総投与量が900 mg/m²以下でも、うっ血性心不全を起こした症例が報告されています。

ファルモルビシンの一般名はエピルビシン塩酸塩(Epirubicin Hydrochloride)で、アントラサイクリン系抗腫瘍性抗生物質に分類されます。 ドキソルビシン(アドリアマイシン)の立体異性体であり、構造上の違いにより心毒性がやや低く抑えられている点が特徴のひとつです。carenet+1
製剤はファルモルビシン注射用10mgと50mgの2規格が販売されており、1バイアル中にそれぞれエピルビシン塩酸塩10mg(力価)または50mg(力価)が含まれています。 添加物として日局乳糖水和物・日局パラオキシ安息香酸メチルが含まれており、帯黄赤色~赤色の多孔性固体または粉末の形状です。
参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/672212_4235404D1047_3_01.pdf
添付文書の最新版は2014年9月の第8版(第18版)に相当し、PMDAおよびファイザー(製造販売)の情報として公開されています。 投与時には必ず最新版を確認することが原則です。
<参考リンク:PMDA公表の添付文書・インタビューフォーム(ファルモルビシン)>
ファルモルビシン注射用10mg・50mg 添付文書(ケアネット)
ファルモルビシンの適応は大きく2つに分かれます。結論はシンプルです。
1つ目は「自覚的・他覚的症状の緩解」を目的とした単剤または多剤併用使用で、急性白血病・悪性リンパ腫・乳癌・卵巣癌・胃癌・肝癌・尿路上皮癌(膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍)が対象となります。 2つ目は乳癌(手術可能例における術前・術後化学療法)に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法です。
臨床成績では、悪性リンパ腫の奏効率(CR+PR)は64.3%(27/42例)と比較的高い結果が報告されています。 一方、胃癌では15.3%(11/72例)、肝癌(動注)では15.1%(8/53例)と単剤での奏効率は低く、他剤との組み合わせが基本です。
表在性膀胱癌への膀胱腔内注入では奏効率58.4%(52/89例)という成績があり、内視鏡的切除後の再発予防にも活用されています。 投与経路が静脈内・動脈内・膀胱腔内と複数あることを正確に把握しておく必要があります。
疾患によって投与量が異なります。これが基本です。
| がん種 | 用量(エピルビシン塩酸塩) | 投与スケジュール |
|---|---|---|
| 急性白血病 | 15 mg/m²/日 | 5〜7日連日→3週間休薬 |
| 悪性リンパ腫 | 40〜60 mg/m²/回 | 1回投与→3〜4週休薬 |
| 乳癌・卵巣癌・胃癌・尿路上皮癌 | 60 mg/m²/回 | 1回投与→3〜4週休薬 |
| 乳癌(術前・術後併用療法) | 100 mg/m²/回 | 1回投与→20日間休薬 |
| 膀胱癌(膀胱腔内注入) | 60 mg/回(固定量) | 3日連日注入→4日休薬 |
| 肝癌(TACE) | 60 mg/m²(適宜増減) | 腫瘍血管充満まで |
乳癌の術前・術後化学療法では100 mg/m²という高用量が設定されており、通常の60 mg/m²と大きく異なる点に注意が必要です。 これは見落としやすいところですね。年齢・症状・副作用に応じた適宜の増減も忘れずに確認が必要です。
膀胱癌への膀胱腔内注入の場合、ネラトンカテーテルで導尿したうえで溶液を注入し、1〜2時間膀胱腔内に保持する手順が定められています。 把持時間が短すぎると十分な効果が得られない可能性があるため、この時間設定は重要です。
見逃すと取り返しのつかない項目が複数あります。
禁忌として明示されている患者は以下の通りです。
慎重投与の対象には、肝障害・腎障害・骨髄抑制・感染症合併・高齢者・水痘患者・アントラサイクリン前治療歴患者が含まれます。 特に高齢者では肝機能低下により血中濃度が高く持続しやすく、心毒性・骨髄抑制があらわれやすいとされています。
相互作用では、パクリタキセルを本剤投与前に使用すると骨髄抑制等が増強されるため、必ず本剤を先に投与することが添付文書に明記されています。 また、シメチジンは本剤のAUCを増加させる(CYP450阻害)ため、併用には特別な注意が必要です。
<参考リンク:ファルモルビシンの副作用・相互作用まとめ(がん療養.jp)>
ファルモルビシン(エピルビシン塩酸塩)副作用まとめ - がん療養.jp
総投与量900 mg/m²超でうっ血性心不全リスクが急増することが添付文書に明記されていますが、900 mg/m²以下でも心不全が発生しうると注記されており、「限界量を超えなければ安全」という解釈は危険です。 これは意外ですね。
重大な副作用は7項目にわたります。ganryoyo+1
全身投与4,818例での調査では、副作用発現症例は2,732例(56.7%)に達し、悪心・嘔吐36.7%・白血球減少33.6%・食欲不振24.5%・脱毛24.2%が主な副作用でした。
また、本剤と他の抗悪性腫瘍剤を併用した患者では二次性白血病・骨髄異形成症候群(MDS)が発生することがあるため、投与終了後も長期にわたる経過観察が求められます。 これを怠ると重大な遅発性障害を見逃す原因となります。
調製・投与は添付文書通りに行うことが患者安全の第一歩です。
調製時には、日局注射用水または日局生理食塩液以外の溶媒を使用すると安定性が低下します。 他の薬剤との混注も配合変化のリスクがあるため避けることとされており、溶解後は速やかに使用することが原則です。
投与経路に関する重要な禁止事項も複数あります。
見落とされがちな安全管理のポイントとして、尿が赤色に変色することがあります。 これは本剤の尿中排泄によるもので病的な血尿とは異なります。患者に事前説明をしておかないと不必要な不安を招くだけでなく、医療従事者側の見落としにもつながります。患者教育の際に必ず触れておくべき情報のひとつです。
肝癌TACEでは、X線透視下での緩徐な投与、カテーテル先端位置の確認、固有肝動脈より可能な限り末梢からの投与が求められます。 標的以外への流入は脳梗塞・肺塞栓・脊髄梗塞などの重篤な合併症につながります。これは慎重に対応が必要です。
<参考リンク:インタビューフォーム詳細(岐阜薬科大学)>
ファルモルビシン インタビューフォーム(岐阜薬科大学DI室)