関節可動域(Range of Motion:ROM)測定は、関節が正常に動く範囲を角度で表現し、機能障害の程度を客観的に評価する重要な検査法です 。2022年4月に改訂された日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会による測定基準では、障害部位の把握、治療計画の立案、効果判定を主な目的としています 。
参考)関節可動域(ROM)とは
測定の主要目的として、①障害部位およびその程度の把握、②end feelを用いた関節可動域制限因子の推定、③リハビリテーション計画立案のための基本情報、④治療の効果判定があります 。特にリハビリテーション領域では、治療前後の可動域変化を数値化することで、介入の有効性を客観的に評価できます。
参考)関節可動域測定の意義
日本リハビリテーション医学会の調査によると、健常者でも参考可動域の最大値まで動かすことは困難であり、年齢とともに関節可動域は低下していくことが明らかになっています 。これは臨床現場での治療目標設定において重要な指標となります。
参考)皆さんの肩はどのくらい動きますか?
関節可動域測定には、ゴニオメーター(角度計)が標準的な測定器具として使用されます 。測定精度を保つため、基本軸と移動軸の正確な設定が重要であり、関節や測定部位に応じて適切なゴニオメーターを選択する必要があります。
参考)(1)関節可動域の測定方法(概論)
測定手順として、①対象者の準備と測定箇所の露出、②基本軸の設定(基準となる軸で測定時に動かさない)、③移動軸の合わせ方(測定時に移動させる軸)、④結果の5°刻みでの表記が基本となります 。特に多関節筋が関与する運動では、その影響を除いた肢位での測定が原則とされています。
参考)ゴニオメーターの正しい測定方法とは?よくある悩みと解決策を徹…
近年では、従来のゴニオメーターに加えて、ワイヤレス慣性測定ユニット(IMU)や写真撮影による測定法も開発されており、測定者間誤差の軽減と効率化が図られています 。これらの新技術は、従来法との高い相関性を示しており、臨床現場での応用が期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4447686/
参考可動域は、健常者約300名を対象とした調査データに基づいて設定されており、人種、性別、年齢による個人差が大きいことが知られています 。例えば、肩関節の屈曲では男性159.9-161.5°、女性151.7-158.5°と性差があり、年齢が高くなるにつれて可動域は低下します 。
参考)股関節の可動域について - 刊行紙のご案内
股関節の正常可動域として、屈曲132°、伸展15°、外転47°、内転22°、外旋45°、内旋40°が参考値とされていますが、これらは平均値であり、個人差による変動を考慮する必要があります 。臨床では、健側との比較や年齢・性別を考慮した評価が重要となります。
関節可動域制限の発生要因として、年齢、罹患期間、日常生活動作能力、麻痺・痙縮、疼痛、浮腫などがあり、これらの多くは「不動」による影響が共通しています 。このため、予防的な観点から早期の可動域維持訓練の重要性が強調されています。
参考)関節可動域制限について
関節可動域制限は、関節構成体に原因のある「強直」と関節周囲軟部組織に原因のある「拘縮」に分類されます 。強直に対しては観血的治療や代償動作の獲得が主体となり、拘縮に対しては理学療法による改善が期待されます。
可動域制限の発生メカニズムとして、長期間の不動により関節包や靭帯の短縮、筋肉の線維化、関節軟骨の変性が生じることが知られています 。特にデスクワークなどで長時間同じ姿勢を続けることは、股関節周辺の筋緊張と血行不良を招き、関節の動きを悪化させる要因となります。
参考)股関節の可動域制限を伴う症状への対処法 - 足立慶友整形外科
治療においては、疼痛の管理と段階的な可動域訓練が重要であり、Fear avoidance modelに基づく運動恐怖感の軽減も必要です 。術後例では、術後1ヶ月の可動域が3ヶ月後の結果を予測する重要な指標となるため、早期からの積極的な介入が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/12/2/12_98/_pdf
関節可動域測定データは、限界復帰分析や重回帰分析などの統計学的手法を用いて、治療効果の予測や機能改善の要因分析に活用されています 。特にスポーツ医学領域では、Foot and Ankle Ability Measure(FAAM)などの機能評価指標と可動域データを組み合わせることで、競技復帰の適切な判定が可能となります。
参考)https://www.rinspo.jp/journal/2020/files/30-2/357-364.pdf
足関節内反捻挫後の競技復帰では、母趾壁距離、動的バランス能力、足関節背屈可動域が重要な評価項目として抽出されており、これらの組み合わせにより80%以上のFAAMスコア達成を予測できることが報告されています 。このような多変量解析により、個別化された治療戦略の構築が可能になります。
人工関節置換術後の可動域評価では、術前の関節状態とリハビリテーションの実施状況により回復可能な可動域に個人差があることが確認されています 。統計学的データに基づく予後予測は、患者・家族への適切な説明と現実的な目標設定に重要な役割を果たしています。
参考)人工関節の可動域とは?人工関節の手術で改善できる関節の動きを…