接触皮膚炎(かぶれ)の症状と治療方法
接触皮膚炎(かぶれ)の基礎知識
⚠️
原因物質
金属、化粧品、薬剤、植物など多岐にわたる
接触皮膚炎とは:定義と発症メカニズム
接触皮膚炎(かぶれ)とは、特定の物質が皮膚に接触することによって引き起こされる炎症反応のことを指します。日常生活でよく経験される皮膚トラブルの一つで、皮膚科外来でも頻繁に遭遇する疾患です。
接触皮膚炎は大きく2つのタイプに分類されます。
- 刺激性接触皮膚炎:物理的・化学的刺激によって直接的に皮膚に炎症を引き起こすもの。接触後すぐに症状が現れることが多く、一般的に強い刺激物質(強酸・強アルカリなど)に触れた場合に発症します。
- アレルギー性接触皮膚炎:特定の物質に対する免疫反応(遅延型アレルギー反応:IV型アレルギー)によって引き起こされるもの。感作が必要であり、初回接触時には症状が出ず、2回目以降の接触で症状が現れることが特徴です。
発症メカニズムとしては、刺激性の場合は物質の直接作用により皮膚バリアが破壊され炎症が起こりますが、アレルギー性の場合はより複雑です。アレルギー性接触皮膚炎では、抗原(ハプテン)が皮膚に侵入し、ランゲルハンス細胞によって捕捉されたあと、T細胞に提示されて感作が成立します。再度同じ抗原に接触すると、感作T細胞が活性化され、サイトカインの放出により炎症反応が誘発されます。
両タイプとも臨床症状は類似していますが、発症までの時間や原因物質の特定方法が異なります。医療従事者は問診と検査によってこれらを鑑別する必要があります。
接触皮膚炎の症状:赤みからかゆみまでの進行過程
接触皮膚炎の症状は、原因物質の性質や接触の程度によって軽度から重度まで様々です。症状の進行過程を理解することは、適切な治療介入のタイミングを判断する上で重要です。
初期症状(軽度):
- 皮膚の赤み(紅斑)が接触部位に一致して出現
- 軽いかゆみやヒリヒリ感
- チクチクとした刺激やムズムズする違和感
- 皮膚の軽度の乾燥やざらつき
中等度の症状(炎症が進行):
- 紅斑の増強と境界明瞭な腫れ(浮腫)
- かゆみの増強
- 丘疹(小さな盛り上がり)の出現
- 小水疱の形成
- 炎症が進むと水疱が破れ、浸出液が出ることがある(湿潤化)
重度の症状(慢性化):
- 皮膚のただれやかさぶたの形成
- 皮膚の肥厚や硬化(苔癬化)
- 痛みを伴うことがある
- 皮膚の亀裂(フィッシャー)
- 炎症後の色素沈着や色素脱失
特に注意すべき病態として、全身性接触皮膚炎と接触皮膚炎症候群があります。これらは局所的な接触にもかかわらず、全身に症状が広がる特殊なタイプです。重篤なケースでは発熱や倦怠感といった全身症状を伴うこともあります。
また、接触部位によって症状の現れ方に特徴があります。例えば。
- 顔面:目立つ浮腫と紅斑
- 手指:亀裂や苔癬化が生じやすい
- 間擦部(脇やそけい部など):湿潤化しやすい
- 頭皮:かさぶたや鱗屑(フケ)が目立つ
症状の経過も重要で、刺激性接触皮膚炎は接触直後から数時間以内に症状が出現する一方、アレルギー性接触皮膚炎は接触後24〜72時間経過してから症状が現れることが多いです。この時間的経過は診断の際の重要な手がかりとなります。
接触皮膚炎の原因物質と接触部位の特徴
接触皮膚炎を引き起こす原因物質は多岐にわたり、日常生活のあらゆる場面に潜んでいます。原因物質と典型的な接触部位の関連性を理解することで、早期診断と適切な回避策の提案が可能になります。
金属によるかぶれ:
- ニッケル、コバルト、クロムが最も頻度の高い原因金属
- 主な接触部位:アクセサリー着用部位(耳たぶ、首、手首)、時計の裏面、ベルトのバックル部分、ジーンズのボタン部分
- 汗により金属イオンが溶出し症状が増悪することがある
化粧品によるかぶれ:
- 香料、保存料(パラベン類)、色素、防腐剤などが主な原因
- 主な接触部位:顔面(特に頬や目の周り)、唇、首、手首(香水試し塗り部位)
- 化粧品による接触皮膚炎は「化粧品皮膚炎」として区別されることもある
薬剤によるかぶれ:
- 抗生物質の外用薬、消毒薬、湿布薬(特にケトプロフェン)が代表的
- 主な接触部位:塗布部位に一致
- ケトプロフェンは光接触皮膚炎を起こし、日光曝露により症状が悪化する特徴がある
植物によるかぶれ:
- ウルシ科植物(漆、ウルシ、ハゼノキ等)、キク科植物が代表的
- 主な接触部位:露出部(手、腕、顔、脚)
- 季節性があり、特に春から夏にかけて増加
職業性のかぶれ:
- 美容師:ヘアダイ、パーマ液
- パン職人・菓子職人:小麦粉、添加物
- 医療従事者:ラテックス手袋、消毒薬
- 機械工・自動車修理工:グリース、オイル、溶剤
- 建設作業員:セメント(六価クロム)、エポキシ樹脂
食品によるかぶれ:
- 柑橘類、マンゴー、トマト、ナッツ類による接触
- 主な接触部位:口周囲、唇、手指
- 口周囲のかぶれはヘルペスと誤診されることがある
原因物質の特定には、詳細な問診とパッチテストが重要です。パッチテストは、疑わしい物質を希釈して背部などの健常皮膚に48時間貼付し、48時間後、72時間後、場合によっては7日後に判定を行います。陽性反応は紅斑、丘疹、水疱などとして現れ、原因物質の特定に役立ちます。
職業性接触皮膚炎の場合、作業環境の改善や適切な防護具の使用が重要です。医療従事者は患者の職業歴を詳しく聴取し、職場での曝露リスクを評価する必要があります。
接触皮膚炎の治療:ステロイド外用薬と抗ヒスタミン薬の使い分け
接触皮膚炎の治療において最も重要なのは、原因物質を特定し、接触を回避することです。しかし、症状の軽減のためには薬物療法も重要な役割を果たします。
基本的な治療アプローチ:
- 原因物質の回避:
- 原因が特定できた場合は、その物質との接触を避ける
- 職業上避けられない場合は、保護手袋など防護具の使用を徹底
- 局所冷却:
- 急性期の炎症時には、冷たい水や酢酸アルミニウム溶液(ブロー液)に浸したガーゼで冷却
- 1日に数回、1回あたり30分〜1時間程度の冷却が効果的
- 過度の冷却は皮膚を刺激する可能性があるため注意が必要
- ステロイド外用薬:
- 接触皮膚炎治療の中心的薬剤
- 症状の重症度と部位に応じて適切な強さ(ランク)を選択
症状の重症度 |
推奨されるステロイドランク |
適応部位 |
軽度 |
Weak(V)〜Medium(IV) |
顔面、間擦部、粘膜近接部 |
中等度 |
Medium(IV)〜Strong(III) |
体幹、四肢 |
重度 |
Strong(III)〜Very Strong(II) |
手掌、足底、肥厚病変 |
- 塗布方法:1日1〜2回、薄く塗布
- 注意点:漫然とした長期使用は皮膚萎縮などの副作用のリスクあり
- 抗ヒスタミン薬:
- 主にかゆみの軽減を目的として使用
- 第一世代抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミンなど):速効性があるが、眠気の副作用あり
- 第二世代抗ヒスタミン薬(セチリジン、フェキソフェナジンなど):眠気が少なく、日中の使用に適する
- 重症例では複数の抗ヒスタミン薬の併用も検討
- 湿潤療法と保湿:
- 湿潤部位:湿潤環境から乾燥へ移行させるドレッシング材の使用
- 乾燥部位:保湿剤の使用で皮膚バリア機能の回復を促進
- 重症例の追加治療:
- 広範囲または重症の場合:短期間のステロイド全身投与(プレドニゾロン換算で0.5〜1mg/kg/日)
- ステロイド不応例:免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムスなど)の検討
- 慢性の手湿疹:ナローバンドUVB療法の有効性が報告されている
- 二次感染の管理: