パンテノールは、パントテン酸(ビタミンB5)のアルコール型誘導体として、体内でパントテン酸に変換される水溶性ビタミンです。分子式C9H19NO4、分子量205.25の無色から微黄色の粘稠な液体で、水やエタノールと混和し、特異なにおいを持ちます。
医療現場において、パンテノールは以下の効果を発揮します。
パンテノールは、筋肉を動かす際に必要なATP(アデノシン三リン酸)の産生や、粘膜を保護するムチンを増やす働きによって、皮膚や粘膜の細胞、毛母細胞などへの細胞活性効果を発揮します。
パンテノール注射液は、医療現場で以下の適応症に使用されています。
主要適応症
用法・用量
通常、成人にはパンテノールとして1回20~100mgを1日1~2回、術後腸管麻痺には1回50~500mgを1日1~3回、必要に応じては6回まで、皮下、筋肉内又は静脈内注射します。年齢、症状により適宜増減が可能です。
特殊な使用例
術後腸管麻痺に対しては、パンテノールが神経伝達物質であるアセチルコリンの生成を促すことで副交感神経を刺激し、腸管の蠕動運動を活性化させる効果があります。この作用機序により、開腹手術後に腸管の運動が弱くなったり停止したりする状態を改善できます。
外用薬としては、かゆみ、ひび割れ・あかぎれの治療薬として使用され、点眼薬では目の疲れや目のかすみを緩和するために使用されます。
パンテノールは一般的に安全性の高い成分とされていますが、以下の副作用が報告されています。
報告されている副作用(頻度不明)
パンテノールは水溶性ビタミンであるため、過剰に摂取しても尿と一緒に排出される特性があります。このため、過剰摂取による健康被害の報告は現在のところありません。
安全性に関する重要な特徴
使用上の注意点
低出生体重児、新生児に使用する場合には十分注意が必要です。外国において、ベンジルアルコールの静脈内大量投与により中毒症状が報告されているため、添加物にも注意が必要です。
効果がないのに月余にわたって漫然と使用すべきではなく、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うことが重要です。
パンテノールは眼科領域において特に注目すべき効果を示します。疲れ目やドライアイを改善する目薬の成分として使用され、以下のメカニズムで効果を発揮します。
ドライアイに対する効果
パンテノールは、ムチンという涙を安定化する粘液を増加させることにより、角膜を保湿してドライアイを改善します。ムチンは涙液の最内層を形成し、角膜表面への涙液の付着を促進する重要な成分です。
疲れ目に対する効果
エネルギー物質であるATPの産生を増加させる他、神経伝達物質であるアセチルコリンの原料となることから、目のピント調節を行う毛様体筋を動かしやすくして疲れ目を改善する効果があります。
この眼科領域での効果は、パンテノールの多面的な薬理作用を示す好例であり、単なる保湿剤を超えた生理活性物質としての価値を示しています。
パンテノールの臨床応用において、パントテン酸の代謝異常や欠乏症の理解は極めて重要です。パントテン酸の語源は、ギリシャ語の「いたるところに存在する」から付けられたように、通常は欠乏することは稀ですが、特定の状況下では注意が必要です。
欠乏症のリスクファクター
欠乏症の臨床症状
パントテン酸が欠乏した場合、以下の症状が現れることがあります。
代謝異常が関与する疾患
パンテノール注射液の適応症には、「パントテン酸欠乏又はパントテン酸代謝障害が関与すると推定される場合」として、接触皮膚炎、急性湿疹・慢性湿疹、術後腸管麻痺が含まれています。これらの疾患では、パンテノールの補給により症状の改善が期待できます。
脂質代謝への影響
パントテン酸は脂質の代謝に関わっているため、パンテノールの補給により過剰な脂質の代謝を促進し、メタボリックシンドロームの改善に効果があるという報告があります。また、HDL(善玉)コレステロールを増やすことで、動脈硬化や心疾患を予防する効果も期待されています。
医療従事者として、これらの代謝異常や欠乏症の可能性を念頭に置き、適切な診断と治療を行うことが重要です。特に、現代社会におけるストレス社会では、パントテン酸の需要が増大している可能性があり、注意深い観察が必要です。
厚生労働省の医薬品医療機器総合機構(PMDA)による医薬品情報
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068824
日本皮膚科学会によるパンテノールの皮膚科領域での使用指針
https://biyou-dr.com/seibun/panthenol/