スキサメトニウムコリンエステラーゼ分解機序作用機序代謝

スキサメトニウムが血漿コリンエステラーゼによって分解される仕組みとその作用機序について医療従事者向けに詳しく解説。筋弛緩薬として使用されるこの薬剤の代謝経路と臨床的意義を理解できるでしょうか?

スキサメトニウムコリンエステラーゼ分解機序

スキサメトニウムの代謝メカニズム
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血漿コリンエステラーゼによる分解

スキサメトニウムが速やかに代謝される仕組み

脱分極性筋弛緩作用

神経筋接合部での作用機序

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代謝産物と排泄

コリンとコハク酸への分解経路

スキサメトニウムの血漿コリンエステラーゼ分解

スキサメトニウムは神経筋接合部のアセチルコリン受容体に結合して脱分極性筋弛緩作用を発現しますが、その代謝は血漿コリンエステラーゼ(偽性コリンエステラーゼ)によって行われます。この酵素はスキサメトニウムを速やかに分解し、まずコリンとサクシニルモノコリンに代謝します。
参考)https://www.maruishi-pharm.co.jp/medical/knowledge/perioperativedrugs/muscle-relaxants/suxamethonium/

 

血漿コリンエステラーゼによる分解は二段階で進行します。

  1. 第一段階:スキサメトニウム → コリン + サクシニルモノコリン
  2. 第二段階:サクシニルモノコリン → コリン + コハク酸

この代謝過程により、スキサメトニウムの作用時間は通常6-11分と短時間で終了します。代謝は極めて速やかで、投与後5分までに投与量の約39.4%が、60分までに約71%が排泄されることが確認されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000230546.pdf

 

🔬 代謝の特徴

  • 血漿中での代謝が主体
  • 肝代謝に依存しない
  • 腎機能への影響が少ない
  • 代謝速度に個人差がある

重要なポイントとして、スキサメトニウムは神経筋接合部内の真性コリンエステラーゼでは分解されません。これが反復性の受容体結合と持続的な脱分極を可能にしています。
参考)http://nihon-anesthesiology.jp/news/post-1369.html

 

スキサメトニウムの脱分極性作用機序

スキサメトニウムはアセチルコリンと同様に、筋型ニコチン性アセチルコリン受容体のα/ε(α/γ)およびα/δ接合部に2分子が同時に結合します。この結合によりイオンチャネルが開放され、終板の脱分極が起こります。
🎯 作用機序の特徴

  • アセチルコリン2分子が結合した構造
  • ニコチン性受容体への結合
  • 終板脱分極の持続
  • 筋線維束攣縮(fasciculation)の発現

脱分極は長時間持続し、終板とその周囲の筋膜が電気的に不活性となることで脱分極性遮断(phase I block)が生じます。この際、イオンチャネルの開口により細胞内カリウムが放出され、血中カリウム濃度が約0.5mmol/L上昇します。
参考)https://anesth.or.jp/files/pdf/publication4-6_20180427s.pdf

 

作用発現は極めて迅速で、静脈内投与後1分以内に筋弛緩が現れ、2分以内に最大効果に達します。この速やかな作用発現は、迅速導入における気管挿管時に特に有用です。
反復投与や大量投与(6mg/kg超)では、遮断作用が脱分極をきたさず、アセチルコリンに不感応となる第二相遮断(phase II block)に移行することがあります。

スキサメトニウムのコリンエステラーゼ阻害薬相互作用

コリンエステラーゼ阻害薬との相互作用は、スキサメトニウム使用時の重要な注意点です。ネオスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬は、血漿コリンエステラーゼによるスキサメトニウムの分解を阻害するため、筋弛緩作用が延長します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0

 

⚠️ 重要な相互作用

  • ネオスチグミン:分解阻害による作用延長
  • プロカイン:血漿コリンエステラーゼ競合
  • エドロホニウム:類似の分解阻害作用
  • 有機リン系農薬:コリンエステラーゼ不可逆阻害

プロカインも血漿コリンエステラーゼで分解されるため、スキサメトニウムの分解と競合し、筋弛緩作用を増強させます。この相互作用は、局所麻酔薬使用時に特に注意が必要です。
参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/mhiramt/EText/Pharmacol/Pharm-II02-7.html

 

通常、非脱分極性筋弛緩薬の効果を逆転させるために投与されるコリンエステラーゼ阻害薬は、脱分極性筋弛緩薬であるスキサメトニウムに対しては逆効果となります。これは、脱分極性と非脱分極性筋弛緩薬の作用機序の根本的違いによるものです。
コリンエステラーゼ活性が先天的に低い異型コリンエステラーゼ血症の患者では、スキサメトニウムの代謝が著明に遅延し、数時間にわたって筋弛緩が持続する可能性があります。
参考)https://journal.jspn.or.jp/Disp?style=ofullamp;vol=126amp;year=2024amp;mag=0amp;number=12amp;start=806

 

スキサメトニウムの代謝産物と排泄経路

スキサメトニウムの代謝産物は、コリンとコハク酸という生理的物質です。これらの代謝産物は人体に無害で、主に腎臓から排泄されます。
📊 排泄データ

  • 5分後:投与量の39.4%排泄
  • 60分後:投与量の71%排泄
  • 未変化体の尿中排泄率:平均2.2%
  • 代謝率:投与量の約90%が代謝

コリンは神経伝達物質の前駆物質として再利用され、コハク酸はクエン酸回路に組み込まれてエネルギー産生に利用されます。この代謝経路は生理的で、特別な解毒機構を必要としません。

 

排泄は主に腎臓を通じて行われますが、代謝産物が生理的物質であるため、腎機能に対する負担は minimal です。肝機能障害患者でも代謝に影響が少ないことが、スキサメトニウムの利点の一つです。

 

興味深いことに、動物実験(イヌ)では投与量の10%が尿中に回収されており、代謝の速やかさが確認されています。この速やかな代謝により、蓄積性がなく、反復投与時の予測可能性が高まります。

スキサメトニウムのコリンエステラーゼ変異と臨床的意義

血漿コリンエステラーゼの遺伝的変異は、スキサメトニウムの代謝に大きな影響を与えます。正常型(Usual型)、非定型型(Atypical型)、サイレント型(Silent型)、フルオライド耐性型(Fluoride resistant型)の4つの主要な変異が知られています。

 

🧬 コリンエステラーゼ変異型の特徴

  • 正常型(UU):約96%の頻度、正常代謝
  • 非定型型(UA、AA):代謝遅延、作用延長
  • サイレント型:極めて稀、著明な代謝遅延
  • フルオライド耐性型:中等度の代謝遅延

非定型型コリンエステラーゼを持つ患者(約3-4%の頻度)では、スキサメトニウムの代謝が著明に遅延し、通常5-10分の作用時間が2-6時間に延長することがあります。この場合、遷延性無呼吸が問題となり、長時間の人工呼吸管理が必要になります。
術前検査としてコリンエステラーゼ活性の測定や、ジブカインナンバー(dibucaine number)の測定により、変異型の検出が可能です。ジブカインナンバーが正常値(通常80以上)より低い場合は、非定型型の可能性を考慮する必要があります。

 

このような遺伝的背景を持つ患者では、スキサメトニウムの使用を避け、他の筋弛緩薬を選択することが推奨されます。また、家族歴の聴取も重要で、家族内に類似の症状を示した者がいないかを確認することが必要です。

 

丸石製薬によるスキサメトニウムの詳細な薬理作用と代謝機序の解説
日本麻酔科学会による筋弛緩薬と拮抗薬の公式ガイドライン