トリテルペンとステロイドの違いを分子構造から解説

同じ前駆体から生成されるトリテルペンとステロイドですが、化学構造や生体機能にどのような違いがあるのでしょうか。医療従事者が知っておくべき両者の相違点を詳しく説明していますが、その詳細を知りたくありませんか?

トリテルペンとステロイドの違い

トリテルペンとステロイドの基本的な違い
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分子構造の違い

トリテルペンはC30H48の分子式、ステロイドはC21-C27の炭素数

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生合成経路の共通点

両者ともスクアレンを共通前駆体とする環化反応から生成

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薬理学的機能

ステロイドはホルモン作用、トリテルペンはサポニン様の生理活性

トリテルペンの基本的な化学構造と特徴

トリテルペンは6つのイソプレン単位(C5H8)から構成される天然化合物で、分子式C30H48を持つテルペンの一種です 。イソプレンの3単位が二重に結合した構造を持つため「ダブルユニット構造」と呼ばれ、動物、植物、菌類すべてで生産されています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%9A%E3%83%B3

 

トリテルペンの構造的特徴として、存在する環の数によって0環から6環までの多様な骨格を持つことが挙げられます 。代表的な構造には以下があります:


  • 非環式:スクアレン(0環)

  • 三環式:アンブレイン

  • 四環式:ラノスタン、ククルビタシン

  • 五環式:ホパン、オレアナン、ウルソール酸

一般的には五環構造が優勢で、200種類近い骨格が確認されており、その多様性は医薬品開発の重要な候補化合物群となっています 。

ステロイドの分子構造と分類システム

ステロイドは、シクロペンタノペルヒドロフェナントレン(ステラン)を基本骨格とする天然のトリテルペノイドの一種です 。4つの縮合環(3つのイス型六員環と1つの五員環)からなる特徴的な構造を持ちます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89

 

側鎖などによって以下の5つのグループに分類されます :


  • コレスタン(cholestane):コレステロール系化合物

  • コラン(cholane):胆汁酸系化合物

  • プレグナン(pregnane):副腎皮質ホルモン系

  • アンドロスタン(androstane):男性ホルモン系

  • エストラン(estrane):女性ホルモン系

構造上の特徴として、C-10とC-13にメチル基を、多くの場合C-17にアルキル基を有し、ステロイド骨格そのものは脂溶性(疎水性)ですが、ヒドロキシル基やカルボニル基の付加により水溶性を獲得します 。

スクアレンを起点とした生合成経路の相違

トリテルペンとステロイドは、共通の前駆体であるスクアレンから生合成されますが、その後の経路に重要な違いがあります 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/post-30.html

 

共通の生合成開始段階
参考)https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0111_00049.html

 


  • C5のイソプレン単位(ジメチルアリル二リン酸とイソペンテニル二リン酸)から開始

  • ファルネシル二リン酸(C15)が2量化してスクアレン(C30)を形成

  • スクアレンが酸素とNADPHにより2,3-オキシドスクアレンに酸化

環化反応での分岐
オキシドスクアレンが環化反応の前駆体となり、この環化の方法によってステロイドとトリテルペンに分かれます。
ステロイド経路

トリテルペン経路


  • Chair-chair-chair-boatの配列から閉環してダンマラン型

  • Chair-chair-chair-chair-chairの配列からホパン型

  • オレアナン、ルパン、ウルサンなど多様な五環構造を形成

トリテルペンサポニンの薬理作用機序

トリテルペン系化合物の中でも特に重要なのが、糖が結合したサポニン化合物群です。これらは植物の自己防衛機構の一部として産生され、多彩な薬理活性を示します 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89

 

代表的なトリテルペンサポニン


  • ジンセノサイド類:オタネニンジン中の主要成分

  • グリチルリチン:甘草由来の抗炎症成分

  • サイコサポニン類:柴胡由来の肝保護成分

薬理作用の特徴


  • 抗酸化作用:体内の抗酸化酵素を増加させ、フリーラジカルを捕捉

  • 細胞膜相互作用:両親媒性分子として細胞膜の性質を変化

  • ステロイド受容体への作用:一部がパーシャルアゴニストとして機能

  • 抗がん作用:Rg3やRh2は培養細胞でがん細胞の成長を阻害

興味深いことに、ジンセノサイドにはプロトパナキサジオール類(中枢抑制作用)とプロトパナキサトリオール類(中枢興奮作用)の相反する作用を持つ化合物が存在し、これが「万能薬」としての効果を生み出していると考えられています 。
参考)https://www.medicalherb.or.jp/archives/263840

 

ステロイドホルモンの特異的作用機構

ステロイドホルモンは、コレステロールを骨格とする脂溶性ホルモンで、細胞膜を通過して核内受容体に作用する独特な機序を持ちます 。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/2350/

 

主要なステロイドホルモン分類

作用機構の特徴


  • 脂溶性により細胞膜を自由に通過

  • 核内受容体または細胞質受容体に結合

  • 遺伝子発現の調節を通じて効果を発揮

  • 長時間持続する生物学的効果

特に胆汁酸では、ステロイド骨格の疎水性とヒドロキシ基・カルボキシル基の親水性を組み合わせた両親媒性により、脂質の乳化と消化吸収を促進する特殊な機能を持っています 。
医療従事者として理解しておくべき点は、ステロイドホルモンの生合成がプレグネノロンへの変換を律速段階とすることで、多くのステロイドホルモン刺激ホルモンがこの過程を調節している事実です 。