体、ノルアドレナリンα1、α2受容体、ヒスタミンH1受容体に対して強力な拮抗作用を示します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7609212/

 

特に注目すべき点は、アセナピンの5-HT1A受容体刺激作用です。これにより海馬の神経発火が阻害され、認知機能改善への寄与が期待されています。また、ドパミンアセチルコリン、ノルアドレナリンの遊離を促進することで、これらの神経伝達物質システムのバランスを調整します。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2016/P20160322002/780009000_22800AMX00377_H101_1.pdf

 

アセナピンは舌下投与という独特な投与経路を持ち、経口投与では生物学的利用率が2%未満という特徴があります。舌下投与により約1.25時間で最高血中濃度に到達し、半減期は約17時間です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3104691/

 

薬物代謝においては、主要経路であるN+-グルクロン酸抱合体の生成にUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A4が関与し、CYP1A2が主要な代謝酵素として機能します。
参考)https://www.cocorone-clinic.com/column/asenapine.html

 

オランザピンの薬理学的特性と作用メカニズム

オランザピンもアセナピンと同様にMARTAに分類され、多受容体に対する拮抗作用を示します。ドパミンD2受容体、セロトニン5-HT2A、5-HT2C受容体、ムスカリン受容体、ヒスタミンH1受容体に対して強力な親和性を持ちます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/16/2/16_133/_html/-char/ja

 

オランザピンの特徴的な効果として、制吐作用があります。これはドパミンD2受容体、セロトニン5-HT2,3受容体、ムスカリン受容体、ヒスタミンH1受容体に対する拮抗作用によるもので、がん化学療法に伴う悪心・嘔吐の治療にも使用されています。
また、オランザピンには鎮静作用や食欲増進作用があり、衝動コントロール障害や不眠、食欲不振に対しても応用されることがあります。
参考)https://cocoromi-mental.jp/olanzapine/about-olanzapine/

 

しかし、オランザピンはムスカリンM3受容体拮抗作用により、膵臓β細胞のインスリン分泌調整に影響を与えるため、糖尿病患者には禁忌となっています。

統合失調症治療における臨床効果比較

統合失調症に対するアセナピンとオランザピンの直接比較試験では、興味深い結果が得られています。

 

80名の統合失調症患者を対象とした単盲検ランダム化比較試験では、両薬剤とも統計学的に有意な症状改善を示しました。PANSS(陽性・陰性症状評価尺度)スコアの改善度では、両群間に統計学的有意差は認められませんでした。
しかし、実臨床データを用いた日本人での比較研究では、治療継続率に明確な差が見られました。95名の統合失調症患者(アセナピン群46例、オランザピン群49例)を対象とした後ろ向き研究で、6ヵ月間の治療継続率はアセナピン群27.3%、オランザピン群50.8%となり、オランザピンの方が継続率が高いことが示されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8684434/

 

この継続率の差は、アセナピン特有の副作用である口腔内感覚鈍麻や舌下錠という剤形による服薬アドヒアランスの問題が関与していると考えられています。
参考)http://www.pharmacy-fujita.jp/news/entry-120.html

 

長期安全性試験では、アセナピン5mg 1日2回投与群において、26週間の継続投与で良好な忍容性が確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5546824/

 

双極性障害急性躁病相への治療効果

双極性障害の急性躁病相に対する治療効果において、アセナピンとオランザピンは異なる特徴を示します。

 

3週間の臨床試験において、アセナピン(5-10mg 1日2回)とオランザピン(5-20mg 1日1回)を比較した結果、両薬剤ともプラセボに対して有意な改善効果を示しました。特に、混合エピソード患者302名を対象とした解析では、アセナピンが抑うつ症状の改善にも有効性を示すことが確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3152513/

 

双極性障害治療におけるコスト効果分析では、カナダでの5年間の評価において、アセナピンがオランザピンに対して優位な戦略(dominant strategy)となることが示されました。これは、錐体外路症状の発現率の低さ、体重増加リスクの軽減、糖尿病・高血圧・冠動脈疾患・脳卒中などの長期代謝合併症のリスク低下によるものです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3905654/

 

ただし、効果の強さという点では、アセナピンはリスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールと比較して効果は弱いものの、双極性障害急性躁病相への効果を有することが確認されています。

アセナピンとオランザピンの副作用プロファイルと安全性

副作用プロファイルにおいて、両薬剤は明確な違いを示します。

 

体重増加と代謝異常
オランザピンは体重増加のリスクが高く、52週間の長期試験においてもこの傾向が持続します。これに対してアセナピンは、オランザピンと比較して体重増加が少ないことが複数の研究で確認されています。
オランザピンの主な副作用として、傾眠(頻度1%以上)、注意力・集中力の低下、体重増加、不眠、アカシジア、口渇、倦怠感、便秘が報告されています。特に傾眠は強い鎮静作用によるもので、服用開始時や増量時に強く現れる傾向があります。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/medicine-clinical-questions/fb7ynss126h

 

糖尿病リスク
重要な違いとして、オランザピンは糖尿病患者に禁忌である一方、アセナピンは糖尿病患者にも使用可能です。これは、オランザピンのムスカリンM3受容体拮抗作用が膵臓β細胞のインスリン分泌調整に影響するためです。
実際の臨床例では、糖尿病を合併した終末期悪性リンパ腫患者において、オランザピンが禁忌であったためアセナピンが使用され、良好な制吐効果を示した報告があります。
アセナピン特有の副作用
アセナピンの特有の副作用として、口腔内感覚鈍麻があります。これは舌下錠という剤形に関連した副作用で、患者の服薬アドヒアランスに影響を与える可能性があります。
参考)https://cocoromi-mental.jp/asenapine/about-asenapine/

 

がん患者での制吐作用比較
興味深い応用として、がん患者の悪心・嘔吐に対する効果比較研究があります。オランザピンが制吐薬として確立されている中、アセナピンも同様の作用機序から制吐効果が期待されており、糖尿病などでオランザピンが使用困難な患者への代替選択肢として注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10932765/

 

臨床現場において、薬剤選択は患者の基礎疾患、副作用リスク、服薬アドヒアランスなどを総合的に考慮して決定する必要があります。アセナピンは代謝系副作用が少ない利点がある一方、オランザピンは治療継続率や効果の面で優位性を示すことが多く、それぞれの特性を理解した上での適切な使い分けが重要です。

 

アセナピンとオランザピンの統合失調症治療における有効性と安全性の比較試験データ
糖尿病患者に対するアセナピンの制吐作用に関する症例報告