脳腫瘍の原因は現在でも完全には解明されていませんが、大きく原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に分類されます。原発性脳腫瘍の発症率は成人で人口10万人に12人、小児では10万人に1人と推定されています。
原発性脳腫瘍の主要な種類:
転移性脳腫瘍は肺がん、乳がん、腎がん、大腸がん、悪性黒色腫からの転移が多く、複数個発生することが特徴的です。原発性脳腫瘍と異なり、既往歴や画像所見から診断の手がかりを得やすい傾向があります。
腫瘍の発生部位によって症状の出現パターンが大きく異なるため、詳細な神経学的所見の評価が診断の鍵となります。良性腫瘍であっても腫瘍が大きくなれば周囲組織を圧迫し、重篤な症状をもたらす可能性があることを念頭に置く必要があります。
脳腫瘍による頭痛は、一般的な緊張型頭痛や片頭痛とは明確に異なる特徴を持ちます。最も重要な鑑別点は、起床時や早朝に最も強く、午前中に徐々に軽快するという時間的パターンです。
脳腫瘍による頭痛の特徴:
頭蓋内圧亢進による嘔吐は「噴出性嘔吐」と呼ばれ、前兆となる吐き気がなく突然噴出するように嘔吐し、その後は何事もなかったように食事摂取が可能になるという特徴的なパターンを示します。
小児では頭痛を明確に訴えることが困難なため、嘔吐が重要な症状となります。特に朝の嘔吐が繰り返される場合は、脳腫瘍を疑って詳細な検査を行う必要があります。
頭蓋内圧亢進は睡眠時や横になっている時に上昇しやすいため、明け方や起床直後の症状出現が特徴的です。この生理学的メカニズムを理解することで、患者の症状パターンから脳腫瘍の可能性を早期に検出できます。
脳腫瘍による視覚障害は、腫瘍の部位によって特徴的なパターンを示すため、診断において重要な手がかりとなります。視神経から後頭葉視中枢までの視覚路のどこが障害されるかによって、特異的な視野異常が現れます。
部位別の視覚症状:
複視(物が二重に見える)は、眼球運動を司る脳神経の障害により生じます。眼球を動かすには3本の脳神経と6つの筋肉が協調して働く必要があり、脳腫瘍によりこのバランスが崩れると眼球の動きにずれが生じます。
運動麻痺は脳内の運動神経線維の障害により発生し、右脳の障害では左半身の麻痺という対側性の特徴を示します。脳腫瘍による麻痺は、手だけや足だけではなく、片側の手足を含む広範囲な麻痺として現れることが多いのが特徴です。
感覚障害(しびれ)は運動麻痺よりも気づきにくい症状ですが、やはり片側性に現れることが重要な診断ポイントです。両側の手足のしびれは、特別な場合を除いて脳腫瘍では稀であることを理解しておく必要があります。
日本脳神経外科学会による脳腫瘍診療ガイドライン
https://www.jns.or.jp/
脳腫瘍の診断においては、詳細な病歴聴取と神経学的診察が基本となります。特に症状の出現時期、進行パターン、日内変動の有無を詳しく聴取することが重要です。
診断に必要な検査項目:
MRI検査は脳腫瘍の診断において最も重要な検査です。T1強調画像、T2強調画像、FLAIR画像、拡散強調画像(DWI)、そしてガドリニウム造影T1強調画像を組み合わせることで、腫瘍の性状、範囲、周囲への浸潤の程度を評価できます。
造影MRIでは腫瘍の血管新生の程度や血液脳関門の破綻を評価でき、良性・悪性の鑑別や治療効果の判定に有用です。特に転移性脳腫瘍では造影効果が強く現れることが多く、診断の手がかりとなります。
PET検査は腫瘍の代謝活性を評価でき、悪性度の判定や放射線壊死との鑑別に有用です。特にFDG-PETでは悪性腫瘍で高い集積を示すため、良性・悪性の鑑別診断に役立ちます。
早期診断のポイント:
脳腫瘍の早期発見には、医療従事者の高い臨床的洞察力と患者教育が不可欠です。特に認知機能の変化や性格変化は見過ごされやすい初期症状として注意が必要です。
見逃しやすい初期症状:
前頭葉腫瘍では、人格変化や判断力の低下が初期症状として現れることがあります。家族から「最近様子が変わった」という訴えがある場合、詳細な神経学的評価を行う必要があります。
側頭葉腫瘍では記憶障害や言語機能の障害が現れやすく、アルツハイマー型認知症との鑑別が重要になります。特に比較的急速に進行する認知機能低下は脳腫瘍を疑う重要な手がかりです。
リスク層別化のアプローチ:
てんかん発作が初発症状となる場合も多く、成人発症のてんかんでは必ず脳腫瘍の除外診断を行う必要があります。部分発作から全身痙攣に進展するパターンや、意識障害を伴わない単純部分発作でも脳腫瘍が原因となることがあります。
医療従事者は患者や家族に対して、「いつもと違う」症状の重要性を教育し、早期受診を促すことが重要です。特に頭痛の性状変化、神経症状の出現、認知機能の変化については、詳細な説明と啓発が必要です。
脳腫瘍学会による最新の診療指針
https://www.jbta.org/
定期的な画像検査による経過観察も重要ですが、過度な検査は医療費の増大につながるため、リスクに応じた適切な検査間隔の設定が求められます。高リスク患者では6ヶ月から1年毎のMRI検査、一般的なリスクの患者では症状に応じた検査実施が推奨されます。