リンパ管炎 症状と治療方法の最新知見

リンパ管炎は細菌感染によるリンパ管の炎症で、特徴的な赤いすじや発熱などの症状が現れます。本記事では症状の見分け方から最適な治療法、合併症予防まで医療従事者向けに解説します。あなたの診療にすぐ役立つ知識を身につけませんか?

リンパ管炎の症状と治療方法

リンパ管炎とは
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定義

リンパ管に生じた急性細菌感染(主に溶血性連鎖球菌)による炎症

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主な症状

四肢の紅斑・熱感・圧痛を伴う線条、発熱、リンパ節腫大

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治療方法

抗生物質投与、患部の安静と高位保持、外傷治療

リンパ管炎の主な症状と特徴的な皮膚所見

リンパ管炎は、細菌がリンパ管に侵入し炎症を起こす疾患であり、特徴的な皮膚所見と全身症状を呈します。最も典型的な臨床所見は、感染した四肢(腕や脚)の皮膚に現れる赤い線条です。これらの線条は幅数ミリから数センチに及び、熱感と圧痛を伴います。線条は通常、元の感染部位から所属リンパ節(鼠径部やわきの下など)に向かって伸びる不規則な形状を示します。この赤い線条はリンパ管の走行に一致して現れる重要な診断的特徴です。

 

全身症状としては、発熱(40℃近くに達することもある)、悪寒戦慄、頻脈、頭痛、全身倦怠感などが現れます。これらの全身症状は、時に皮膚所見より先に発症することもあります。感染がリンパ系から血流へ波及すると、菌血症を引き起こし、急速に全身状態が悪化することがあります。

 

リンパ管炎に伴うリンパ節の変化も重要な所見です。所属リンパ節は腫大し、圧痛を伴うようになります(リンパ節炎)。急性リンパ管炎では、血液検査で白血球増多が認められることが一般的です。

 

重症例では、感染したリンパ管に沿って蜂窩織炎が発生し、皮膚の化膿、壊死、潰瘍形成に至ることもあります。慢性リンパ管炎に進展すると、炎症部位が硬くなるという特徴があります。

 

これらの症状は、リンパ管炎の重症度や原因病原体によって多少の違いがありますが、特徴的な赤い線条の出現は診断の鍵となる重要な所見です。医療従事者は、この特徴的な臨床像を的確に捉えることで、早期診断と適切な治療介入が可能となります。

 

リンパ管炎の原因となる細菌と感染経路

リンパ管炎の最も一般的な原因は溶血性連鎖球菌(主にA群β溶血性連鎖球菌)の感染です。次いで黄色ブドウ球菌が原因となることがあります。これらの細菌は皮膚の傷や既存の感染巣からリンパ系に侵入します。

 

感染経路としては、主に以下のパターンが認められます。

  1. 外傷からの直接侵入: 手足の擦過傷、切創、刺創などの外傷部位から細菌が侵入し、リンパ管へと到達します。特に足部の小さな外傷(靴擦れなど)から感染することが多いです。
  2. 既存の感染巣からの波及: 蜂窩織炎や丹毒などの皮膚軟部組織感染症から連続的に広がることがあります。
  3. 慢性皮膚疾患からの二次感染: 足白癬(水虫)、湿疹、皮膚潰瘍などの慢性皮膚疾患に二次感染することでリンパ管炎を引き起こすことがあります。

溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌以外にも、様々な病原体がリンパ管炎の原因となり得ます。まれな原因としては以下のものがあります。

  • Pasteurella属菌: 猫や犬の咬傷から感染
  • Erysipelothrix属菌: 魚介類を扱う職業の方に多い
  • 炭疽菌: まれだが重症化しやすい
  • 非定型抗酸菌: 免疫不全患者に多い
  • 真菌感染: スポロトリクス症など、慢性リンパ管炎の原因となる
  • ウイルス感染: 単純ヘルペスウイルスなど

リンパ浮腫のある患者は、リンパの流れが停滞しているため、リンパ管炎を発症するリスクが高いことが知られています。また、糖尿病患者や免疫抑制状態にある患者も感染症に対する抵抗力が低下しているため、リンパ管炎を発症しやすい傾向があります。

 

医療従事者は、患者の職業歴、ペットとの接触歴、外傷の有無、慢性皮膚疾患の存在などを詳細に問診することで、原因となる病原体を推測し、適切な治療方針を立てることが重要です。

 

リンパ管炎の診断方法と鑑別診断

リンパ管炎の診断は主に臨床所見に基づいて行われます。特徴的な赤い線条(線状発赤)の存在は診断の決め手となります。しかし、類似の臨床像を呈する疾患との鑑別も重要です。以下にリンパ管炎の診断方法と鑑別すべき疾患について解説します。

 

診断方法:

  1. 視診・触診: 四肢に現れる赤い線条の確認、熱感・圧痛の評価、所属リンパ節の腫大・圧痛の有無を確認します。
  2. 血液検査: 白血球数増加、CRP上昇などの炎症マーカーを評価します。これらは感染症の存在を支持する所見となります。
  3. 微生物学的検査: 膿がある場合は培養検査を行い、原因菌の同定と薬剤感受性を確認します。菌血症が疑われる場合は血液培養も有用です。
  4. 画像検査: 通常は必要ありませんが、深部感染の合併が疑われる場合はMRIやCTを考慮します。超音波検査はリンパ管の炎症性変化や膿瘍形成の評価に有用なことがあります。

鑑別診断:

  1. 蜂窩織炎: リンパ管炎との鑑別が重要な疾患です。蜂窩織炎では境界不明瞭な発赤・腫脹が特徴で、線条ではなく面として広がります。両者が合併することも多いです。
  2. 皮膚血管炎: 紅斑、紫斑、網状皮斑などの皮膚所見を呈しますが、リンパ管炎のような線状の発赤は通常見られません。
  3. 表在性血栓性静脈炎: 静脈に沿った発赤、疼痛、硬結を認めますが、リンパ管炎より太い線状病変として触知されることが多いです。
  4. 皮膚リンパ腫: まれに線状の皮膚病変を呈することがありますが、急性の炎症症状に乏しく、慢性の経過をたどります。
  5. 帯状疱疹: 初期には片側性の痛みを伴う発赤として現れ、その後水疱が出現します。神経支配領域に沿った分布を示します。

リンパ管炎の診断は多くの場合臨床的に可能ですが、非典型例や治療抵抗性の場合は、より詳細な検査が必要になることがあります。特に反復するリンパ管炎では、免疫不全状態や慢性感染症の存在を疑う必要があります。

 

米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、皮膚軟部組織感染症の診断において、臨床所見を重視し、必要に応じて微生物学的検査を行うことを