ドネペジルの効果とアルツハイマー型認知症治療への影響

ドネペジルはアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の症状進行を遅らせる効果を持つ抗認知症薬で、アセチルコリンエステラーゼ阻害により脳内神経伝達を改善します。その具体的な効果や適応、副作用とはどのようなものでしょうか?

ドネペジルの効果と認知症症状進行抑制

ドネペジルの主要な効果
🧠
認知機能の進行抑制

記憶力・判断力の低下を遅らせ、アルツハイマー型認知症の症状進行を抑制

💊
アセチルコリンエステラーゼ阻害

神経伝達物質の分解を抑制し、脳内の情報伝達を改善

🎯
幅広い適応

アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の両方に有効

ドネペジルの基本的な効果メカニズム

ドネペジルは、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を可逆的に阻害することで効果を発揮します。この阻害により脳内アセチルコリン量が増加し、アルツハイマー型認知症で認められる脳内コリン作動性神経系の機能低下を改善します。
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?yjcode=1190012F3037

 

具体的には、記憶障害、同じことを繰り返す、判断ができにくくなるなどの認知症状に対して、その進行を遅らせる効果があります。この薬理作用により、認知機能、日常生活動作の管理能力、全体的な臨床印象がわずかに良好な結果をもたらすことが確認されています。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報

 

ドネペジルの効果が期待できる認知症タイプ

ドネペジルは主に2つのタイプの認知症に対して効果が認められています。第一にアルツハイマー型認知症で、軽度から重度まで幅広い病期において適応があります。第二にレビー小体型認知症においても、認知機能障害と幻視・パーキンソン症状の特徴を持つこの疾患に対して効果を示します。
参考)ドネペジル(アリセプト)【特徴・効果・副作用などの解説動画あ…

 

レビー小体型認知症では、ドネペジルがパーキンソン症状を悪化させる可能性があるとされていますが、臨床的には軽微な悪化であることが多く、認知機能低下が生活の質により大きな影響を与えている場合は投与が推奨されます。認知症の中でもレビー小体型認知症に適応を持つのはドネペジルのみという特徴があります。
参考)レビー小体型認知症なのですが、ドネペジルとパーキンソン病の薬…

 

ドネペジルによる症状改善の実際の効果

臨床試験では、ドネペジル10mgを6か月間服用した患者において、プラセボと比較して認知機能(思考や記憶など)、日常生活動作の管理能力、全体的な印象が統計的に有意な改善を示しました。ただし、行動や生活の質への影響は明確に確認されませんでした。
参考)アルツハイマー病による認知症患者に対するドネペジルの治療効果…

 

興味深いことに、症状が変わらなくても治療を何もしない場合より症状の進行を遅らせていると考えられています。これは、ドネペジルが病気の根本的な治癒ではなく、症状の進行を抑制する薬剤であることを示しています。また、無気力(アパシー)に対しても効果を期待する面があることが報告されています。
参考)https://order.nipro.co.jp/pdf/BB0-B003-0159-00.pdf

 

ドネペジル用法用量と治療対象の詳細

アルツハイマー型認知症の場合、通常成人には1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量します。高度のアルツハイマー型認知症患者では、5mgを4週間以上継続後、10mgまで増量することが可能です。レビー小体型認知症でも同様の用法で開始し、5mgで4週間以上経過後に10mgに増量できます。
参考)医療用医薬品 : ドネペジル塩酸塩 (商品詳細情報)

 

治療対象は、診断されたアルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症の患者で、投与開始12週間後までに認知機能検査、患者および家族・介護者からの症状聴取による有効性評価を行うことが重要です。ベネフィットがリスクを上回ると判断できない場合は投与を中止し、継続する場合も定期的な評価が必要です。

ドネペジル効果の臨床的な意外性と医薬品開発の背景

ドネペジルの開発には興味深い歴史があります。1999年に認知症治療薬として初めて日本で承認されるまで、認知症の薬というものは存在しませんでした。それまでは脳梗塞の後遺症に使用する脳血流改善薬を認知症患者に用いていたのが実情でした。
参考)アリセプト, ドネペジル, アルツハイマー, 薬

 

意外な発見として、ドネペジルはシグマ受容体に中等度の親和性を示すことが判明しており、これがアセチルコリンエステラーゼ阻害以外の効果メカニズムに関与している可能性があります。また、老齢ラットでは若齢ラットよりも強い阻害作用を示すことが確認されており、加齢に伴う生理的変化が薬効に影響することが示唆されています。さらに、メマンチンとの併用により、作用機序が異なることから相加的な治療効果が期待でき、実際にBPSD(行動・心理症状)の改善効果が報告されています。
参考)http://184.73.219.23/rounen-s/J-senyou/H-tokusyu/T23-9.htm