鼻出血の原因と初期症状:医療現場での診断と対応

鼻出血は日常的な症状ですが、重篤な疾患の前兆である可能性もあります。原因別の分類から初期症状の見極め方、危険な鼻出血の特徴まで、医療従事者が押さえるべきポイントを解説。適切な診断と対応ができていますか?

鼻出血の原因と初期症状

鼻出血の臨床的重要ポイント
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発症部位の90%はキーゼルバッハ部位

鼻中隔前下方の血管叢からの出血が大部分を占める

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危険な鼻出血の見極めが重要

後鼻出血や基礎疾患による出血は生命に関わる可能性

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全身疾患の初期症状として発現

血液疾患や高血圧などの早期発見につながる重要な症状

鼻出血の基本的原因と発症機序

鼻出血(びしゅっけつ)は医学的に「鼻衄」とも呼ばれ、その原因は大きく3つのカテゴリーに分類されます。

 

物理的刺激による鼻出血
最も頻度の高い原因で、全体の約70-80%を占めます。具体的には以下のような要因があります。

  • 鼻をほじる、強くかむといった直接的な刺激
  • 外傷(スポーツ外傷、交通事故など)
  • 鼻毛を抜く行為
  • 異物の挿入(特に小児に多い)

これらの刺激により、鼻の入り口から約1-2cmの位置にあるキーゼルバッハ部位(Little's area)の薄い粘膜が損傷し、出血が生じます。この部位は静脈と毛細血管が集中しており、わずかな刺激でも容易に出血する特徴があります。

 

病的要因による鼻出血
局所的な病気と全身疾患に分けられます。
局所的要因。

  • 鼻中隔弯曲症:成長に伴う軟骨の弯曲により、突出部分の粘膜が薄くなり易出血性となる
  • アレルギー性鼻炎:慢性的な炎症と鼻かみにより粘膜が脆弱化
  • 副鼻腔炎:膿性分泌物による粘膜の糜爛
  • 鼻腔・副鼻腔腫瘍:良性・悪性を問わず血管豊富な腫瘍からの自然出血

全身的要因。

  • 高血圧症:血管内圧の上昇により止血困難となる
  • 血液凝固異常:血小板減少症、血友病肝硬変による凝固因子減少
  • 動脈硬化:高齢者に多い動脈性出血の原因

薬剤性要因
抗凝固薬ワルファリンヘパリン)や抗血小板薬(アスピリンクロピドグレル)の服用により、出血傾向が増強されます。これらの薬剤は止血機能を阻害するため、軽微な外傷でも重篤な出血を引き起こす可能性があります。

 

鼻出血の初期症状と臨床的特徴

鼻出血の初期症状は発症部位により大きく異なり、前鼻出血と後鼻出血に分類されます。

 

前鼻出血の初期症状

  • 鼻腔前方からの鮮血の流出
  • 患側の鼻腔閉塞感
  • 軽度の疼痛や違和感
  • 血液の嗅覚による察知

前鼻出血は鼻出血全体の約90%を占め、多くの場合、患者自身で出血側を特定できます。出血量は比較的少なく、適切な圧迫止血により短時間で止血可能です。

 

後鼻出血の初期症状

  • 口腔内への血液の流入
  • 咽頭違和感、異物感
  • 嘔気、嘔吐(血液嚥下による)
  • 呼吸困難感(大量出血時)

後鼻出血は蝶口蓋動脈や前篩骨動脈などの太い血管からの出血で、前鼻出血と比較して重篤です。血液が直接咽頭に流入するため、患者はパニック状態になることが多く、緊急対応が必要となります。

 

全身症状としての初期サイン
血液疾患や高血圧などの全身疾患に伴う鼻出血では、以下の症状が先行または随伴することがあります。

  • 易出血性:歯磨き時の歯肉出血、皮下出血斑
  • 全身倦怠感、動悸(貧血症状)
  • 頭痛めまい(高血圧症状)
  • 発熱、リンパ節腫脹(血液疾患)

これらの症状は鼻出血の原因疾患を示唆する重要な情報となります。

 

危険な鼻出血の特徴と警告サイン

医療従事者が特に注意すべき危険な鼻出血には明確な特徴があります。

 

緊急性の高い鼻出血の特徴

  • 圧迫止血で15分以上止血できない
  • タオルが瞬時に血液で真っ赤に染まる大量出血
  • 血圧低下、頻脈などのバイタルサインの異常
  • 意識レベルの低下

これらの症状は動脈性出血や出血性ショックを示唆し、即座の専門的治療が必要です。

 

基礎疾患を疑うべき鼻出血
頻回な鼻出血(週に2-3回以上)や、軽微な刺激で容易に出血する場合は以下の疾患を疑います。

  • 白血病:発熱、リンパ節腫脹、全身倦怠感を伴う
  • 特発性血小板減少性紫斑病(ITP):皮下出血斑、歯肉出血
  • 遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病):顔面や口腔粘膜の毛細血管拡張

脳出血の前兆としての鼻出血
高血圧患者において、以下の症状を伴う鼻出血は脳出血の前兆である可能性があります。

  • 激しい頭痛
  • 視野障害
  • 意識障害
  • 神経学的症状(片麻痺、構語障害など)

このような症状がある場合、緊急のCT検査や専門医への紹介が必要です。

 

鼻出血の診断と検査方法

適切な診断には系統的なアプローチが重要です。

 

初期評価のポイント
問診では以下の項目を確認します。

  • 出血の持続時間と量
  • 誘因の有無(外傷、鼻かみなど)
  • 薬剤服用歴(抗凝固薬、NSAIDsなど)
  • 既往歴(高血圧、血液疾患)
  • 家族歴(出血性疾患)

身体所見の評価

  • バイタルサインの確認(血圧、脈拍、意識レベル)
  • 出血部位の同定(前鼻鏡検査)
  • 全身の出血傾向の確認(皮下出血斑、歯肉出血)
  • リンパ節触診

必要な検査項目
基本的な血液検査として以下を実施します。

  • 全血球計算(CBC):貧血、血小板数の評価
  • 凝固系検査(PT、PTT):凝固能の評価
  • 生化学検査:肝機能、腎機能の確認

画像検査が必要な場合。

  • 副鼻腔CT:腫瘍、副鼻腔炎の除外
  • 頭部CT:脳出血の除外(神経症状がある場合)

専門的検査
内視鏡検査により、出血部位の詳細な観察と止血処置が可能です。特に後鼻出血や反復性鼻出血では、ファイバースコープによる精査が重要となります。

 

医療従事者が知るべき鼻出血対応の実践ポイント

臨床現場での効果的な対応には、病態の理解と適切な手技が必要です。

 

初期対応の標準化
鼻出血患者の初期対応は以下の手順で標準化します。

  1. 体位の確保:坐位または半坐位で前屈姿勢をとらせ、血液の咽頭流入を防ぐ
  2. 出血部位の確認:ペンライトと鼻鏡を用いて出血点を同定
  3. 圧迫止血:鼻翼を親指と人差し指で10-15分間持続圧迫
  4. バイタルサインの監視:出血量と全身状態の評価

薬物療法の選択
局所血管収縮薬として以下を使用。

  • エピネフリン含有綿球の鼻腔挿入
  • オキシメタゾリン点鼻薬の併用

全身療法では、基礎疾患に応じた対応を行います。

  • 高血圧:降圧薬の調整
  • 凝固異常:ビタミンK、新鮮凍結血漿の投与

止血困難例への対応
前鼻出血で圧迫止血が無効な場合。

  • 硝酸銀による化学的焼灼
  • 電気凝固術
  • 鼻腔タンポン挿入

後鼻出血の場合。

  • 後鼻孔タンポン
  • バルーンカテーテルによる圧迫
  • 血管内治療(塞栓術)

患者・家族への教育
再発防止のための生活指導。

  • 鼻腔の保湿(生理食塩水洗浄、軟膏塗布)
  • 鼻をほじる癖の改善
  • 適切な鼻のかみ方の指導
  • 抗凝固薬服用時の注意点

多職種連携の重要性
鼻出血の管理には多職種での連携が重要です。

  • 耳鼻咽喉科医:専門的診断と治療
  • 血液内科医:血液疾患の精査
  • 循環器内科医:高血圧管理
  • 薬剤師:薬剤調整と服薬指導
  • 看護師:患者教育と経過観察

効果的な医療チームアプローチにより、単なる症状への対症療法から、根本原因への包括的治療へとレベルアップすることが可能です。

 

また、電子カルテでの情報共有システムを活用し、過去の鼻出血エピソード、使用薬剤、基礎疾患を一元管理することで、より安全で効率的な医療提供が実現できます。

 

鼻出血の診療において医療従事者が最も重要視すべきは、「単なる鼻血」として軽視せず、常に背景にある重篤な疾患の可能性を念頭に置いた系統的なアプローチを心がけることです。