偽関節の症状と診断から治療まで

骨折後に骨が癒合せず関節のように動く偽関節は、痛みや機能障害をもたらす重篤な合併症です。早期発見と適切な治療が重要ですが、あなたは偽関節の特徴的な症状を正しく理解していますか?

偽関節の症状と診断

偽関節の主な特徴
🦴
異常可動性

本来関節ではない骨折部が関節のように動く状態

持続する痛み

骨折部を動かすたびに鈍い痛みが続く

📉
機能障害

患部の支持性低下や運動制限が生じる

偽関節の定義と発生メカニズム

 

偽関節とは、骨折後に骨癒合プロセスが完全に停止し、本来関節でない部分が関節のように動くようになった状態を指します。骨折部の骨片と骨片の間が結合組織で埋められ、異常可動性が認められることが特徴です。
参考)交通事故で骨折し偽関節に。後遺障害はどうなる?

骨折した場所の不安定性、骨の血行不良、骨癒合の初期段階で形成される血腫の流出、糖尿病などの疾患が原因で発生します。特に長管骨(上肢では上腕骨・橈骨・尺骨、下肢では大腿骨・脛骨・腓骨)で生じやすく、開放骨折や手術後の感染が原因となる感染性偽関節も存在します。
参考)偽関節 - Wikipedia

一般的に骨折から6か月近く経過しても骨折部分にずれがあり、異常可動性が明らかな場合は偽関節と診断され、外科手術の対象となることが多いです。​

偽関節の特徴的な症状

偽関節の最も特徴的な症状は、骨折部の持続的な痛みです。急性期のような激しい痛みではありませんが、骨を動かすたびに鈍い痛みが続きます。手の舟状骨が偽関節になると「手をつくと手首が痛い」という典型的な症状が現れ、手首の親指側に痛みが出ます。
参考)舟状骨骨折・偽関節|S-HANDクリニック 埼玉県さいたま市…

脊椎圧迫骨折の偽関節では、腰痛が長引くだけでなく下肢痛やしびれ、麻痺、排尿障害などの神経症状を生じることもあります。腰椎分離症による偽関節では、狭い範囲にズキッと響く痛みが特徴的で、長時間座っていたり立っていたり歩行時に坐骨神経痛が出現することがあります。
参考)圧迫骨折と偽関節

下肢の偽関節では痛みのために体重をかけることができず、装具なしでは歩行困難となるケースも多く、日常生活に大きな支障をきたします。
参考)偽関節・遷延治癒の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医…

偽関節の画像診断方法

偽関節の診断には単純X線検査(レントゲン)が基本となります。X線検査では骨癒合の中断、線状透亮像、骨端の硬化などの所見が確認されますが、2次元画像であるため偽関節部の評価が十分にできない症例も多いです。
参考)偽関節の医師意見書で後遺障害認定は覆せる!活用法も解説|交通…

より正確な診断のためにはCT検査が必須です。CT検査は3D画像に再構成することが可能で、任意の断面で骨折部を観察できるため、骨折部の偽腔の形成や椎体壁の破壊の程度を詳細に確認できます。舟状骨骨折のように、レントゲンでは骨折がはっきりしない場合でも、CTでは明確に偽関節を確認できます。​
MRI検査は骨折に加えて脊髄・馬尾神経への圧迫の有無を評価するのに有用で、骨片の血行障害(壊死)の有無も判定できます。受傷後3か月や6か月といった区切りの時期には、これらの画像検査を実施して骨折部の状態を正確に判断することが重要です。
参考)圧迫骨折と偽関節(ぎかんせつ)|脊椎手術.com

偽関節の分類と臨床的意義

偽関節は形態学的に増殖性偽関節(hypertrophic nonunion)と萎縮性偽関節(atrophic nonunion)に分類されます。圧縮・引張力に対する不安定性は増殖性偽関節の原因であり、剪断力に対する不安定性と生物活性の欠如は萎縮性偽関節の原因です。
参考)偽関節の定義・原因・分類・診断 (関節外科 基礎と臨床 42…

可動性の有無による分類も重要で、可動性のある偽関節は機能障害が重度であるため後遺障害等級7級や8級に認定される可能性があります。一方、可動性のない偽関節は痛みが中心となり、12級に認定される可能性があります。​
偽関節に対して、骨癒合プロセスが遅れているが停止していない状態を遷延治癒(delayed union)と呼び、偽関節とは区別されます。遷延治癒では骨癒合の過程が完全には停止していないため、治療方針が異なります。
参考)偽関節・遷延治癒

偽関節患者における意外な臨床所見

興味深いことに、大腿骨頸部骨折の偽関節患者があまり疼痛を自覚せずに自立歩行できる症例が報告されています。これは偽関節部に修復瘢痕組織が形成・増殖することで形状的な安定性を獲得し、荷重時にも下肢の安定した支持性を持つようになるためと考えられています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/26/2/26_2_309/_pdf

上腕骨近位端骨折偽関節の機能予後に関する研究では、JOAスコアの得点率を分析すると、疼痛(62%)より機能(38%)・可動域(32%)障害が強い傾向が示されています。これは偽関節が痛みだけでなく、むしろ機能障害や可動域制限をより強く引き起こすことを示唆しており、臨床的に重要な知見です。
参考)上腕骨近位端骨折偽関節の治療経験

舟状骨骨折は「見逃されやすい」「骨がつきにくい」「放置されやすい」という3つの特徴があります。レントゲンで骨折がはっきりせず捻挫と誤診されることが多く、特殊な血行のため偽関節になりやすいという特性を持ちます。手をつかなければ痛みがなかったり腫れが少ないため病院を受診せず、放置されるとほとんどのケースで偽関節となります。​

偽関節の治療と予後

偽関節の保存的治療アプローチ

偽関節の保存的治療としては、まずコルセットなどの外固定と骨粗鬆症に対する薬物療法が行われます。脊椎圧迫骨折による偽関節では、コルセット装着を2〜3か月継続することで、一部の症例では骨癒合が得られる可能性があります。​
電気刺激により癒合を促す保存療法も選択肢の一つです。これは骨折部に電気刺激を与えることで骨形成を促進する治療法で、手術を避けたい症例や全身状態により手術が困難な症例に適用されることがあります。
参考)下肢の偽関節による後遺障害

ただし、保存療法で痛みが改善しない場合、麻痺や排尿障害を伴う場合は手術療法が必要となります。早期より偽関節の安定性獲得を目的とした理学療法を行うことで、痛みの軽減とともに機能性の向上が効果的になると考えられています。​

偽関節に対する手術治療の選択肢

偽関節の手術治療には複数の方法があります。最も一般的なのは自家骨移植術で、本人の骨盤や脛骨・大腿骨などから骨を採取して偽関節部に移植する方法です。骨欠損が大きい場合は腸骨から、小さい場合には手関節から採骨します。
参考)偽関節と後遺障害について - 弁護士法人ALGhref="https://www.hughesluce.com/koui-shougai/gikansetsu/" target="_blank">https://www.hughesluce.com/koui-shougai/gikansetsu/amp;Associ…

プレートや髄内釘による再固定術も広く行われており、空洞になっている骨の中に髄内釘(ネイル)と呼ばれるインプラントを入れて固定します。舟状骨骨折ではスクリュー固定術が選択され、転位が少ない場合は創が5mm程度の低侵襲手術が可能です。​
偽関節部の粉砕術は、小さく切開した皮膚から偽関節部を骨ノミで砕いて新鮮化し、治癒を促進する治療法です。この方法では変形の矯正も同時に可能で、比較的手術侵襲が少ないという利点があります。
参考)難治骨折診|帝京大学医学部 整形外科学講座

骨切りを用いた偽関節手術に関する論文(日本整形外科学会誌)では、骨切りのみで肉芽組織の掻爬や骨移植を行わない低侵襲な治療法が報告されています。

感染性偽関節の特殊な治療戦略

感染性偽関節では、感染巣の鎮静化が最初のステップとなります。感染組織や血行のない組織を大量に切除する必要があり、感染が鎮静化した後に巨大な骨欠損を再建しなければなりません。​
巨大骨欠損(5cm以上の骨欠損)を再建する方法として、Ilizarov法、血管柄付き骨移植術、Masquelet法の3つがあります。Masquelet法は、感染巣の広範囲切除後に骨欠損部に骨セメントを留置し(第1段階)、6〜8週間後に自家骨移植術を行う(第2段階)治療法です。​
自家骨移植の採骨量を減らすために、髄内釘と人工骨(β-TCP)の併用を行う方法も開発されており、平均5〜6cm(最大で23cm)の骨欠損に対して骨癒合までの期間は6〜9か月と良好な成績が報告されています。​
MRSA感染による鎖骨骨幹部偽関節の症例報告(西日本整形・災害外科学会雑誌)では、感染性偽関節の診断と治療における詳細な考察がなされています。

脊椎圧迫骨折偽関節の特異的治療

脊椎圧迫骨折による偽関節の治療には、経皮的椎体形成術(BKP)と脊椎後方固定術があります。BKPは骨セメントを骨折部に注入・充填する方法で、レントゲン透視下に1時間以内の手術時間で実施でき、入院期間は数日程度です。​
椎体前壁が粉砕し骨セメントが漏れ出すタイプでは、スクリューを骨折部位の上下に挿入して安定化させる脊椎後方固定術を行います。手術時間は2時間以内で、入院期間は1〜2週間程度です。​
下肢の痛みやしびれ、麻痺、排尿障害などの神経症状を伴う場合には、偽関節部の椎弓を切除し神経への圧迫を取り除く後方除圧術を追加します。手術後は約1〜3か月間コルセットを装着し、骨粗鬆症の治療も並行して行います。​

偽関節治療後の予後と長期経過

舟状骨偽関節の手術後は3〜4週程度の外固定(ギプス)を行い、その後より徐々に動かします。多くは手術後2〜3か月ほどで骨がつきますが、さらに時間がかかる場合もあります。転位がほとんどない骨折の場合、手術後1〜2週でスポーツ復帰可能となり、原則としてスクリューの抜去は不要です。​
再手術後も骨癒合しなければ、偽関節として後遺障害に認定されます。一方、再手術で骨癒合したら、偽関節としては非該当になります。骨移植やプレート固定などの再手術を行った場合でも、骨癒合の有無が最終的な評価の基準となります。​
手の舟状骨が偽関節になると、長い年月をかけて手関節の動きが悪くなっていき、最終的には手関節機能が廃絶する可能性があるため、早期の適切な治療が極めて重要です。偽関節を放置すると持続的な痛みや腫れ、患部の変形、機能障害などが生じ、治療がより困難になる場合もあります。
参考)長管骨の変形障害が後遺障害認定されるポイント|交通事故の医療…

 

 


偽関節と変形治癒骨折 (整形外科MOOK No. 22)