アミラーゼはデンプンやグリコーゲンなどの多糖類を加水分解する消化酵素で、血清中にはP型(膵型)とS型(唾液腺型)の2種類のアイソザイムが存在します。これらは同じ反応を触媒しながらも、別の遺伝子支配を受け、物理化学的性状に相違がある酵素群として分類されています。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402222818
P型アミラーゼは分子量約54,000~60,000で膵臓に多く存在し、膵疾患で上昇を示します。一方、S型アミラーゼは分子量約56,000~65,000で唾液腺に多く存在し、唾液腺疾患で上昇します。正常状態では血中アミラーゼは60~160Somogyi単位または110~300IU/Lの範囲で一定レベルに保たれています。
参考)https://data.medience.co.jp/guide/guide-01040008.html
血清アミラーゼのほとんどすべては膵臓および唾液腺に由来することが確認されており、電気泳動法(アガロース膜)による分析で、P型:15.7~64.0%、S型:36.0~84.3%、P/S比:0.19~1.79という基準値が設定されています。
参考)https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060051.html
急性膵炎では、発症後24時間以内にP型アミラーゼが急速に血中に増加し、時間の経過とともに尿中に移行します。回復すれば数日で基準値に戻る場合が多く、この動態は急性膵炎の診断と経過観察において極めて重要な指標となります。
慢性膵炎の急性増悪時においても、P型アミラーゼの上昇が認められ、膵嚢胞や膵管閉塞(膵石、膵癌など)でも同様の上昇パターンを示します。特に膵癌による膵管閉塞では、P型アミラーゼの持続的上昇が観察されることがあり、他の膵機能検査と併せて診断の補助として活用されています。
尿中アミラーゼは血清アミラーゼ値と並行することが多いものの、血清よりも高値が長く続くという特徴があります。このため、急性膵炎が疑われ血清アミラーゼの上昇が明らかでない症例や、血清アミラーゼが正常化した後の経過観察に有効とされています。
S型アミラーゼの上昇は主に唾液腺系疾患で観察されます。最も一般的なのは耳下腺炎(ムンプスなど)で、ウイルス感染による炎症により唾液腺からのS型アミラーゼが血中に漏出し、特徴的な上昇パターンを示します。
唾液腺の化膿性炎症や唾石による唾液腺導管の閉塞でも、S型アミラーゼの顕著な上昇が認められます。これらの疾患では、物理的な閉塞や炎症により腺房から血液中へのアミラーゼ移行が促進されるためです。
注目すべきは、稀にアミラーゼ産生腫瘍によってS型アミラーゼが上昇する症例も報告されていることです。この場合、腫瘍組織自体がアミラーゼを産生するため、通常の唾液腺疾患とは異なる上昇パターンを示すことがあり、画像診断や組織学的検査との組み合わせが重要になります。
マクロアミラーゼは、アミラーゼが免疫グロブリン(主にIgG、IgA)と結合し高分子化した複合体です。この高分子化により腎臓での排泄が低下するため、尿中アミラーゼは正常でも血中アミラーゼは高値を示すという特異的な病態を呈します。
マクロアミラーゼ症の診断には、アミラーゼ・クレアチニンクリアランス比(ACCR)の測定が極めて有効です。計算式は以下の通りです。
ACCR(%)= 100×(尿中Amy×血中Cre)÷(血中Amy×尿中Cre)
マクロアミラーゼ症では、尿中への排泄の低下に従いACCRが1%以下と著しい低値を示します。正常値は通常1~4%程度であるため、この顕著な低下は診断の決め手となります。
この病態は良性であり、特別な治療を必要としませんが、膵疾患との鑑別において重要な意義を持ちます。血中アミラーゼ上昇を認めた場合、マクロアミラーゼ症の可能性を考慮することで、不必要な検査や治療を回避できます。
現在の標準的な測定法は電気泳動法(アガロース膜)ですが、この技術は長年の改良により高い精度と再現性を実現しています。アガロース膜電気泳動法では、P型とS型のアイソザイムを明確に分離し、それぞれの相対的な割合を正確に測定することが可能です。
参考)https://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/5302225
検体必要量は血清0.2~0.3mLと少量で済み、保存条件は冷蔵、所要日数は2~7日となっており、日常診療において実用的な検査として確立されています。実施料は48点で、生化学的検査(Ⅰ)の判断料144点が適用されます。
近年では、より迅速で自動化された測定法の開発も進んでいますが、アイソザイム分析の精度と信頼性においては、電気泳動法が依然として標準的手法として位置づけられています。特に複雑な症例や詳細な病態解析が必要な場合には、電気泳動法による詳細な分析が推奨されています。
測定法の技術的進歩により、従来は困難であった微細な変化の検出や、複数のアイソザイムパターンの同時解析も可能になってきており、今後の診断精度向上に期待が寄せられています。