硫酸マグネシウムは、便秘症、低マグネシウム血症、子癇の治療に用いられる重要な薬剤ですが、その使用にあたっては添付文書に記載された副作用を十分に理解することが必要です。医療従事者として安全な投与を行うために、副作用の詳細について添付文書の内容を中心に解説いたします。
添付文書において最も注意すべき重大な副作用として、マグネシウム中毒が挙げられています。これは頻度不明とされていますが、多量投与により発現する可能性があり、生命に関わる重篤な症状を引き起こします。
マグネシウム中毒の主な症状は以下の通りです。
特に重篤な場合、心肺停止、呼吸停止、呼吸不全を来すことがあり、高用量の硫酸マグネシウム水和物の急速投与により発現したとの報告があります。解毒にはカルシウム剤の静脈内注射が有効とされています。
さらに、添付文書では横紋筋融解症も重大な副作用として記載されており、筋肉痛、脱力感、CK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇が認められた場合には直ちに投与を中止することが求められています。
妊婦への硫酸マグネシウム投与において、添付文書では特に注意すべき副作用として、新生児への影響が明記されています。
マグネシウムイオンは容易に胎盤を通過するため、新生児に高マグネシウム血症を引き起こすことがあります。妊婦に長期投与した際には、胎児、新生児に一過性の骨化障害があらわれることがあり、具体的には骨異常及び先天性くる病が報告されています。
子癇の予防及び治療における国際的な臨床試験データでは、硫酸マグネシウム群では24%(1,201/4,999例)に副作用が発現し、主な副作用として潮紅、悪心または嘔吐、筋力低下、腱反射消失または減少が観察されました。
新生児においては、母体から投与された硫酸マグネシウムの影響により、アミノグリコシド系抗生剤との併用による呼吸停止の症例報告もあることから、新生児の薬物治療においては特に注意が必要です。
添付文書に記載された副作用を頻度別に整理すると、以下のような分類になります。
5%以上の副作用。
0.1~5%未満の副作用。
頻度不明の副作用。
なお、本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、多くの副作用が頻度不明とされています。
添付文書では、特定の患者群において副作用リスクが高まることが明記されています。
腎機能障害患者では、硫酸マグネシウムの排泄が遅延するため、中枢神経系抑制、呼吸麻痺を起こすおそれがあります。実際の症例報告では、腎機能が低下した患者では高マグネシウム血症による不整脈、心筋抑制、呼吸筋麻痺、意識障害などに注意が必要とされています。
心疾患患者においては、心機能を抑制するおそれがあり、特に高マグネシウム血症状態では心電図異常として房室ブロックや伝導障害が生じる可能性があります。
高齢者では一般に生理機能が低下しているため、投与速度を緩徐にし、減量するなど注意が必要とされています。
小児においては、腸内寄生虫疾患のある小児では腸管粘膜に異常がある場合に異常吸収を起こすおそれがあることが記載されています。
添付文書には記載されていない独自の視点として、硫酸マグネシウムの神経発達への長期的影響について注目すべき研究結果があります。
動物実験において、高用量の硫酸マグネシウム曝露が発達中の新生児マウス脳における神経発達性アポトーシスを誘導することが報告されています。この研究では、硫酸マグネシウムの神経保護効果は用量依存的であり、高用量では実際に新生児の死亡率や罹患率を増加させる可能性が示唆されています。
また、破傷風治療における硫酸マグネシウム使用例では、投与3日目に低カルシウム血症を認めたが、心電図異常やテタニーなどの症状は出現しなかったという報告があります。これは、硫酸マグネシウムの長期投与において、マグネシウムとカルシウムの電解質バランスの監視が重要であることを示しています。
薬物相互作用の観点から、アミノグリコシド系抗生剤との併用では神経筋遮断作用が増強され、特に母体から出生した新生児において呼吸停止を来たした症例報告があることから、周産期管理においては特に注意深い観察が必要です。
さらに、硫酸マグネシウムの副作用として**イレウス(腸管麻痺)**が頻度不明ながら記載されていることは、消化器系への影響も考慮すべき重要な点です。嘔吐、腹部膨満等の症状に十分注意し、早期発見に努める必要があります。
これらの情報を踏まえ、硫酸マグネシウムの使用においては、添付文書に記載された副作用情報を基盤として、患者の状態に応じた慎重な投与と継続的なモニタリングが不可欠といえます。
KEGG医薬品データベース:硫酸マグネシウムの詳細な添付文書情報
JAPIC添付文書PDF:切迫早産における子宮収縮抑制剤としての硫酸マグネシウム