腎機能が正常でもアマンタジンで重篤な副作用が出ることがあります。
アマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレル)は、インフルエンザA型治療およびパーキンソン病治療薬として長く使われてきた薬剤です。しかし医療現場では、その中枢神経系副作用の発現頻度と重症度が軽視されがちな現状があります。
中枢神経系副作用として報告頻度が高いのは以下のとおりです。
高齢パーキンソン病患者を対象とした国内症例報告では、100mg/日という通常用量でも幻視が出現した例が複数記録されています。「用量が少ないから安全」という判断は危険です。
パーキンソン病患者の約20〜40%に認知機能低下が合併するとされており、そこにアマンタジンのドパミン作動性作用が加わることで、精神症状のリスクが相乗的に高まります。つまり基礎疾患の状態が副作用発現率を左右します。
早期発見のポイントとして、「夜間に話しかけてくる」「トイレの方向がわからなくなった」といった生活上の些細な変化を家族や看護師から収集することが有効です。これは使えそうです。幻覚の初発が日中の業務中ではなく夜間に多いことも頭に入れておく必要があります。
アマンタジンはほぼ100%が未変化体のまま腎から排泄されます。これが副作用管理の最重要ポイントです。
eGFRに応じた用量調節の目安は下表のとおりです。
| eGFR(mL/min/1.73m²) | 推奨用量・投与間隔の目安 |
|---|---|
| ≥ 60 | 通常量(100〜200mg/日) |
| 30〜59 | 100mg/日 または 100mg 隔日 |
| 15〜29 | 100mg を2〜3日に1回 |
| < 15 / 透析患者 | 原則禁忌〜極めて慎重 |
落とし穴があります。血清クレアチニン(Cr)値だけを見て「正常範囲内」と判断するのは危険です。特に70歳以上の高齢女性では、筋肉量が少ないためCr値が0.6〜0.7mg/dLでも実際のeGFRは40台を示すケースがあります。
CKD-EPI式やCockcroft-Gault式でeGFRを計算する習慣が、アマンタジンの安全使用においては原則です。入院患者の場合は電子カルテ上にeGFRが表示されますが、外来処方では見落としやすい点に注意が必要です。
蓄積が進んだ場合、最初に現れるのが中枢神経症状(傾眠・ミオクローヌス)であることが多く、血中濃度測定(治療域の目安:0.2〜0.9µg/mL)を活用することで早期検出が可能です。腎機能と中枢症状のセットで評価するのが条件です。
中枢神経系副作用ほど知られていませんが、アマンタジンは循環器系にも影響を与えます。意外ですね。
主な循環器系副作用を以下に示します。
うっ血性心不全の悪化については、アマンタジンが腎でのナトリウム再吸収を促進する作用を持つことが背景にあります。体重が3日で2kg以上増加した場合は浮腫の蓄積を疑うべきサインです。
QT延長に関しては、フルコナゾール・マクロライド系抗菌薬・一部の抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジンなど)との併用が特にリスクを高めます。インフルエンザ治療中に抗菌薬を追加する状況は臨床上しばしば起こりますので、併用薬の確認は必須です。
心疾患を持つ患者への処方前に12誘導心電図でQTc値を確認し、480msec以上であれば使用の再考が推奨されます。QTcが条件です。
あまり教科書的に取り上げられないのが、皮膚科的副作用の「リベド(網状皮斑)」です。
リベド(livedo reticularis)とは、皮膚が網目状に赤紫色に変色する状態で、アマンタジン服用者の5〜10%に発現するとされています。足〜下腿に多く、特に女性に出やすい傾向があります。見た目の変化なので患者本人が自己判断で「アレルギーかも」と思い受診するケースもあります。
この皮膚変化は薬剤の中止により多くの場合数週間〜数カ月で消退しますが、長期間放置すると患者の不安やアドヒアランス低下を招きます。早めの説明が大切です。
消化器系副作用としては以下が報告されています。
特に便秘は高齢パーキンソン病患者ではもともと多い症状であり、アマンタジンがこれを悪化させることがあります。下剤の調整や水分摂取促進を早期から指導することで、QOL低下を防げます。これも副作用管理の一部です。
ほとんどの添付文書や解説記事が触れていない重要な点があります。それがアマンタジン「突然中止」によるリバウンドリスクです。
パーキンソン病患者においてアマンタジンを急に中止すると、悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome類似)が発現したとの症例報告が国内外で複数存在します。発熱・筋硬直・意識障害という三徴候を呈し、重症例では死亡例も報告されています。
副作用対策として「すぐ中止しよう」という判断が、別の重篤な事態を招く可能性があります。これは副作用管理の盲点です。
アマンタジン中止が必要な場合は2〜4週間かけて漸減するのが原則です。特に入院患者で「絶食・手術前後」のタイミングに投薬が中断されるケースで発症リスクが高まるため、術前の薬剤確認リストにアマンタジンを明示しておくことが重要です。
また、アマンタジン中止後にパーキンソン症状が急激に悪化する「wearing-off様現象」もあり、神経内科医への迅速な相談ルートを院内で整備しておくことが推奨されます。副作用が出たら中止、だけでは不十分ということですね。
参考:アマンタジン塩酸塩(シンメトレル)添付文書および適正使用に関する情報(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
PMDA:シンメトレル錠添付文書(PDF)
参考:パーキンソン病診療ガイドライン2018(日本神経学会)—アマンタジンの位置づけと注意点
日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018