チオプリンメチルトランスフェラーゼとは薬物代謝に重要な役割

チオプリンメチルトランスフェラーゼは、6-メルカプトプリンなどのチオプリン薬をメチル化する重要な酵素で、遺伝的多型により活性が異なり、個別化医療に必要不可欠な要素です。なぜ医療従事者に重要なのでしょうか?

チオプリンメチルトランスフェラーゼの基本

チオプリンメチルトランスフェラーゼの基本概念
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遺伝的多型の影響

TPMT活性は遺伝子型により3つのレベルに分類され、薬物療法の効果と毒性に直接影響する

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薬物代謝機能

チオプリン薬のSメチル化を触媒し、6-メチルメルカプトプリンを生成して薬物の活性を調節する

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個別化医療への応用

TPMT活性測定により安全で効果的な薬物投与量の決定が可能になる

チオプリンメチルトランスフェラーゼの基本構造と機能

チオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)は、S-アデノシル-L-メチオニンを使用してチオプリン薬のSメチル化を触媒する重要な代謝酵素です。この酵素は245個のアミノ酸からなるタンパク質として構成されており、6番染色体の6p22.3領域に位置する遺伝子によってコードされています。
参考)https://www.jcga-scc.jp/ja/gene/TPMT

 

TPMTの主要な機能は、6-メルカプトプリン、チオグアニン、アザチオプリンなどのチオプリン薬をメチル化代謝することです。この代謝過程では、S-メチル基供与体としてS-アデノシル-L-メチオニンを使用し、副産物としてS-アデノシル-L-ホモシステインを生成します。
参考)https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/18666383?click_by=p_ref

 

代謝反応の結果として生成される6-メチルメルカプトプリン(6-MMP)は、チオプリン薬の活性代謝産物である6-チオグアニンヌクレオチドの生成を阻害する役割を果たします。この競合的な代謝経路により、TPMTは薬物の治療効果と毒性のバランスを調節する重要な因子となっています。
参考)https://patents.google.com/patent/JP4803942B2/ja

 

チオプリンメチルトランスフェラーゼの遺伝的多型と臨床的意義

TPMT遺伝子には遺伝的多型が存在し、この多型が酵素活性に大きな影響を与えます。集団における酵素活性の分布は三つの表現型に分類されており、高活性を示す個体が約89%、中程度の活性を示す個体が約11%、検出レベル以下の低活性を示す個体が約0.33%(300人に1人)となっています。
参考)http://dbsearch.biosciencedbc.jp/Patent/page/ipdl2_JPP_an_2001587104.html

 

日本人集団における研究では、TPMT遺伝子多型と6-メルカプトプリン代謝活性との関係が詳細に調査されています。特に、遺伝子型によっては比較的高い代謝活性を持つ被験者が存在することが報告されており、個体差の大きさが明らかになっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt1970/34/1/34_1_35S/_article/-char/ja/

 

この遺伝的多型は、チオプリン薬に対する個人の感受性と毒性の変動と強く相関しており、チオプリンS-メチルトランスフェラーゼ欠損を引き起こす場合もあります。低活性または欠損を示す患者では、6-チオグアニンヌクレオチドの過剰蓄積により重篤な造血毒性や肝毒性が発生するリスクが高まります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/44/4/44_361/_pdf/-char/en

 

チオプリンメチルトランスフェラーゼ活性測定と個別化薬物療法

TPMT活性の測定は、チオプリン薬による治療を開始する前に実施すべき重要な検査項目です。測定方法としては、Kroplin HPLCアッセイ法による直接的な酵素活性測定が確立されており、信頼性の高い結果が得られます。
測定方法の基本的なプロセスは以下のように行われます。

  • 患者から得られた試料を6-メルカプトプリン以外のチオプリン誘導体と反応させる
  • 反応試料を酸(通常は70%過塩素酸)と接触させてタンパク質を沈殿させる
  • 沈殿物から上清を分離する
  • 上清中のメチル化プリン生成物を蛍光検出やHPLCで定量する

炎症性腸疾患の患者において、アザチオプリン療法を必要とする場合、現在では薬物療法の最適な開始用量を決定するためにTPMT活性測定が推奨されています。この測定により、望ましくない副作用を最小限に抑えつつ、治療効率を最適化することが可能となります。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/23-%E8%87%A8%E5%BA%8A%E8%96%AC%E7%90%86%E5%AD%A6/%E8%96%AC%E7%89%A9%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E3%81%AB%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%81%99%E3%82%8B%E5%9B%A0%E5%AD%90/%E8%96%AC%E7%90%86%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%A6

 

チオプリンメチルトランスフェラーゼの代謝経路と薬物相互作用

TPMTはチオプリン薬の代謝において、他の酵素経路と競合関係にあります。主要な競合経路には、キサンチンオキシダーゼ(XO)による6-チオ尿酸への変換と、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)による6-チオイノシン-5'-一リン酸への変換があります。
これらの酵素活性のバランスが、最終的な薬物効果を決定します。TPMT活性が低い患者では、6-メルカプトプリンがメチル化されにくくなり、結果として6-チオグアニンヌクレオチドへの変換が増加します。これにより治療効果は高まりますが、同時に造血毒性のリスクも増大します。
興味深いことに、他の薬物との併用によってTPMTの活性や遺伝子発現が調節される可能性があります。これは単純な酵素阻害だけでなく、遺伝子発現レベルでの相互作用も含んでおり、薬物療法の複雑性を示しています。
参考)https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202102253496723119

 

チオプリンメチルトランスフェラーゼ研究の最新動向と将来展望

近年の研究では、TPMT遺伝子型と表現型の一致性についてより詳細な検討が行われています。従来の遺伝子型のみによる予測では説明できない症例も報告されており、エピジェネティックな要因や環境因子の影響についても注目されています。
また、がん種別の変異頻度解析により、TPMT遺伝子は様々な悪性腫瘍において変異が認められることが判明しています。これは化学療法における薬物選択や投与量調整において、従来の炎症性疾患での知見を超えた新たな応用可能性を示唆しています。
個別化医療の観点から、TPMT活性測定と遺伝子解析を組み合わせたアプローチが提案されています。治療薬物濃度モニタリング(TDM)との併用により、より精密な投与量調整が可能となり、治療成功率の向上と副作用リスクの軽減が期待されています。
さらに、人工知能や機械学習を活用した薬物代謝予測モデルの開発も進んでおり、TPMT活性データを含む包括的な薬理遺伝学情報の統合的解析により、将来的にはより高精度な個別化薬物療法が実現される可能性があります。