アウエルバッハ神経叢マイスネル神経叢の腸管神経系における役割と機能

アウエルバッハ神経叢とマイスネル神経叢の解剖学的構造と生理機能について医療従事者向けに詳しく解説。第二の脳と呼ばれる腸管神経系の複雑な機能とは?

アウエルバッハ神経叢とマイスネル神経叢の構造と機能

腸管神経系の二大神経叢の概要
🧠
アウエルバッハ神経叢の位置と役割

縦走筋と輪走筋の間に存在し、消化管の蠕動運動を制御する運動系神経叢

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マイスネル神経叢の機能

粘膜下組織に存在し、腺分泌と粘膜筋層の運動を調節する感覚系神経叢

自律的反射機能

中枢神経系を介さずに局所的制御を行う第二の脳としての機能

アウエルバッハ神経叢の解剖学的構造と分布

アウエルバッハ神経叢(筋層間神経叢)は、消化管壁の縦走筋層と輪走筋層の間に位置する神経ネットワークです。この神経叢は食道から直腸まで消化管全域にわたって広く分布しており、消化管運動の基本的な制御を担っています。
参考)https://www.anatomy.tokyo/%E7%AD%8B%E5%B1%A4%E9%96%93%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%8F%A2%E3%81%A8%E7%B2%98%E8%86%9C%E4%B8%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%8F%A2/

 

📍 分布領域と特徴

  • 食道〜直腸までの全消化管に存在
  • 縦走筋と輪走筋の間の筋層間に配置
  • 神経細胞体とそれらを結ぶ神経線維からなる複雑なネットワーク構造
  • 各部位で神経節の密度や大きさが異なる

組織学的には、アウエルバッハ神経叢は多数の神経節と神経線維束から構成されています。神経節内には運動ニューロン、介在ニューロン、感覚ニューロンの3種類のニューロンが存在し、それぞれが異なる機能を担っています。
参考)https://kanri.nkdesk.com/hifuka/sinkei/sinkei33.php

 

興奮性の運動ニューロンはアセチルコリン(ACh)を神経伝達物質として使用し、平滑筋の収縮を引き起こします。一方、抑制性ニューロンは非アドレナリン作動性・非コリン作動性(NANC)ニューロンとして機能し、一酸化窒素(NO)やバソアクティブ腸管ペプチド(VIP)などを放出して筋弛緩を誘導します。

マイスネル神経叢の機能と生理学的意義

マイスネル神経叢(粘膜下神経叢)は、粘膜下組織に存在し、主に小腸から大腸にかけて発達している神経叢です。この神経叢は粘膜の感覚機能と分泌機能の調節において中心的な役割を果たしています。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%85%B8%E7%AE%A1%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

 

🔬 マイスネル神経叢の主要機能

  • 内在性知覚ニューロン(IPAN)による感覚受容
  • 腺分泌の調節
  • 粘膜筋層の運動制御
  • 電解質・水分泌反射の制御

内在性知覚ニューロンは、消化管壁に加わる物理的・化学的刺激を感知する特殊な受容器として機能します。これらのニューロンは腸管内容物の成分、pH、浸透圧、機械的圧迫などを検出し、その情報をアウエルバッハ神経叢の介在ニューロンに伝達します。
マイスネル神経叢のもう一つの重要な機能は、消化腺の分泌調節です。腸管上皮細胞からの電解質分泌、粘液分泌、消化酵素分泌などを精密に制御し、消化吸収の最適化を図っています。

 

アウエルバッハ神経叢の蠕動運動制御メカニズム

アウエルバッハ神経叢は消化管の蠕動運動を制御する中枢的な役割を担っています。この神経叢による運動制御は、興奮性と抑制性のニューロンが協調的に働くことで実現されています。
参考)https://www.seirogan.co.jp/medical/creosote/effective02.html

 

⚙️ 蠕動反射の基本パターン

  • 上行性興奮経路:刺激部位より口側の筋収縮
  • 下行性抑制経路:刺激部位より肛門側の筋弛緩
  • 推進性蠕動波の形成
  • 逆蠕動の抑制機構

蠕動運動の基本的なメカニズムは、腸管内容物による機械的刺激が引き金となって開始されます。この刺激はマイスネル神経叢の感覚ニューロンによって検出され、アウエルバッハ神経叢の介在ニューロンを介して運動ニューロンに情報が伝達されます。
副交感神経(迷走神経)からの入力もアウエルバッハ神経叢を介して消化管運動に影響を与えます。迷走神経の節前線維は神経叢内の介在ニューロンにアセチルコリンを放出し、これらの介在ニューロンは節後線維として機能して最終的に興奮性運動ニューロンを刺激します。

 

マイスネル神経叢の分泌調節と感覚機能

マイスネル神経叢は消化管の分泌機能と感覚機能の統合制御センターとして機能しています。特に小腸と大腸において、この神経叢の活動は消化吸収効率と水電解質バランスの維持に直接関係しています。

 

💧 分泌制御の詳細メカニズム

  • クリプト細胞からのCl⁻分泌調節
  • 杯細胞からの粘液分泌制御
  • 腸管上皮の透過性調節
  • 局所的血流調節

マイスネル神経叢の内在性知覚ニューロンは、腸管内容物の化学的組成を感知する化学受容器としても機能します。例えば、脂肪酸、胆汁酸グルコース、アミノ酸などの栄養素濃度の変化を検出し、適切な消化液の分泌を誘導します。

 

また、この神経叢は腸管免疫系とも密接に連携しています。炎症性サイトカインや免疫細胞からの信号を受け取り、炎症部位での分泌パターンを変化させることで、腸管バリア機能の維持に寄与しています。

 

アウエルバッハ神経叢とマイスネル神経叢の相互連携システム

アウエルバッハ神経叢とマイスネル神経叢は独立した神経系ではなく、相互に連絡し合う統合的なネットワークを形成しています。この両神経叢間の連携により、消化管は「第二の脳」として中枢神経系に依存しない高度な自律機能を発揮できます。
🔄 神経叢間の相互作用

  • 介在ニューロンによる情報伝達
  • 反射弓の形成による自動制御
  • 神経伝達物質の共有と相互調節
  • 長距離神経回路の構築

両神経叢の協調的な活動により、消化管は外部からの神経支配がなくても基本的な機能を維持できます。例えば、移植された腸管でも蠕動運動や分泌機能が保たれるのは、この内在的な神経制御システムが存在するためです。

 

興味深いことに、腸管神経系のニューロン数は脊髄全体のニューロン数に匹敵するとされており、その複雑さは消化管の高度な機能性を反映しています。また、腸管神経系で産生されるセロトニンは全身のセロトニンの約95%を占めており、消化管機能だけでなく中枢神経系の機能にも影響を与えています。

 

神経変性疾患炎症性腸疾患では、これらの神経叢の構造や機能に異常が生じることが知られており、病態生理の理解と治療戦略の開発において腸管神経系の研究は重要な意義を持っています。
参考)https://dept.dokkyomed.ac.jp/dep-k/ped_surg/hirsch.html

 

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獨協医科大学埼玉医療センター小児外科 - ヒルシュスプルング病の病態と治療
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脳科学辞典 - 腸管神経系の構造と機能