ノバリスは、ドイツのブレインラボ社が開発した定位放射線治療専用リニアック装置として、1997年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で初号機が稼働開始されました。装置名の「Novalis」は、ラテン語で「新しい開拓地」を意味し、従来にない高精度な放射線治療を可能にするという意図で命名されています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%B9
現在の最新機種である「ノバリスSTx」は、定位放射線照射専用に開発された直線加速器を基盤とした装置で、多方向からの放射線照射において、ビームごとに強度を変化させる強度変調照射(IMRT)を実現しています。この技術により、複雑な形状の病変であっても、瞬時にその形状に一致するビーム形成が可能となり、正常組織への被曝を軽減しながら病変部にのみ高線量を照射することができます。
参考)https://yokohamah.johas.go.jp/department/news/2020120.html
特筆すべき特徴として、ノバリスは世界最薄の2.5mm幅マルチリーフコリメータ(MLC)を装備しており、これらが独立駆動することで、病巣の形状に極めて精密に適合した照射野を形成します。さらに、赤外線とX線の監視システムによる体動追跡機能と微修正機能を備えており、治療中の患者の微細な動きも補正して1ミリ以下の精度での照射を実現しています。
参考)https://tane.or.jp/radiotherapy/about.html
脳腫瘍治療において、ノバリスの最大の特徴は非侵襲的な固定方法にあります。従来のガンマナイフ治療では、患者の頭部をフレームに固定するためのヘッドピンが必要でしたが、ノバリスではマスクによる固定のみで治療が可能です。これにより、患者の身体的負担を大幅に軽減できるとともに、複数回の分割照射が実現可能となっています。
参考)https://yokohamah.johas.go.jp/department/center/srt.html
治療適応症例として、腫瘍体積の大きな病変(転移性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫などの良性腫瘍)や、神経膠腫のようなびまん性に浸潤する腫瘍が主な対象となります。特に、ガンマナイフでは治療が困難な直径3cm以上の大きな病変や、視神経や脳幹部を圧排する頭蓋底病変に対して大きな威力を発揮します。
実際の治療例として、食道がんからの転移性脳腫瘍(体積19.5cc)に対してノバリスによる43Gy/10分割の分割照射を実施した症例では、治療終了時に明らかな腫瘍縮小効果が確認され、6か月後には腫瘍が痕跡程度まで縮小したことが報告されています。また、70代男性の胃がんからの多発脳転移に対するノバリスによる10分割照射では、4ヵ月後のMRI検査で治療対象病変の消失または著明な縮小が確認されています。
体幹部定位放射線治療(SBRT:Stereotactic Body Radiotherapy)は、肺がんや肝臓がんに対する革新的な治療法として、医療現場で注目を集めています。ノバリスによる体幹部治療では、従来の放射線治療と異なり、多方向からの集中照射により正常組織への負担を最小限に抑えながら、腫瘍に対して強力な治療効果を発揮します。
参考)https://tane.or.jp/radiotherapy/koudo.html
肺がんに対する体幹部定位放射線治療では、T1N0M0またはT2N0M0の早期症例が主な適応となり、1回から数回の照射で治療が完了します。肝臓がんの場合は、肝細胞がんや転移性肝がんで外科手術が困難な症例、または手術拒否例が対象となります。体幹部治療では呼吸による臓器移動の影響を考慮する必要があるため、精密な位置決めと固定技術が重要になります。
参考)https://www.ogaki-mh.jp/gazoubumon/kensa/novalis.html
最新のノバリス装置では、4次元CTによる呼吸同期技術を採用しており、呼吸に伴う臓器の動きを正確に追跡しながら照射を行います。この技術により、5cm以下の病巣に対して極めて正確な照射が可能となり、周辺の正常組織への影響を最小限に抑えた治療を実現しています。治療期間は通常1-5回程度の短期間で完了し、外来での治療が可能なため、患者のQOL(生活の質)向上に大きく貢献しています。
参考)https://www.akiramenai-gan.com/radiotherapy/1614/
強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)は、ノバリスの核心技術の一つで、複雑な形状の腫瘍に対して極めて精密な線量分布を実現する革新的な照射技術です。従来の放射線治療では一定の強度で照射していましたが、IMRTでは照射野内で放射線の強度を細かく変調することで、腫瘍の形状に完全に適合した線量分布を作成できます。
参考)https://www.med.akita-u.ac.jp/~noushin/clinic_rt.html
ノバリスのIMRT技術では、2.5mm幅の世界最薄マルチリーフコリメータが独立して動作し、瞬時に複雑な照射野を形成します。これにより、U字型やドーナツ型など、従来では治療困難とされた複雑な形状の病変でも、重要臓器を回避しながら腫瘍部分にのみ高線量を集中させることが可能となっています。
参考)http://www.gamma-knife.jp/radiotherapy/machine.html
最新の技術として、回転しながら強度変調を行うVMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy)が導入されており、複数の脳転移に対して同時治療が可能になりました。この技術では、装置が患者の周囲を回転しながら、連続的に線量強度を変化させて照射するため、治療時間の大幅な短縮(平均15-39分)と、より精密な線量分布の実現を両立しています。従来の多門照射では数時間を要していた治療が、VMATでは10-20分程度で完了するため、患者の負担軽減と治療効率の向上に大きく貢献しています。
参考)https://www.radiol.med.kyushu-u.ac.jp/medicalcare/radiation/truebeam.html
ノバリスによる定位放射線治療は、従来の開頭手術と比較して患者への侵襲性が極めて低く、重篤な合併症のリスクが大幅に軽減されています。急性期の副作用として最も一般的なのは軽度の頭痛や局所的な腫れですが、これらは通常数日から1週間程度で自然に改善します。骨髄機能の低下や脱毛などの全身性副作用は、照射範囲が限定的であるためほとんど発生しません。
参考)http://gamma.mominoki-hp.or.jp/i_question.html
中長期的な副作用として注意が必要なのは、放射線壊死や脳浮腫の発生です。しかし、ノバリスの高精度照射技術により、これらの発生率は従来の放射線治療と比較して大幅に低下しています。特に分割照射を採用することで、正常脳組織の耐容線量を超えることなく、腫瘍に対して十分な線量を投与できるため、晩期合併症のリスクを最小限に抑えることが可能です。
参考)https://www.asanogawa-gh.or.jp/as-info_20081006sc.pdf
患者の被曝量についても、ノバリスは他の放射線治療装置と比較して圧倒的に少ない被曝量で治療を実現しています。これは特に良性疾患を持つ患者や若年患者の治療において重要な利点となります。治療前の詳細な画像解析と治療計画により、各患者の病状に最適化された安全な線量設定が行われ、治療効果と安全性の両立が図られています。さらに、治療中の患者監視システムにより、異常が検出された場合は即座に照射を停止する安全機能も備わっており、医療事故の防止に大きく貢献しています。
参考)https://yokohamah.johas.go.jp/department/news/20210621_02.html
医療従事者向けの情報として、ノバリス治療の実施には放射線腫瘍医、医学物理士、放射線技師の専門チームによる厳格な品質管理が必要であり、定期的な装置の精度確認と校正作業が治療の安全性確保において極めて重要な要素となっています。