トラセミド(商品名:ルプラック®)は、スルフォニル尿素-ピリジン系のループ利尿薬として、従来の利尿薬とは異なる薬理特性を持ちます。腎臓のヘンレループ上行脚における Na-K-2Cl 輸送体を阻害することで、強力な利尿効果を発揮します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%89
特筆すべき点として、トラセミドはループ利尿作用に加えて抗アルドステロン作用を併せ持つことが挙げられます。この二重の機序により、フロセミドと比較して約10-30倍の強力な利尿効果を示しながらも、カリウム保持性を有するという優れた特徴を持ちます。
参考)https://pharmacol.or.jp/old/fpj/issue/TOC01-118(2)/01-118-097.html
バイオアベイラビリティは79-91%と高く、個体差が少なく安定した効果を示すことも重要な特徴です。これにより、高用量フロセミド投与時に問題となる薬効の不安定性を解決できる可能性があります。
参考)https://www.nanzando.com/static/viewer/24391/HTML/index2.html
浮腫性疾患において、トラセミドは心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫の全てに適応を有し、優れた治療効果を示します。臨床試験では、フロセミドと比較してより高い有効性と安全性が確認されています。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00045766
動物実験では、トラセミドは尿中 Na+/K+ 比を改善し、フロセミドとスピロノラクトンの併用に匹敵する効果プロファイルを示しました。これは、トラセミド単剤で従来の併用療法と同等の効果が期待できることを意味します。
作用持続時間は約6-12時間と長く、1日1回または2回の投与で24時間継続した利尿作用を得ることが可能です。これにより、患者のQOL向上と服薬アドヒアランスの改善が期待されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/21/4/21_147/_pdf
慢性心不全患者において、トラセミドは特に重要な役割を果たします🫀。大規模臨床試験では、トラセミドがフロセミドと比較して心臓死の発生率を低減したことが報告されており、その機序の一部に抗アルドステロン作用の寄与が推察されています。
フロセミド+スピロノラクトン併用からトラセミド単剤への切り替え試験では、フロセミド20mg+スピロノラクトン25mgはトラセミド4mgとほぼ同等の効果を示すことが確認されました。これにより、多剤併用による副作用リスクを軽減しながら、同等以上の治療効果を得ることができます。
参考)https://www.shinryo-to-shinyaku.com/db/pdf/sin_0050_03_0315.pdf
心筋の線維化軽減と心機能改善に関して、トラセミドは体液・電解質の腎排泄や血行動態への作用を通じて、心臓への直接的保護効果を発揮する可能性が示唆されています。ただし、最近の大規模RCT(TRANSFORM-HF試験)では、12ヶ月間の全死因死亡率においてフロセミドとの有意差は認められませんでした。
参考)https://hokuto.app/post/fN4AwUZ9oZh9G0wqJSJ1
トラセミドの副作用発現率は臨床試験において934例中32例(3.43%)と比較的低く、主な副作用は頭痛、倦怠感、口渇、めまい、立ちくらみです。重大な副作用として、肝機能障害、黄疸、血小板減少、低カリウム血症が報告されていますが、カリウム保持性により低カリウム血症のリスクは従来のループ利尿薬より低減されています。
参考)https://sokuyaku.jp/column/torasemide-luprac.html
興味深い点として、トラセミドの抗アルドステロン作用により、頻度不明ですが女性化乳房の副作用が添付文書に記載されています。これは、スピロノラクトンと同様の作用機序に由来するものです。
血清尿酸値上昇、AST・ALT上昇、クレアチニン上昇などの検査値異常も報告されていますが、腎機能への影響は他のループ利尿薬と比較して軽微とされています。
通常の投与量は、成人に対してトラセミドとして1日1回4-8mgを経口投与します。年齢や症状に応じて適宜増減が可能ですが、フロセミドの約1/10量で同等の効果が得られるため、換算時には注意が必要です。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=67066
高齢者心不全患者に対しては、作用が緩徐である点からトラセミドの使用が特に推奨されます。腎機能低下例においても、個体変動が少なく安定した効果を示すことから、より積極的な適応が考慮されるべきです。
低用量(2-4mg)での長期投与が可能で、維持量として4mg/日を主体とした133例の長期投与経験(平均33ヶ月、最長11年7ヶ月)が報告されています。これにより、慢性期管理における安全性と有効性が確認されています。
連続投与において、フロセミドでは利尿作用が減少する傾向がありますが、トラセミドでは逆に増加するという特徴的な薬理動態を示します。これは、慢性期治療における大きな利点となります。
心不全患者におけるトラセミド選択の局面に関する症例報告と考察