外部照射は放射線治療の中で最も一般的に実施される方法です。体外から放射線をがん病巣に照射し、がん細胞のDNAにダメージを与えることで増殖を抑制します。近年では技術の進歩により、より精密な照射が可能になっています。
■ 外部照射の主な種類
IMRT技術の導入により、従来の放射線治療と比較して急性期有害事象が30%以上減少したという臨床データも報告されています。特に唾液腺機能の温存や直腸障害の軽減など、QOL向上に大きく貢献しています。
外部照射の適応疾患は多岐にわたりますが、特に効果が高いとされるのは以下の疾患です。
治療計画においては、腫瘍制御確率(TCP)と正常組織障害確率(NTCP)のバランスを考慮した最適化が重要です。近年ではAI技術を活用した治療計画支援システムも開発されています。
内部照射は、体の内側から放射線を照射する方法で、大きく分けて「密封小線源治療」と「核医学治療(非密封小線源治療)」の2種類があります。
■ 密封小線源治療の種類
一方、核医学治療(放射性同位元素内用療法)は、放射性同位元素を含む薬剤を経口または静脈内投与し、特定の組織やがん細胞に集積させて内部から放射線を照射する治療法です。
■ 核医学治療の主な種類と適応疾患
核医学治療の大きな特徴は、β線の飛程が短いことを利用して周囲正常組織への影響を最小限に抑えながら、がん細胞を選択的に攻撃できる点です。例えばI-131治療では、手術では取り除けない微小ながん細胞にも効果を発揮し、治療後の死亡率や再発率の低下に貢献しています。
投与方法も多様化しており、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、体腔内投与など、疾患や薬剤の特性に応じた選択が可能です。投与後は一定期間、放射線防護の観点から行動制限が必要な場合があります。
放射線治療技術は急速に進化しており、従来の照射法と比較してより高い精度と安全性を実現する技術が臨床現場に導入されています。これらの技術は、腫瘍への線量集中性を高めつつ、周囲の正常組織への照射を最小限に抑える目的で開発されました。
■ 最新の高精度照射技術
これらの技術を組み合わせることで、以前は治療が難しかった症例にも放射線治療が適応できるようになってきました。例えば、従来は手術適応とされてきた早期肺がんに対しても、体幹部定位放射線治療(SBRT)により局所制御率90%以上という優れた成績が得られています。
また、定位放射線照射の発展形として注目されているのが「オリゴメタスタシス(少数転移)」への照射です。数個の限られた転移巣に対して定位照射を行うことで、全身治療を組み合わせた集学的治療の一環として生存期間の延長が期待されています。
特に脳転移に対するSRSは、全脳照射と比較して認知機能低下のリスクが少なく、患者のQOL維持に貢献しています。近年のメタアナリシスでは、限られた脳転移(1-4個)に対するSRSの有効性が証明されています。
日本放射線腫瘍学会の放射線治療ガイドラインについての詳細情報
粒子線治療は放射線治療の中でも特に先進的な技術であり、従来のX線治療と比較して物理学的・生物学的に異なる特性を持っています。主に陽子線治療と重粒子(炭素イオン)線治療の2種類があります。
■ 粒子線治療の物理学的特徴
■ 粒子線治療と従来療法の比較
治療法 | 線量集中性 | 生物学的効果 | 適応疾患例 | 施設数 |
---|---|---|---|---|
X線治療 | 標準 | 標準 | 幅広い固形がん | 多数 |
陽子線 | 優れる | X線と同等 | 小児がん、頭頸部がん | 限定的 |
重粒子線 | 最も優れる | X線の約3倍 | 放射線抵抗性腫瘍 | 非常に限定的 |
粒子線治療は2016年から徐々に保険適用が拡大されており、現在は以下の疾患が保険適用となっています。
注目すべきは、重粒子線治療の高いRBE(生物学的効果比)です。これにより、従来の放射線では効果が限られていた放射線抵抗性腫瘍にも有効性が期待されています。特に肉腫や腺がんなどのがん種では、従来のX線治療と比較して優れた局所制御率が報告されています。
一方で課題としては、装置の大規模化や高額な建設・運用コストが挙げられます。陽子線治療施設でも100億円以上、重粒子線治療施設では200億円以上の建設費用が必要とされ、日本国内の施設数は限られています。そのため、地域格差の解消や小型化・低コスト化の技術開発が進められています。
臨床的には、放射線感受性の低いがんや、重要臓器に近接したがんに対して特に有用性が高いとされていますが、多くのがん種においてX線治療との直接比較試験はまだ十分ではなく、今後のエビデンス構築が期待されています。
放射線治療は急速な技術革新を遂げており、特にAI(人工知能)技術の応用によって新たな展開が期待されています。将来の放射線治療はより個別化され、効率的で精度の高いものになるでしょう。
■ AI技術の放射線治療への応用
現在、世界的に注目されているのが「オンライン適応放射線治療」です。これは治療直前のMRIなどの画像に基づき、その場で治療計画を再最適化する技術で、MR-Linac(MRI搭載型リニアック)の開発により実用化が進んでいます。従来の放射線治療では事前計画に基づく照射が基本でしたが、この技術により日々変化する体内状況に即時対応した「その日の姿に合わせた」治療が可能になります。
また、放射線と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法(免疫放射線療法)も注目されています。放射線照射によるがん細胞死が免疫系を活性化する「アブスコパル効果」を増強することで、照射部位以外の転移巣にも効果が期待できます。複数の臨床試験が進行中で、特に非小細胞肺がんやメラノーマで有望な結果が報告されています。
放射線治療装置の小型化・低コスト化も進んでおり、特にFLASH照射(超高線量率照射)は1秒以下の極めて短時間で治療線量を投与することで、正常組織の保護と腫瘍制御を両立する可能性が動物実験で示されています。現在、臨床応用に向けた研究が進行中です。
さらに、放射線治療の個別化に向けた研究も進展しています。放射線感受性に関わるバイオマーカー(遺伝子変異やタンパク発現パターン)の同定により、患者ごとに最適な線量や分割方法を決定する「精密放射線治療」の実現が目指されています。
これらの新技術により、放射線治療はより安全で効果的、そして患者個々に適した治療へと進化していくでしょう。医療従事者には最新知識の継続的な更新と、複雑化する治療技術への対応力が一層求められています。