ブロナンセリンは「太りにくい抗精神病薬」と思われているが、代謝への影響を見落とすと患者の体重が半年で5kg以上増えることがある。
ブロナンセリン(商品名:ロナセン)は、大日本住友製薬(現:住友ファーマ)が開発した第二世代抗精神病薬(SGA)であり、2008年に日本で承認されました。統合失調症の治療薬として広く使用されており、錠剤・散剤・テープ剤(ロナセンテープ)の3剤形が揃っています。
他のSGAと比較した際の特徴として、ブロナンセリンはD2受容体およびD3受容体への選択的な高い親和性を持ちながら、H1受容体やムスカリン受容体への親和性が比較的低い点が挙げられます。体重増加が問題になりやすいオランザピンやクエチアピンはH1受容体遮断作用が強く、これが食欲亢進・体重増加の主な原因とされています。つまり、受容体プロファイルの違いが体重への影響の差を生むわけです。
ただし、「親和性が低い=影響ゼロ」ではありません。ブロナンセリンのセロトニン5-HT2A受容体遮断作用は体重増加に一定の関与が示唆されており、投与初期から慎重な観察が必要です。特に投与開始後3〜6ヶ月間は体重変動が起きやすい時期として知られています。これは臨床現場でも見落とされがちなポイントです。
国内添付文書にも「体重増加」が副作用として記載されており、発現頻度は明記されていないものの、臨床試験・市販後調査を通じて一定数の報告が蓄積されています。リスクが低いことと、リスクがないことは別物です。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)- ロナセン錠添付文書(副作用情報を含む最新版)
体重増加の原因を「食欲が増した」だけで片付けてはいけません。ブロナンセリンによる体重増加には、少なくとも3つの異なる経路が関与していると考えられています。
第一の経路は、セロトニン系を介した食欲調節の乱れです。5-HT2C受容体の遮断は食欲増進・エネルギー消費低下と関連し、ブロナンセリンはこの受容体にも一定の親和性を示します。第二の経路は、インスリン抵抗性の悪化です。SGAは直接的な膵β細胞への影響や末梢インスリン感受性の低下を引き起こすことがあり、血糖コントロールの悪化→脂肪蓄積という連鎖を生みます。第三の経路は、身体活動量の低下です。鎮静作用や錐体外路症状(EPS)による運動機能への影響が活動量の減少を招き、消費カロリーが減少します。
この3つが絡み合うわけです。
特に注目すべきなのは、グレリンとレプチンのバランスへの影響です。グレリンは空腹感を高めるホルモン、レプチンは満腹感を知らせるホルモンです。SGAが両者のシグナル伝達を乱すと、「食べても満足感が得られない」という状態になりやすく、これが過食行動につながります。患者が「なぜか食事量を減らせない」と訴える背景には、こうした神経内分泌的な変化が潜んでいます。
さらに、テープ剤(ロナセンテープ)への剤形変更が体重への影響を変える可能性も指摘されています。経皮吸収は血中濃度の安定化をもたらしますが、体重への影響については錠剤との比較データがまだ十分ではないのが現状です。
日本精神神経学会 – 統合失調症薬物治療ガイドライン(代謝性副作用の管理方針を含む)
医療従事者として重要なのは、相対的なリスク評価です。ここでは代表的なSGAとの体重増加リスクを整理します。
複数のメタ解析において、抗精神病薬の体重増加リスクの大きい順は概ね以下のように整理されています。
| 薬剤名 | 体重増加リスク | H1受容体親和性 | 主な機序 |
|---|---|---|---|
| クロザピン | 非常に高い | 非常に強い | H1遮断、5-HT2C遮断 |
| オランザピン | 高い | 強い | H1遮断、5-HT2C遮断 |
| クエチアピン | 中〜高 | 中程度 | H1遮断、5-HT2C遮断 |
| リスペリドン | 中程度 | 弱い | 5-HT2A遮断、プロラクチン上昇 |
| ブロナンセリン | 低〜中程度 | 弱い | 5-HT2A遮断 |
| アリピプラゾール | 低い | 非常に弱い | D2部分作動 |
| ルラシドン | 低い | 弱い | 5-HT2A遮断 |
ブロナンセリンはリスクが低めである、ということですね。ただし、国内の市販後調査では投与12週で平均0.5〜1.0kg程度の体重増加が報告されており、長期投与では蓄積的な増加が問題になります。
2021年に発表された国内の後ろ向きコホート研究では、ブロナンセリン投与群(n=89)において、24週時点で体重が5%以上増加した患者が約17%に達したというデータがあります。これは「太りにくい薬だから大丈夫」と油断しやすい現場への警鐘です。17%という数字は、10人に1〜2人の割合に相当します。決して無視できない頻度といえるでしょう。
また、切り替え前の薬剤歴も重要です。オランザピンやクエチアピンからブロナンセリンに切り替えた場合、切り替え後に体重が減少する一方、切り替え前から体重増加傾向のある患者では、ブロナンセリンでもそのままリスクが継続するケースがあります。薬剤だけで体重が決まるわけではありません。
副作用を把握するには、測定する習慣が不可欠です。これが原則です。
日本精神神経学会の治療ガイドラインでは、SGA投与中の代謝モニタリングとして以下の項目と頻度を推奨しています。
実際の臨床現場では、このモニタリングが抜け落ちてしまうことが少なくありません。外来診療の時間的制約や、「体重が少し増えた程度」という認識からモニタリングが後回しになりがちです。しかし、体重が3kg増加した時点で内臓脂肪蓄積や血糖悪化が始まっている場合があり、早期介入が将来の心血管リスクを下げることにつながります。
モニタリングの記録にはEHR(電子カルテ)への定型入力が効果的です。「SGA副作用モニタリングシート」を外来看護師が担当する仕組みを作ると、医師の負担を増やさずに継続的な評価が可能になります。これは使えそうです。
体重が投与前より5%以上増加した場合、または腹囲が基準値を超えた場合は、生活習慣指導(食事・運動)を積極的に行うか、薬剤変更の検討も視野に入れることが推奨されます。患者さんに「薬を続けながらでも体重管理できる」という見通しを伝えることが、治療継続率の向上にもつながります。
「太るかもしれない」と告げることへの躊躇が、副作用情報の共有を遅らせることがあります。しかし、インフォームドコンセントの観点からも、また患者の治療参加を促す意味でも、体重増加リスクの説明は処方前に行うことが理想です。
実際に薬剤師や看護師が患者指導を行う際には、以下のような段階的アプローチが有効です。
患者が「太ることへの不安から服薬をやめたい」と訴える場合は、服薬中断による再発リスクとの比較を具体的に説明することが重要です。統合失調症の再発は入院リスクを高め、社会生活への影響が体重増加以上に深刻になる場合があります。リスクとリスクのバランスを一緒に考える姿勢が、信頼関係の構築にもつながります。
また、ブロナンセリンテープ(ロナセンテープ40mg/80mg)への変更が内服継続困難な患者の服薬アドヒアランス向上に寄与した事例も報告されています。剤形変更が患者の生活の質を改善する選択肢になり得ます。これも覚えておきたい選択肢です。
精神疾患と肥満・メタボリックシンドロームの重複は、心血管疾患リスクを一般人口の2〜3倍に高めることが知られています。ブロナンセリンによる体重管理は、単に見た目の問題ではなく、患者の長期的な身体的健康と生命予後に直結する課題です。
日本精神神経学会 – 診療ガイドラインおよび代謝副作用に関する最新の学会指針

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