ドロペリドール作用機序と麻酔医療従事者向け臨床応用

医療従事者に必須なドロペリドールの薬理作用から副作用管理まで包括的に解説。術後悪心嘔吐予防の実践的投与方法や安全管理のポイントを詳しく紹介します。臨床現場で安全に活用できますか?

ドロペリドール薬理作用と医療従事者向け実践ガイド

ドロペリドール医療従事者向け完全ガイド
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薬理作用機序

ドパミン受容体拮抗作用による強力な制吐効果と鎮静作用

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術後悪心嘔吐予防

PONV予防に低用量投与で高い有効性を発揮

⚠️
副作用管理

QT延長リスクの監視と適切な投与量調整

ドロペリドール薬理作用機序とドパミン受容体への影響

ドロペリドールは、ブチロフェノン系の向精神薬として、その作用機序の核心は中枢神経系でのドパミン受容体拮抗作用にあります。この薬剤は化学受容体トリガー帯(CTZ)内部のGABA受容体に結合することで、強力な制吐作用を発揮します。
参考)https://anesth.or.jp/img/upload/ckeditor/files/2410_05_400_3.pdf

 

ドロペリドールの主要な薬理作用は以下の通りです:


  • ドパミンD2受容体拮抗:尾状核や側坐核のドパミン受容体に結合し、制吐作用の中心的役割を担います
    参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00051494


  • セロトニン拮抗作用:5-HT受容体への作用により、悪心嘔吐の予防効果を増強します

  • ヒスタミン拮抗作用:H1受容体への作用で鎮静効果に寄与します

  • α受容体遮断:交感神経節後線維のα受容体を遮断し、血管拡張作用をもたらします

興味深いことに、最新の研究では、ドロペリドールが脊髄レベルでの作用機序も持つことが明らかになっています。低用量のドロペリドールは皮質脊髄路のシナプス伝達機構を修飾し、運動誘発電位(MEP)の振幅を著明に減少させる作用があります。これは従来知られていなかった新たな作用メカニズムとして注目されています。
参考)https://researchmap.jp/mitz/research_projects/32469263?lang=ja

 

ドロペリドール術後悪心嘔吐(PONV)予防への臨床応用

術後悪心嘔吐(PONV)の予防において、ドロペリドールは第一選択薬の一つとして位置付けられています。その有効性は多数の臨床研究によって実証されており、特に低用量での使用が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdsa/50/4/50_149/_pdf/-char/ja

 

PONVに対するドロペリドールの投与方法:


  • 予防投与:麻酔導入時に1.25~2.5mg程度を投与
    参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/4825/


  • 硬膜外投与:硬膜外カテーテルからの持続投与により術後の悪心嘔吐が著明に減少

  • IV-PCA併用:患者自己調節鎮痛法(PCA)に添加することで制吐薬の必要量を減少

メタアナリシスの結果では、1mg以下の低用量ドロペリドールによる早期悪心(術後6時間以内)の予防効果は、相対危険度(RR)0.45(95%CI、0.35~0.58)と高い有効性を示しています。治療必要数(NNT)は5~6名と、臨床的に意義のある効果が得られています。
参考)https://knight1112jp.seesaa.net/article/201206article_7.html

 

他の制吐薬との併用戦略も重要です。例えば、手術室でオンダンセトロンが投与されている場合はドロペリドールを選択し、デキサメタゾンとドロペリドールが既に投与済みならオンダンセトロンを追加するという段階的なアプローチが推奨されています。
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/500833

 

ドロペリドール副作用とQT延長リスク管理

ドロペリドールの使用において最も注意すべき副作用はQT延長とそれに伴う致死性不整脈のリスクです。この薬剤は心筋の再分極を遅らせることにより、用量依存性のQT間隔延長作用を示します。
参考)http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-3_20180427s.pdf

 

重要な副作用とその頻度:


  • 血圧降下:2.25%の発生率で最も頻度の高い重篤な副作用

  • QT延長:頻度不明だが、致死性不整脈につながる可能性

  • 心室性頻拍・心停止:頻度不明だが生命に関わる重篤な副作用

  • 悪性症候群:体温上昇、筋硬直、昏睡、CK上昇を伴う症候群
    参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051494.pdf

米国FDAでは、4年間で273例の症例報告があり、89例の死亡報告のうち大半は25~250mgの高用量使用例でしたが、2.5mg以下の低用量でも2例で死亡、5例で心室頻拍やTorsade de pointesが発生していることが報告されています。
安全使用のための監視項目:


  • 心電図モニタリング:ドロペリドール投与後2~3時間は継続的な心電図監視が必要

  • QTc測定:投与前のQTc測定(男性430msec未満、女性450msec未満が正常値)

  • 禁忌患者の確認:QT延長症候群、重篤な心疾患患者では投与禁忌

ドロペリドール麻酔前投薬としての投与方法

麻酔前投薬としてのドロペリドールは、鎮静効果制吐作用の両方を期待して使用されます。投与方法は単独使用とフェンタニルとの併用に分けられ、それぞれ異なる用量設定が必要です。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sinkei/DR3466-01.pdf

 

単独での麻酔前投薬:

フェンタニルとの併用時:


  • 導入麻酔:ドロペリドール0.25~0.5mg/kg + フェンタニル5~10μg/kg

  • 局所麻酔補助:局所麻酔剤投与10~15分後にドロペリドール0.25mg/kg + フェンタニル5μg/kg

  • 投与方法:緩徐な静脈内注射または点滴静注(点滴静注が安全で確実)

硬膜外麻酔の補助として使用する場合、メピバカイン等による持続硬膜外麻酔と併用することで、症例によっては全身麻酔や気管内挿管を必要としない手術も可能になります。
注意すべき相互作用として、腰椎麻酔や硬膜外麻酔との併用時は更なる血圧降下を招く可能性があるため、慎重な投与と綿密な監視が必要です。
参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf/20-04-1-14.pdf

 

ドロペリドール投与時の看護師による安全管理とモニタリング

看護師による適切な安全管理は、ドロペリドール投与時の重要な要素です。特に投与量の確認とモニタリング体制の構築が患者安全に直結します。
参考)https://www.jichi.ac.jp/msc/wordpress/wp-content/uploads/2010/08/4c61886ce74dba6cc7293adff7247da3.pdf

 

投与時の確認事項:


  • 薬剤濃度の正確な確認:ドロペリドール25mg + 生理食塩水で希釈した総量と投与速度の確認

  • 投与経路の確認:静脈内、筋肉内、硬膜外など適切な投与経路の選択
    参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/500962


  • 患者状態の評価:既往歴、併用薬、心疾患の有無などリスク要因の評価

実際の臨床事例では、看護師による薬剤セッティング時のヒューマンエラーが重大な事故につながる可能性が報告されています。ペンタゾシン50mg + ドロペリドール25mg + 生理食塩水の調製において、25時間で注入予定の薬剤が数分で投与された事例では、患者に「頭がふらつく」症状が出現しました。
参考)https://www.jichi.ac.jp/msc/wordpress/wp-content/uploads/2010/09/ImSAFER-PPT8.pdf

 

効果的なモニタリング項目:


  • 心電図監視:QT間隔の変化、不整脈の早期発見

  • 血圧測定:血圧降下の監視(特に起立性低血圧

  • 意識レベル:過度の鎮静や錐体外路症状の確認

  • 呼吸状態:呼吸抑制の有無

薬剤師との連携により、PONV発症率の改善と安全性の向上が図れます。薬剤師による使用提案が行われたデキサメタゾンやドロペリドールによる有害事象報告はなく、適切な多職種連携の重要性が示されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/47/4/47_179/_pdf

 

持続投与時は、シリンジポンプの設定確認と定期的な作動確認が必須です。また、患者・家族への説明として、投与後の注意点や副作用の早期発見方法についても十分な情報提供が求められます。