テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、軽症であれば数週間から3ヶ月程度で自然治癒する傾向にあります。しかし、半年以上経過しても症状が改善しない場合、慢性化している可能性が高くなります。
慢性化の主な原因として以下が挙げられます。
興味深いことに、テニス肘は実際には「炎症」ではなく、腱の「変性」が主な病態であることが近年明らかになっています。これが従来の抗炎症治療で改善しにくい理由の一つです。
適切な診断は治療成功の鍵となります。テニス肘と類似症状を示す疾患の鑑別が重要です。
主な鑑別疾患
診断に有用な検査
診断時には、単なる圧痛点の確認だけでなく、疼痛誘発テストや画像診断を組み合わせた総合的な評価が必要です。特に橈骨神経管症候群は、しびれを伴わないことが多く、テニス肘との鑑別が困難な場合があります。
テニス肘の治療は段階的なアプローチが推奨されます。90%以上の症例で手術を必要としない保存療法での改善が期待できます。
第一選択治療
第二選択治療
最新の治療選択肢
治療選択時には患者の職業、スポーツレベル、症状の重症度を総合的に考慮することが重要です。特に、ステロイド注射は腱をもろくする可能性があるため、繰り返し使用は避けるべきです。
テニス肘の予防は、発症機序を理解した上での多角的なアプローチが必要です。
技術的要因への対策
身体的要因への対策
環境的要因の管理
年齢特異的予防策
30-50代以降では、組織の老化に伴う変化を考慮した予防が重要です。筋腱の柔軟性低下や回復力の減少を補う積極的なケアが必要となります。
従来の「腱鞘炎モデル」では説明困難な難治例について、近年「神経癒着理論」が注目されています。この理論では、橈骨神経の周囲組織との癒着が主要な病態と考えられています。
神経癒着理論の根拠
新しい治療アプローチ
この理論は、従来の治療で改善しない難治例への新たな治療選択肢を提供する可能性があります。ただし、まだ研究段階の理論であり、今後のエビデンス蓄積が期待されています。
医療従事者として患者への説明時には、テニス肘の多くは適切な治療により改善可能であること、慢性化した場合でも新しい治療選択肢があることを伝えることが重要です。「一生治らない」という絶望感ではなく、治療への希望を持たせる情報提供が求められます。
また、患者教育の重要性も強調すべきです。疾患の理解、適切なセルフケア方法の習得、生活様式の改善により、症状の改善と再発防止が期待できます。特に、急性期の適切な対応が慢性化を防ぐ鍵となることを患者に理解してもらうことが重要です。