過換気アルカローシスは、過度の換気により血液中の二酸化炭素(CO₂)濃度が急激に低下することで引き起こされる呼吸性アルカローシスの一種です 。正常な呼吸では酸素を取り込み二酸化炭素を排出しますが、過換気状態では呼吸数や一回換気量の増加により、必要以上に多くの二酸化炭素が体外に排出されます 。
血液中の二酸化炭素濃度が低下すると、血液のpH値が上昇してアルカリ性に傾きます。これが呼吸性アルカローシスの基本的なメカニズムです 。この状態では動脈血ガス分析でpH 7.45以上、PaCO₂ 35mmHg以下の値を示すことが特徴的です 。
💡 医療従事者向けポイント: 血液がアルカリ性に傾くことで、カルシウムがアルブミンと結合しやすくなり、イオン化カルシウムが相対的に減少します 。
参考)歯科治療中の過換気症候群 
過換気症候群の主要な誘因は心理的ストレスや不安です。職場や家庭でのストレス、不安障害、パニック障害などが引き金となることが最も多いとされています 。特に10代から20代の若い女性に好発し、心配性や几帳面、神経質といった性格傾向を持つ人に発症しやすいことが知られています 。
参考)過換気症候群の原因や症状、検査、治療について - 日ノ出町呼…
心理的要因以外にも、激しい運動、疲労、睡眠不足などの身体的要因も過換気を誘発する可能性があります 。また、疼痛、発熱、薬物(アスピリンなど)の過剰摂取、甲状腺機能亢進症といった代謝異常も原因となり得ます 。
📊 統計データ: 過換気症候群は若年女性に最も多くみられますが、男女を問わずあらゆる年齢層で発症する可能性があります 。
参考)過換気症候群 - 05. 肺疾患 - MSDマニュアル プロ…
重要なのは、器質的疾患による過換気との鑑別です。肺水腫、肺炎、肺塞栓症、心筋梗塞などの重篤な疾患でも過換気が生じるため、適切な診断が不可欠です 。
過換気アルカローシスの代表的な症状として、テタニーが挙げられます。これは血液がアルカリ性に傾くことで生じる特徴的な神経筋症状です 。アルカローシス状態では、血液中のカルシウムがアルブミンと結合しやすくなり、生理活性を持つイオン化カルシウム(Ca²⁺)が相対的に減少します 。
この相対的な低カルシウム血症により、神経と筋肉の興奮性が亢進し、テタニー症状が現れます。具体的には以下のような症状が観察されます。
🔍 診察時の注意点: テタニー症状が見られない過換気症候群も存在するため、「身体がしびれて動けない」といった訴えにも注意を払う必要があります 。
トルーソー徴候(血圧測定時の手指攣縮の増悪)やクボステック徴候(頬部叩打による口角の挙上)といった特徴的な身体所見も参考になります 。
過換気症候群の診断には確立された診断基準は存在せず、以下の条件を満たすことで診断されます:①症状を説明する器質的疾患を認めない、②アルカローシス