ドロペリドールは、ブチロフェノン系の向精神薬として、その作用機序の核心は中枢神経系でのドパミン受容体拮抗作用にあります。この薬剤は化学受容体トリガー帯(CTZ)内部のGABA受容体に結合することで、強力な制吐作用を発揮します。
参考)https://anesth.or.jp/img/upload/ckeditor/files/2410_05_400_3.pdf
ドロペリドールの主要な薬理作用は以下の通りです:
興味深いことに、最新の研究では、ドロペリドールが脊髄レベルでの作用機序も持つことが明らかになっています。低用量のドロペリドールは皮質脊髄路のシナプス伝達機構を修飾し、運動誘発電位(MEP)の振幅を著明に減少させる作用があります。これは従来知られていなかった新たな作用メカニズムとして注目されています。
参考)https://researchmap.jp/mitz/research_projects/32469263?lang=ja
術後悪心嘔吐(PONV)の予防において、ドロペリドールは第一選択薬の一つとして位置付けられています。その有効性は多数の臨床研究によって実証されており、特に低用量での使用が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdsa/50/4/50_149/_pdf/-char/ja
PONVに対するドロペリドールの投与方法:
メタアナリシスの結果では、1mg以下の低用量ドロペリドールによる早期悪心(術後6時間以内)の予防効果は、相対危険度(RR)0.45(95%CI、0.35~0.58)と高い有効性を示しています。治療必要数(NNT)は5~6名と、臨床的に意義のある効果が得られています。
参考)https://knight1112jp.seesaa.net/article/201206article_7.html
他の制吐薬との併用戦略も重要です。例えば、手術室でオンダンセトロンが投与されている場合はドロペリドールを選択し、デキサメタゾンとドロペリドールが既に投与済みならオンダンセトロンを追加するという段階的なアプローチが推奨されています。
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/500833
ドロペリドールの使用において最も注意すべき副作用はQT延長とそれに伴う致死性不整脈のリスクです。この薬剤は心筋の再分極を遅らせることにより、用量依存性のQT間隔延長作用を示します。
参考)http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-3_20180427s.pdf
重要な副作用とその頻度:
米国FDAでは、4年間で273例の症例報告があり、89例の死亡報告のうち大半は25~250mgの高用量使用例でしたが、2.5mg以下の低用量でも2例で死亡、5例で心室頻拍やTorsade de pointesが発生していることが報告されています。
安全使用のための監視項目:
麻酔前投薬としてのドロペリドールは、鎮静効果と制吐作用の両方を期待して使用されます。投与方法は単独使用とフェンタニルとの併用に分けられ、それぞれ異なる用量設定が必要です。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sinkei/DR3466-01.pdf
単独での麻酔前投薬:
フェンタニルとの併用時:
硬膜外麻酔の補助として使用する場合、メピバカイン等による持続硬膜外麻酔と併用することで、症例によっては全身麻酔や気管内挿管を必要としない手術も可能になります。
注意すべき相互作用として、腰椎麻酔や硬膜外麻酔との併用時は更なる血圧降下を招く可能性があるため、慎重な投与と綿密な監視が必要です。
参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf/20-04-1-14.pdf
看護師による適切な安全管理は、ドロペリドール投与時の重要な要素です。特に投与量の確認とモニタリング体制の構築が患者安全に直結します。
参考)https://www.jichi.ac.jp/msc/wordpress/wp-content/uploads/2010/08/4c61886ce74dba6cc7293adff7247da3.pdf
投与時の確認事項:
実際の臨床事例では、看護師による薬剤セッティング時のヒューマンエラーが重大な事故につながる可能性が報告されています。ペンタゾシン50mg + ドロペリドール25mg + 生理食塩水の調製において、25時間で注入予定の薬剤が数分で投与された事例では、患者に「頭がふらつく」症状が出現しました。
参考)https://www.jichi.ac.jp/msc/wordpress/wp-content/uploads/2010/09/ImSAFER-PPT8.pdf
効果的なモニタリング項目:
薬剤師との連携により、PONV発症率の改善と安全性の向上が図れます。薬剤師による使用提案が行われたデキサメタゾンやドロペリドールによる有害事象報告はなく、適切な多職種連携の重要性が示されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/47/4/47_179/_pdf
持続投与時は、シリンジポンプの設定確認と定期的な作動確認が必須です。また、患者・家族への説明として、投与後の注意点や副作用の早期発見方法についても十分な情報提供が求められます。