ペニシリン系抗菌薬の黄色ブドウ球菌に対する耐性率は、臨床検体で約50%に上ります。その多くはペニシリナーゼの産生が原因です。

βラクタマーゼとは、β-ラクタム環のペプチド結合を加水分解してβラクタム系抗菌薬を不活化する酵素の総称です。 ペニシリン・セファロスポリン・カルバペネムなど多様な薬剤が「β-ラクタム環」を核構造として持つため、この酵素が産生される細菌はほぼすべてのβラクタム系に対して耐性を示す可能性があります。
一方、ペニシリナーゼはβラクタマーゼの中の1カテゴリです。主としてペニシリン系を分解し、Ambler分類(構造に基づく分類)でClass Aに相当します。 つまり「ペニシリナーゼ ⊂ βラクタマーゼ」という包含関係にあります。
参考)各種耐性菌について
まとめると、βラクタマーゼが「上位概念」でペニシリナーゼが「下位概念」です。
| 分類名 | Ambler Class | 主な基質 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| ペニシリナーゼ | Class A | ペニシリン系 | TEM-1、SHV-1 |
| セファロスポリナーゼ(AmpC) | Class C | セファロスポリン系 | AmpC型βラクタマーゼ |
| オキサシリナーゼ | Class D | ペニシリン系+オキサシリン | OXA-1、OXA-48 |
| メタロβラクタマーゼ(MBL) | Class B | カルバペネム系を含む広域 | IMP型、VIM型、NDM型 |
Ambler分類では酵素の活性部位の構造に基づき4クラスに分けられます。 Class A・C・Dは活性中心にセリン残基を持つ「セリンβラクタマーゼ」であり、Class Bは亜鉛イオン(メタル)を必要とする「メタロβラクタマーゼ(MBL)」です。
参考)https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf14.pdf
Class Aのペニシリナーゼ(TEM-1、SHV-1など)は、基本的にペニシリン系のみを分解し、セファロスポリン系には基質特異性が狭くほとんど届きません。 これが「ペニシリナーゼ」と呼ばれるゆえんです。
参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/bacteria/betalactamase.htm
基質特異性が狭いのが原則です。
一方、MBL(Class B)はほぼ全てのβラクタム系抗菌薬を分解でき、クラブラン酸・スルバクタム・タゾバクタムといったβラクタマーゼ阻害薬も無効という厄介な特性を持ちます。 医療現場ではNDM型(New Delhi Metallo-β-lactamase)が特に警戒される存在となっています。
参考)https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf14.pdf
Class Cのセファロスポリナーゼ(AmpC型)は主にセファロスポリン系を分解しますが、産生量が増大すると第三世代セファロスポリン系まで分解力が及ぶという点が問題です。 AmpCはクラブラン酸(CVA)では阻害されず、ボロン酸やクロキサシリンなどの阻害剤によってのみ活性が抑えられます。
参考)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/kansen/data/03_taiseikin.pdf
「基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL:Extended-Spectrum β-Lactamase)」は名前に「Extended(拡張)」とある通り、通常のペニシリナーゼが変異を重ねて広域化したものです。 ESBLの主体はClass AのTEM型やSHV型が点突然変異を積み重ねたタイプです。
参考)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/kansen/data/03_taiseikin.pdf
ペニシリン系に加えて第3世代セファロスポリン・モノバクタム・アミノグリコシド・フルオロキノロンまで多剤耐性化する場合があります。 意外ですね。ペニシリナーゼがここまで広域化するとは。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630929.pdf
ESBL産生菌(大腸菌・クレブシエラ属など)は感受性検査で「第3世代以下のセファロスポリンに非感性」という結果が得られます。 治療の原則はカルバペネム系抗菌薬(第1選択)であり、MIC値が低い場合に限り第4世代セフェムやニューキノロンが選択肢に加わります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630929.pdf
病棟でESBL産生菌を検出した際に「感受性ありの抗菌薬があるからその菌は大丈夫」と安易に判断するのは禁物です。感受性試験上は感受性を示していても、治療失敗率が高いことが臨床データで示されており、重症例では必ずカルバペネムへの切り替えを検討する必要があります。
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」でESBL産生菌の治療原則が詳述されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630929.pdf
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」(2024年)——ESBL産生菌の治療原則・カルバペネム適応について
βラクタマーゼ阻害薬の代表格はクラブラン酸(CVA)・スルバクタム(SBT)・タゾバクタム(TAZ)です。これらはいずれもClass A(ペニシリナーゼ)を阻害する効果を持ちますが、Class CやClass Bには効きません。
💡 阻害薬の使い分けを整理するとこうなります。
参考)https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno8_pdf14.pdf
「βラクタマーゼ阻害薬を足せばどんな耐性菌にも効く」と考えると大きな落とし穴です。MBL産生菌(NDM、IMP、VIM型)は現在承認された阻害薬では対応できず、選択肢はコリスチン(日本国内一部限定使用)などに限られます。
参考)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/kansen/data/03_taiseikin.pdf
関東化学「β-ラクタマーゼの機能分類・Ambler分類」解説PDF——各クラスの阻害薬感受性が表で整理されています。
ペニシリナーゼ産生菌として代表的なものは以下の通りです。
参考)III.どのような薬剤感受性を示す菌が要注意か - 1)腸内…
ここで見落とされがちな視点があります。インフルエンザ菌には、βラクタマーゼを産生しないのにABPCに耐性を示す「BLNAR(β-Lactamase Negative Ampicillin-Resistant)」が存在します。これはペニシリン結合タンパク(PBP)3の変異による耐性であり、ペニシリナーゼとは全く別のメカニズムです。
そのため「βラクタマーゼ阻害薬配合製剤を使えば大丈夫」という判断が通用しないケースがあります。BLNARには阻害薬配合製剤が無効です。
感受性検査の結果を見る際は、「βラクタマーゼ産生の有無」と「PBP変異の有無」を分けて考える習慣が重要です。この2点を区別できれば、抗菌薬の選択ミスを大幅に減らせます。これが基本です。
鹿児島大学病院「β-ラクタマーゼ産生菌感染防止対策」——Ambler各クラスの特性と感染防止の実践ポイントがコンパクトにまとまっています。
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