チモール(2-イソプロピル-5-メチルフェノール)は、フェノール誘導体として分類される植物由来の天然化合物です。チモールは主にタイム属植物から抽出され、強力な抗菌・殺菌効果を示すことで知られています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10856996/
作用機序としては、細菌細胞膜への直接的な浸透により効果を発揮します。具体的には、黄色ブドウ球菌(S. aureus)や大腸菌(E. coli)に対して、細菌膜を通過して細胞内部に浸透することで抗菌作用を示すことが報告されています。
参考)https://hrc.threecosmetics.com/ingredient/%E3%83%81%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB
チモールの殺菌メカニズムは以下の複数の作用点を持ちます。
参考)https://www.osaka-kasei.co.jp/news/pickup/20220728.html
ヒトにおけるチモールの薬物動態パラメーターは詳細に研究されています。経口投与後約1.97時間で最高血漿中濃度93.1 ng/mLに達し、消失半減期は10.2時間と比較的短時間で代謝されます。
参考)https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc1_doubutu_thymol_300307.pdf
代謝経路の特徴。
この迅速な代謝特性により、チモールは体内蓄積のリスクが低く、動物用医薬品として適正使用する限りにおいては、ADI(許容一日摂取量)を特定する必要がないと評価されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000345875.pdf
歯科領域における臨床研究では、チモール含有のリステリンが30秒で広範囲の口腔内有害菌を速やかに死滅させ、12時間にわたってプラークおよび歯肉炎を予防することが実証されています。
参考)https://www.tosu-motomachishika.com/blog/post-7/
リステリンにおけるチモール効果。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kmj/57/3/57_3_239/_pdf
皮膚科領域では、チモールリキッドとして真菌感染症の治療に応用されています。爪水虫や爪甲剥離症などの症状改善において、1~2週間程度で症状の改善が報告され、完治には1~2ヶ月の継続使用が推奨されています。
参考)https://d-choice.net/products/products/he-dc-phngcrmthml.html
各種毒性試験の結果から、チモール投与による主たる影響は、雄ラットにみられた一過性の体重増加抑制傾向および雌ラットにみられた一過性の自発運動量の減少と歩行失調でした。
安全性評価の重要なポイント。
ただし、歴史的には寄生虫駆除薬として大量投与されていた時代には、致命的中毒症の危険性が指摘されていたため、現在の使用量設定では安全性が十分配慮されています。
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=6422001X1022
近年の研究では、チモールの効果は従来の抗菌・殺菌作用を超えた多様な生物活性が報告されています。ナノテクノロジーとの融合により、新しい医療応用が期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10303142/
革新的な応用研究。
これらの新規応用では、従来の単独使用では実現困難だった持続的な薬効と標的部位への集中的な薬物送達が可能となり、感染症治療の新たな選択肢として期待されています。
臨床応用への展望。
食品安全委員会の評価においても、チモールは動物用医薬品として適切に使用する限りにおいて安全性に問題がないとされており、医療現場での更なる活用拡大が見込まれています。