アクネ桿菌もアクネ菌も同じ菌なのに、抗菌薬を正しく使っても3割以上の患者で効果が落ちている。

「アクネ桿菌」と「アクネ菌」は、どちらも同一の菌を指す俗称です。正式には現在 *Cutibacterium acnes*(キューティバクテリウム・アクネス、C. acnes)と呼ばれます 。「桿菌(かんきん)」とは棒状・こん棒状の形態を持つ細菌のことを指す形態学的な分類用語であり、アクネ菌が顕微鏡下でこん棒状に見えるグラム陽性桿菌であることから、「アクネ桿菌」という呼称が医療・学術の場で使われてきました 。
関連)http://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon2/nikibi-kenkisei.html
つまり呼び方が違うだけです。
全長3〜5μm、幅0.4〜0.7μmという非常に小さなサイズで 、ヒトの毛包皮脂腺に豊富に定着しています。皮膚1cm²を綿棒で強く擦った培養では、場所によって5〜10万個ものアクネ菌が検出されることが分かっています 。これはハガキ1枚の面積(約148cm²)に換算すると、数百万個単位が存在する計算になります。
意外ですね。
分類学的には細菌の「放線菌」の仲間に属しており 、一般にイメージされる腸内細菌などとは系統的に大きく異なります。皮膚科で「アクネ桿菌」「アクネ菌」どちらの表現を使っても医学的に誤りではありませんが、正式な学術文書では2016年以降の新名称 *Cutibacterium acnes* を用いることが求められます。
関連)https://nite-gov.note.jp/n/n95526e0b86d0
アクネ菌は1896年に初めて確認された歴史ある菌種です 。長年にわたって *Propionibacterium acnes*(P. acnes、プロピオニバクテリウム・アクネス)という学名で知られていました。プロピオン酸を産生する能力からこの属名が付けられたものです 。
関連)https://www.sugiyama-gen.co.jp/cms_Gm8xy6aA/wp-content/uploads/2022/06/202201131538105132.pdf
再分類は2016年に行われました。
2016年、ゲノム解析・生化学的性状の研究が進み、皮膚(cutis)に生息するグループが他の *Propionibacterium* 属と遺伝的・表現型的に明確に区別できることが判明しました 。その結果、新属 *Cutibacterium* が設立され、*P. acnes*・*P. avidum*・*P. granulosum* などの皮膚由来種がまとめて移行しました 。
関連)https://www.gbif.org/species/144093439
これは使えそうです。
医療現場では再分類後も旧名称 *P. acnes* が記載された文献や添付文書が多数存在するため、文献検索の際には両方の名称でのサーチが必要です。特に2016年以前の皮膚科・形成外科領域の論文を参照する場合は、*P. acnes* と *C. acnes* が同一菌種を指していることを意識しておく必要があります。旧名と新名の混在が、現場での「アクネ桿菌とアクネ菌は違う菌なのか?」という疑問を生む一因になっています。
以下は菌名の変遷を整理した表です。
| 時代 | 学名 | 備考 |
|---|---|---|
| 1896年〜2015年 | Propionibacterium acnes(P. acnes) | プロピオン酸産生能から命名 |
| 2016年〜現在 | Cutibacterium acnes(C. acnes) | ゲノム解析により新属へ再編 |
現在の *C. acnes* は大きく3つの亜種(サブスペシーズ)に分類されています 。タイプI(*C. acnes* subsp. *acnes*)・タイプII(subsp. *defendens*)・タイプIII(subsp. *elongatum*)の3亜種です 。
関連)https://www.an.shimadzu.co.jp/apl/18053/index.html
亜種ごとに役割が異なります。
リボタイプ(遺伝子型)によって、炎症を起こしやすい「悪玉アクネ菌」と皮膚を守る「善玉アクネ菌」に大別されることが研究で明らかになっています 。ニキビができやすい人では悪玉型の比率が高く、逆にニキビができにくい人の皮膚では善玉型が多く存在するとされています。つまり「アクネ菌の数が多い=ニキビがひどい」という単純な図式ではないということです。
関連)https://rd.bfsci.co.jp/rtheme/skin-care/8622/
数が多くても問題ない場合があるということですね。
医療従事者として重要なのは、「アクネ菌を全滅させればよい」という発想は現代では否定されている点です。善玉型を含む常在菌バランスを崩すことで、他の病原菌が侵入しやすくなるリスクがあります 。難治性のニキビでは、アクネ菌だけでなく多様な菌種や真菌が関与している症例も存在することが報告されています 。この多様性の視点が、現代のニキビ治療戦略に不可欠です。
関連)https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-17K15524/17K15524seika.pdf
参考:アクネ菌のリボタイプと炎症誘導能の違いについて詳細な研究報告はこちら
科学研究費補助金研究成果報告書「難治性尋常性ざ瘡とマイクロバイオームの関係」(国立情報学研究所)
アクネ菌はニキビのない健康な人にも普遍的に存在する皮膚常在菌です 。毛包皮脂腺の最も深部(嫌気的環境)を主な生息域としており、通性嫌気性細菌であるため酸素がなくても増殖できますが、酸素がある環境でも生育できる柔軟性を持ちます 。
関連)https://takamiclinic.or.jp/media/acne/faq/q18/
これが強みです。
健常な皮膚では、アクネ菌が皮脂を分解して脂肪酸を産生し、皮膚表面を弱酸性(pH約5)に維持します 。この弱酸性環境が、黄色ブドウ球菌などの病原菌の定着を阻止する防御バリアとして機能しています 。また、アクネ菌自体が産生する脂肪酸には他の細菌への殺菌活性があり、皮膚の自己防衛機構の一端を担っています 。
関連)https://nite-gov.note.jp/n/n95526e0b86d0
皮膚科では有益な面もあるということですね。
思春期に皮脂分泌が急増すると、毛包内でアクネ菌が過剰増殖し、リパーゼという酵素でトリグリセリドを分解してプロピオン酸・遊離脂肪酸を大量産生します。これが毛包壁を刺激して角化異常を引き起こし、免疫反応を介した炎症(赤ニキビ・膿疱)へと発展します 。アクネ菌が2歳ごろから皮膚に定着し始め、思春期にピークに達するという事実も 、医療従事者として知っておくべき重要な生態情報です。
関連)http://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon2/nikibi-kenkisei.html
参考:アクネ菌の皮膚常在菌としての役割と生態について
ナイト(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)「いいヤツ?いやなヤツ!? ニキビの原因『アクネ菌』」
世界的なAMR(薬剤耐性)対策の潮流のなか、アクネ菌でも耐性菌の増加が深刻な問題になっています 。従来のアクネ菌耐性は遺伝子変異が主因でしたが、近年は耐性遺伝子そのものが菌間で伝播する多剤耐性株が増加しており 、ニキビ治療に限らず他科での抗菌薬使用の影響も指摘されています 。
関連)https://amr.jihs.go.jp/pdf/20220127_press.pdf
これは医療全体の問題です。
2024年時点での推奨は、内服ではテトラサイクリン系、外用ではニューキノロン系が有効とされています 。ただし炎症が落ち着いた後は、耐性を生まないよう過酸化ベンゾイル(ベピオ®、デュアック®、エピデュオ®)やアダパレン(ディフェリン®、エピデュオ®)への早期切り替えが推奨されています 。抗菌薬の長期投与を避けるための「出口戦略」を最初から組み込んでおくことが、現代のニキビ治療の原則です。
抗菌薬を使い続けないことが基本です。
医療従事者として患者指導に当たる際には、「アクネ菌をゼロにする」のではなく「悪玉型の過剰増殖を抑えながら皮膚バリアを保つ」という治療コンセプトを共有することが重要です。薬剤耐性の現状については国立感染症研究所のAMR臨床リファレンスセンターが詳細な情報を提供しています。
参考:薬剤耐性アクネ菌と令和時代のニキビ治療指針
AMR臨床リファレンスセンター「令和時代のニキビ治療」(国立感染症研究所)
参考:J-STAGEによる薬剤耐性アクネ菌の最新研究論文
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