デュロキセチンは、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)として分類される抗うつ薬です 。うつ病の病態において重要な役割を果たすセロトニンとノルアドレナリンという神経伝達物質に対して、デュロキセチンは選択的に作用します 。
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セロトニンの濃度上昇により不安感や抑うつ症状が軽減され、ノルアドレナリンの増加によって意欲低下や活動性の改善が期待できます 。臨床試験においては、従来のSSRIと比較して、仕事と活動の改善においてデュロキセチンが優れた結果を示しています 。
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効果の発現には通常1~2週間程度を要し、十分な治療効果の確認には1ヶ月ほどの継続投与が必要とされています 。特に24歳以下の患者では投与初期に自殺念慮や自殺企図のリスクが増加する可能性があるため、慎重な観察が必要です 。
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糖尿病性神経障害に伴う疼痛に対して、デュロキセチンは40mgの1日1回投与で治療効果を発揮します 。複数の研究により、プラセボと比較してデュロキセチンが患者の痛みスコアを大幅に改善することが確認されています 。
参考)医療用医薬品 : デュロキセチン (デュロキセチンカプセル2…
総加重平均での週間平均24時間痛みスコアの低下は2.62(MD -0.89; P < 0.00001)と統計学的に有意な改善を示しています 。患者の45.6%が50%の痛み減少を、64.5%が30%の痛み減少を経験したと報告されています 。
参考)痛みを伴う糖尿病性神経障害の治療について
デュロキセチンによる糖尿病性神経障害の治療は対症療法であるため、根本的な糖尿病治療を併用することが重要です 。また、投与により血糖値やHbA1cの上昇が生じる可能性があるため、血糖値の推移を慎重に観察し、必要に応じて糖尿病治療薬の用量調節を行う必要があります 。
参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/products/files/1279/EPDUL1P01101-1.pdf
線維筋痛症に伴う疼痛に対しては、デュロキセチン60mgの1日1回投与が標準的な治療用量とされています 。投与は20mgから開始し、1週間以上の間隔を空けて20mgずつ段階的に増量する漸増投与が推奨されています 。
参考)https://medical.nihon-generic.co.jp/a.php?id=211
線維筋痛症の診断は、米国リウマチ学会の分類基準等の国際的な基準に基づいて慎重に実施され、確定診断された場合にのみ投与が考慮されます 。現在日本では、プレガバリン(リリカ®)とともにデュロキセチン(サインバルタ®)が線維筋痛症に対する保険適応を有する薬剤として位置づけられています 。
参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/products/files/1279/EPDUL1P00901-1.pdf
デュロキセチンは線維筋痛症患者の中枢性感作の軽減にも寄与し、痛みの形成・維持機構に対して多面的な効果を発揮することが研究により示されています 。
参考)線維筋痛症の疼痛形成・維持機構における脾臓の重要性
慢性腰痛症および変形性関節症に伴う疼痛に対しても、デュロキセチンは60mgの1日1回投与で治療効果を示します 。これらの疾患においても20mgからの漸増投与が基本となります 。
参考)医療用医薬品 : デュロキセチン (デュロキセチンカプセル2…
慢性腰痛に対する抗うつ薬の効果を比較した研究では、SSRIと比較してSNRIであるデュロキセチンが優れた結果を示しています 。これは、ノルアドレナリンの痛み抑制系への関与が大きく影響していると考えられています 。
参考)SNRIについて 作用・特徴・比較
変形性関節症の場合、3ヶ月以上疼痛を有し、最新の診断基準を参考に確定診断された患者にのみ投与が考慮されます 。これらの疾患に対するデュロキセチンの治療は対症療法であるため、疼痛の原因があればその治療を併せて行い、薬物療法以外の選択肢も考慮する必要があります 。
参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/products/files/1278/EPDUL1P01001-1.pdf
デュロキセチンの最も注目すべき特徴は、脊髄レベルでの痛み抑制メカニズムです 。最新の研究により、デュロキセチンの連続投与が脊髄後角でノルアドレナリン濃度を増加させ、α2アドレナリン受容体を介して痛覚過敏を抑制することが明らかになっています 。
参考)デュロキセチンの連続投与は脊髄でノルアドレナリンを増やすこと…
従来の痛み治療薬とは異なり、デュロキセチンは脳内の神経伝達物質調節と脊髄での痛み伝達抑制という二重の作用機序を有しています 。下行性疼痛抑制系神経を介した痛み抑制において、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み阻害による神経伝達物質濃度の上昇が、下行性疼痛抑制系の賦活化を促進します 。
この独特な作用機序により、デュロキセチンは単なる痛み止めではなく、痛みの感受性そのものを調節する薬剤として機能します 。抗がん剤起因性の末梢神経障害に対する有効性も報告されており、神経障害性疼痛全般に対する治療選択肢としての価値が高まっています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/cf31b302b948869b1c9e309f23ce4d2097f9363d
血液中の半減期は約10~15時間で、服用後6時間で最大血中濃度に達し、代謝産物に薬理活性はありません 。1日1回の投与で安定した血中濃度を維持できるため、患者のコンプライアンス向上にも寄与しています 。
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