突き指が2ヶ月経過しても改善しない場合、単純な軟部組織損傷ではなく、より重篤な病態が潜んでいる可能性が高い。一般的に軽症の突き指は10日程度で改善するとされているが、重症例では1-2ヶ月程度の治療期間を要する。
主な鑑別診断項目:
興味深いことに、突き指の約30%で何らかの骨折が併存しているという報告がある。特に剥離骨折は初期のX線検査で見落とされやすく、適切な固定治療が行われないまま経過することで慢性疼痛の原因となる。
診断には詳細な理学所見に加え、必要に応じてCTやMRI検査を検討すべきである。単純X線では描出困難な軟骨損傷や靭帯損傷の評価には、超音波検査も有用な診断ツールとなる。
2ヶ月経過した慢性期の突き指治療には、急性期とは異なるアプローチが必要となる。この時期の特徴は、組織の線維化と関節拘縮の進行である。
慢性期治療の基本原則:
保存的治療として、超音波治療や体外衝撃波治療(ESWT)などの物理療法が効果的である。これらの治療法は組織の血流改善と線維化の軟化を促進し、慢性疼痛の軽減に寄与する。
また、ステロイド注射は慢性炎症の抑制に有効だが、腱への直接注射は腱断裂のリスクを高めるため注意が必要である。超音波ガイド下での精密な注射技術が推奨される。
手術適応となるケースでは、関節鏡視下手術や腱修復術を検討する。ただし、受傷から数ヶ月経過した症例では、通常の手術では完全な機能回復が困難な場合もある。
マレット損傷は突き指の中でも特に治療が困難な病態の一つである。伸筋腱の断裂により、DIP関節の能動的伸展が不可能となる状態で、放置すると Swan neck変形を来す可能性がある。
マレット損傷の分類:
興味深い治療報告として、受傷から2-3ヶ月経過した腱性マレットフィンガーでも、適切な治療により可なりの機能改善が期待できるという症例が報告されている。41歳男性の症例では、受傷から23日経過した時点で治療を開始し、8週間後には関節可動域の著明な改善を認めている。
慢性期マレット損傷の治療選択肢:
治療成績は受傷からの経過時間と密接に関連しており、早期診断・早期治療の重要性が示されている。受傷後遅くても2-3日での受診が推奨されている。
突き指の後遺症として最も問題となるのは、関節拘縮と握力低下である。特に手を多用する職業では、機能的な回復だけでなく、職業特異的な動作能力の回復が重要となる。
段階的職業復帰プログラム:
Phase 1(疼痛管理期:1-2週間)
Phase 2(可動域改善期:2-4週間)
Phase 3(筋力回復期:4-6週間)
Phase 4(職業復帰準備期:6-8週間)
このプログラムの特徴は、単なる関節可動域の回復だけでなく、実際の職業動作を想定した機能訓練を含むことである。例えば、美容師であればハサミ操作、大工であればハンマー使用など、具体的な職業動作の段階的負荷をかけることで、安全な職業復帰が可能となる。
作業療法士との連携により、職場環境の改善や代替動作の指導も重要な要素となる。また、再発予防のための保護具の使用や、作業姿勢の改善指導も継続的に行う必要がある。
近年の研究により、突き指治療に関する新たなエビデンスが蓄積されている。特に注目すべきは、早期運動療法の有効性と、新しい治療技術の臨床応用である。
最新の治療技術:
PRP療法は、患者自身の血小板を濃縮して患部に注入することで、組織修復を促進する再生医療技術である。慢性的な腱損傷や靭帯損傷に対して、従来の治療法では改善困難な症例でも良好な結果が報告されている。
LIPUS治療は、骨折治癒の促進効果が証明されており、剥離骨折を伴う突き指においても治癒期間の短縮が期待される。特に、偽関節や遷延治癒例での有効性が示されている。
治療選択のアルゴリズム:
治療効果の判定には、疼痛スケール(VAS)、関節可動域測定、握力測定に加え、DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand)スコアなどの機能評価尺度を用いることが推奨される。
これらの客観的評価により、治療効果を定量的に評価し、治療方針の修正や職業復帰時期の決定を行うことが可能となる。また、患者への説明においても、数値による改善度の提示は治療継続のモチベーション維持に有効である。
医療従事者向けの診断および治療に関する詳細情報については、日本整形外科学会の診療ガイドラインを参照されたい。